少年期[269]ダンジョン内での報告

ゼルートの命令で錬金獣は気絶しているローガスに攻撃を加える。


魔力を纏っておらず。技を使ってもいない。

だが無防備なローガスを殺すのに素の一撃で十分とゼルートは判断する。


結果はゼルートの判断通り、素の一撃でローガスの上半身は無くなってしまった。


(・・・・・・もし、俺の様に来世? に似たような展開があれば、その時はどんな身分で生まれようとも人を見下す様な事はするなよ)


自分の様に全く違う世界に転生する。もしくはこれから数十年後、数百年後にもう一度この世界で生きる事になるかもしれない。

自己中な人間ではあった、しかし自分以外の人間の事を考えられない人間では無かった。


もしローガスに次の人生があれば、その部分を大事にして欲しいとゼルートは願う。


そしてローガスの処刑が終わった事をセフィーレに伝え、オーガジェネラルの死体とボスを倒した事で出現した宝箱。そしてローガスが使っていた槍をアイテムバッグの中にしまい込む。


「ゼルート、私としては宝箱は特に重要ではない。だから報酬のついでと言って聞こえが悪いかもしれないが、是非貰って欲しい。勿論今回の報酬とは別に、ローガスがゼルートに迷惑をかけた分の謝礼も払う」


「そう、ですね・・・・・・分かりました。宝箱は自分が貰います」


階層が三十階層のボス部屋で出現する宝箱ともなれば、自分が望むような武器や道具がもしかしたら手に入るかもしれないと思い、ゼルートは自身のアイテムバッグに宝箱をしまった。


そして地面から現れた緑色に輝く石柱・・・・・・転移柱にゼルート達は手を触れ、地上へと帰還した。




地上へと戻ったゼルート達は体を休める前にギルドへ向かった。

目的を達成したので近いうちに街から去る事と、ダンジョン内でボス戦の前に順番を変われと賄賂を渡してきた冒険者の事を伝える為にギルドの中へ入るとギルドマスターが対応する事になった。


セフィーレから目的の達成報告を聞いたギルドマスターは安堵の表情を浮かべたが、次のセフィーレからの報告を聞いたギルドマスターの表情は真っ青になる。


「ボスに挑む順番が私達に番になった時、一つのパーティーが私達に順番を変われと申し出て来た。勿論こちらは拒否したが、少し金を床に放り投げて順番を変われと再度申してきた。私は程度によるが無礼な冒険者に対して、直ぐに切り殺す様な事はしない。ただ他の貴族がどうなのかは知らない。他の街から来た貴族ともめ事になりたくなければその辺りを冒険者達に忠告しておいた方が良いかと私は思う」


セフィーレ達に賄賂を渡して交渉しようとした冒険者の特徴を聞き終えたギルドマスターは、その冒険者達にどういった処罰を与えるのかを伝えてから何度も頭を下げて謝罪した。


その姿を見たゼルートは少しだけ可哀想に思えなくも無かった。


(自分が管理する街で冒険者が問題を起こした場合、最終的に責任がギルドマスターに行く事は珍しく無いだろうな。それに冒険者が迷惑をかけた相手が貴族となればギルドマスターの首が飛ぶ可能性だってある。役職が上だとしても良い事ばかりでは無いって見本だな)


そうしてセフィーレとギルドマスターの話し合いが終わった後、ゼルートはギルドマスターに呼び留められて部屋に残った。


「ゼルート君だったな。今回の護衛依頼で無事セフィーレ様の目的達成のサポートをし、地上へ帰還してくれた事に感謝する」


「えっと、俺としては冒険者として当たり前の事を下だけなんで、頭を上げてください」


ギルドマスターから頭を下げられたゼルートは慌てて頭を上げる様に伝える。


「いや、ダンジョンへ挑む事は確かに自己責任ではあるのだが、それでもセフィーレ様がもしダンジョンで亡くなってしまわれたら・・・・・・その」


「ギルドマスターの首が飛ぶって事ですか?」


「うむ、よく分かっているな。正直今回はアゼレード公爵家が君に護衛依頼をした形だから正確に言えばギルドに非は無いのだが、世の中そうはいかなくてな。君も貴族の子息なら分かるだろ」


ギルドマスターの言葉にゼルートは多少驚きはしたものの、何故バーコスのギルドマスターが自分が貴族の子息であると知っているのか予想が付いた。


(遠く離れた人と通信が取れるマジックアイテムがあっても可笑しくはない。それであのエルフのギルドマスターから俺の事を聞いたのかもしれないな)


ただ、自分の素性が知れたところで問題ないと判断したゼルートはそのまま会話を続ける。


「ええ何となくですが。あっ、あの・・・・・・迷宮内で起こった事なんですけど・・・・・・」


ゼルートがダンジョン内で自分達を襲おうとした蛮族冒険者とその腰巾着の話を聞いたギルドマスターは額に手を当て、大きなため息を吐いて項垂れてしまった。

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