少年期[216]ただってわけにはな

今、目の前の仲間がどういった状況になっているのかを理解したパーティーリーダーの男は、慌ててゼルートに謝罪した。


「す、すまない! 君と敵対するつもりはないんだ。だ、だからその剣を下ろしてくれないか」


パーティーリーダーの男が頭を下げると、後ろにいた三人も直ぐに頭を下げた。


ゼルートはただの威嚇行動だったので、直ぐにロングソードの剣先を自身の胸倉を掴もうとしてきた男の喉から離した。

男からロングソードを離したゼルートを見た後ろのパーティーメンバーは、安堵しホッと一息ついた。


五人組の冒険者達は、相手の動きを見て力量が分からないほど経験がない訳ではないので、ゼルートのほんの少しの動きで自分達が敵わないことが直ぐに分かった。


特に、ゼルートに剣先を喉に突き付けられた男は自分の喉をロングソードが貫いた錯覚を見て、震えが止まらずにいた。


「まぁ、それならいいんだけどさ。でも、ここはダンジョンの中なんだから、あまり他の冒険者に対して不快に思われる態度は取らない方が良いと思いますよ。基本的にダンジョン内で殺されたら証拠は残らないんですから」


ダンジョンに潜る冒険者にとって、常識とも言えることを聞かされた五人組は、もうゼルートの事がただの子供には見えなくなっていた。


「それと・・・・・・アドバイスって訳じゃないですけど、あんまり見た目で相手の実力を決めつけない方が良いですよ。常識に囚われていたら、命を落とす確率が高くなりますし」


「そ、そうかもしれないね。君を見て、よく理解出来たよ」


五人組は、ゼルートに殺されたかもしれない、もしかしたらを想像し、大きく身震いをした。


「そうですか、それは良かったです。それで、飯を譲ってくれないかって相談でしたね」


「あ、ああ。出来ればお願いしたいんだ・・・・・・頼めるかな?」


パーティーのリーダーの男は、先程のゼルートの行動もあって、さっきより遠慮気味で聞いてきた。

もう一度、飯を譲ってくれないかと頼まれたゼルートは、少し考え込んだ。


(まぁ、譲っても良いっちゃ良いんだけどな。新人は別だけどこういった冒険者になって数年、ベテランって人達にただで驕るのはな・・・・・・後で面倒な噂がたちそうだからな。あいつに頼めば無料で料理を出してくれるみたいな。取りあえず無料で渡すのは無しだな)


考えた結果、ゼルートは五人から何かしら金になりそうな物等を貰うことにした。


「悪いけど、ただってわけにはいかない。それくらいは冒険者なら解るよな。何か等価交換出来る物はあるか?」


五人の冒険者は、少しの間話し合いゼルートに魔石と指輪を差し出した。


「この魔石はロックサーペントだ。それでこっちの指輪は宝箱の中に入っていたマジックアイテムだ。悪いが鑑定持ちがいなくて性能は分からないが、決して悪い物ではない筈だ。これでどうかな」


差し出された魔石と指輪のマジックアイテムをゼルートは、直ぐに鑑定眼を使って本物かどうか確認した。


(・・・・・・魔石の方は本物だ。指輪の方は・・・・・・魔法の威力を一割上昇、時間十分。回数は一日三回か。悪くはない。俺の場合はたかが一割ってバカに出来ないな。アレナの渡しても良いし、使い道はありそうだな)


差し出された魔石と、指輪のマジックアイテムを受け取ったゼルートは、アイテムボックスの中から五人分の料理と飲み物を取り出した。

その時にアイテムボックスの中から、料理が出てきたことにも驚いていたが、料理から湯気が出ていたことにさらに驚いた顔をしていた。


ゼルートは五人の冒険者に出来れば言いふらさないで欲しいと伝えると、五人はもの凄い勢いで頭を上下に振った。

料理とモい物を受け取り、礼をした後五人は、ゼルートにもの凄く感謝しながら、自分達が野営する場所を探しに向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る