最終話~クライマックス(1)~

GM:春見の特殊リソースの制限回数だが……約束の瞳にレネゲイドは充填された。それによって一度のみ《スターダストレイン》を使用できる事としよう。

 また本来あるべき形の”約束の瞳”なので視力についてもデメリットはないものとする。

春見:なんだろう、最終決戦仕様みたいだね。

影裏:熱いな、いいぞ。



 そこは、未来のアダムカドモン研究施設だった。空気は淀み、レネゲイド濃度も現代より高い。現代の知識では周囲にある設備が何をするための物かは分からないが、乾いた血痕がそこかしこに見受けられる。

 小さな嵌め込み式の窓外には海が広がり、微かに波音も聞こえるかもしれない。


 この場所こそ、奏 時貞が非道な研究によって生み出された場所に他ならない。

 ガイアの記憶で見た影裏と、そのレネゲイドを受けた春見はその事を知っている。


 しかし周囲に人影は見えず、時間跳躍直後に戦闘開始、という事態はひとまず避けられたようだ。

 影裏は周囲に視線を走らせながら訊ねる。


影裏:「……ついにここまで来たな。全員、何か異常はないか?」


 京香とプランナーは首を振る。異常は見つからないようだ。


春見:「眼に付く範囲は大丈夫みたい。あと……結理君」


 右側に立つ彼の顔を見上げる。噛み締めるように、一拍置いて。


「──ありがと」


 太陽を思わせる笑みを浮かべお礼を口にした。

 影裏もまた、不器用に笑ってみせる。


影裏:「──こっちの台詞セリフだ」


 二人にとっては、それだけで充分だった。



 その場の全員が笑顔を浮かべた時。その男は悠々と歩いて出てきた。


奏:「まさか、この時代までわざわざ殺されに来てくれるなんて。君たちは本当に殊勝だね。そうだ、ひとつプレゼントを贈ろうか。受け取るといい」


 片手で放り捨てられたのは人影──及川だった。


影裏:「っ、桃矢……!」


 倒れ込む桃矢を急ぎ支える。


及川:「結理か。……よく、来てくれたな」

影裏:「何言ってんだ、お前らのおかげだろ……! 待たせたな」

及川:「ああ──待ってたぞ」

春見:「及川君、大丈夫?」

及川:「大丈夫だ、春見。お前たちがいる限り、まだ立てる……戦えるさ」

プランナー:「……謝らない。謝っちゃ、いけないから」

春見:「都築さん……」


 立ち上がる。身体の傷は深いが、精神が彼を奮い立たせている──そんな印象を受けるだろう。


奏:「どうしたんだい、感動の再会だろう? もっと嬉しそうにすればいいじゃないか」


 傷付いた及川と、自責の念を感じるプランナーに一瞬目を伏せるも、春見は射貫くような視線を奏へ向け直す。


春見:「それは全部終わって、皆で歩き始めてからする事にします」

奏:「へぇ? でもね、君には心底ガッカリしてるんだ、佐倉 春見」

春見:「……」

奏:「せっかく直々に忠告しに行ったのに。わざわざ殺されるためにここまで来た」

春見:「それは簡単な話ですよ」

奏:「聞いてみたいなぁ、忠告を無視するほどの簡単な話とやらをさ」


 歪んだ口で愉しそうに訊ねる奏に、春見は怯む事などない。


春見:「私の居場所はここだから。裏切る必要性も、意味も、感じないから」


 それどころか、春見は問い返す。


春見:「むしろ私が不思議です。何故、貴方はわざわざ危険を冒してまで私に忠告しに来たのか」


 問いかけに、歪んでいた顔が無表情に変貌かわる。


奏:「ただの同情だよ。力だけを求められた存在は、その力だけしか見られない。

 なら──君が辿る道は、僕と同じ筈だ。その未来を僕は知っている」


「佐倉 春見。君と話すのはこれが最後かもしれない。だからもう一度忠告しよう」



「君は、大切だった人を……友人たちを裏切るべきだ。君が行き着く末路を、私は……僕だけは知っているのだから」



春見:「…………」


 数秒、春見は眼を閉じて瞑想した後に。


「──可哀想な人」


 彼と対に位置する魔眼を起動する。


奏:「──なんだって?」


 奏の左眼、魔眼がゆらりと揺れる。


奏:「君だって同じだろう。似た能力、似た境遇。君は僕と酷似している。そうだろう?」

春見:「確かに私は予言の子として鍛え上げられ、衰弱するほどに苦しい訓練を受けさせられてきた。それこそ、プランの要として」


 春見が見やると、京香は罪悪感からか目を伏せた。


奏:「ならやはり、裏切るべきだ。君は力だけを──」

春見:「いいえ」


 短い、ハッキリとした否定の言葉。


春見:「もし能力だけが目当てなら、恋敵だった私を蘇らせる理由はない。だから──」



「決して力だけを求められたわけじゃない。私は、私自身を求められた結果ここにいるの」 


奏:「そんな、そんな事、あり得ない。誰でも良かったんだ、そうだ、そうなんだろう!?」

春見:「なら、その言葉をそのままお返ししましょう」


 深呼吸して、真っ直ぐ彼の眼を視て言い放つ。


春見:「なら私じゃなくたって、誰でも良かった筈でしょう?」



「貴方は寂しかったんです。力だけを求められて生まれ、誰にも理解されず、誰もが敵に回る中で見つけてしまった」


「自分と似た能力を持つ、私という存在を」



奏:「違う……違うチガウ違う違うチガウ……! 僕は、独りでいいんだ」

春見:「嘘」


 真っ直ぐな瞳で突き付ける。


春見:「だって分かってしまうんです。貴方と私はよく似ているから。

 本当、私とよく似ている。立場が、環境が違えば逆だったのかもしれません」


「だから言ったんです──可哀想な人って」


奏:「チガウッ! お前と僕は、まるで違う! 似ていたと思った僕が間違っていたんだ。

 そうだ、イレギュラーの存在があったから……お前が全てを狂わせたッ!」

影裏:「……そうだな。ある意味ではお前の言う通りだ、奏 時貞。

 春見はお前とは違う。その決定的な差が分かるか」

奏:「ただの、偶然に過ぎなかった筈だ……!」


 苦しげに答える奏に、影裏もまた突き付ける。


影裏:「偶然? いいや違うな。俺たちがここに立つのは必然だ。教えてやるよ、奏 時貞」



「自分の未来を諦めたお前は、決して抗う事を諦めなかった春見とは──まるで違う」



影裏:「お前の始まりを見た。言っていたな、”君になりたい”と」


「あの瞬間、自分自身である事を諦めたお前は……未来を、捨てちまったんだ」


奏:「──その言葉。まさか、お前が……!」

影裏:「再会の挨拶がまだだったか」


「”久しぶりだな、奏 時貞”」


奏:「最初からこの未来が確定していたとでも言いたいのか、亡霊イレギュラーッ!

影裏:「いいや。それは違う。捉え方が逆なんだよ、奏 時貞」


「未来がたとえどんな形だろうと。時がどれだけ捻じ曲げられようと──」


 春見、京香たち、桃矢を見回す。


「こいつらがいる限り、俺はそこにいる。ただそれだけだ」


奏:「矛盾だ。破綻だ。それは詭弁の筈だろう!

 そうだ、お前がいる筈が無いんだ。お前がいる理由。時の矛盾点……」


 徐々に、奏 時貞の左眼へ光が集まっていく。


奏:「その”記憶”全てを、僕に寄越せ……イレギュラーッ!」



 このまま奏 時貞の魔眼を受けた場合、影裏の全ての記憶は引き抜かれ、抹消される。

 それはつまり絆を失う事となるため、全てのロイスがタイタス化されてしまう。

 これを防ぐために、ひとつの判定を挟みます。



 判定項目:魔眼を相殺せよ

 <RC> 40

 成功時は「ガイアの記憶だけが引き抜かれる」

 失敗時は「全てのロイスがタイタス化する」

 ※春見のみ突破可能。また、先に行なった影裏の判定達成値を上乗せして良い。

 ※エフェクト使用可能。



影裏:高い……が、ここで失敗する訳にはいかん。判定──達成値、28!

春見:それじゃあ私も判定行くね──達成値、17!

GM:合計で45……成功だ!



 奏 時貞の左眼から光が迸る。

 これを防げるのは、似た能力を持つ春見と、対象となっている影裏だけだ。


影裏:「ッ……!」


 魔眼に射貫かれ、記憶への介入が始まる。


奏:「視せろ、寄越せ、消えろ! その記憶ッ!」

影裏:「ぐ、あ……ッ」


 奏 時貞の意識が影裏に流れ込み、脳裏を掻き乱す。

 魔眼の力は奥深くへと雪崩込み、その人生、想いの全てを喰らい尽くそうとしてくる。

 しかし──!


影裏:「やらせ、る、か──!」


 介入を、拒絶する。影裏の心を守る、強い、強い想い。


 桃矢との記憶。

 京香との記憶。

 春見との記憶。


 大切な人が浮かべた──太陽のような笑顔。


 全ての思い出が、絆が、奏 時貞の介入を瀬戸際で押し留める。

 その手には、春見から贈られた懐中時計が──皆の笑顔が握られていた──!


春見:「結理君ッ!」


 即座に魔眼を起動させ、彼の介入に割って入る。


春見:「やらせない……! 貴方がいくら彼から記憶を奪おうとも、私が愛する人は、ただこの人だけ!」


 出力が完全に戻った魔眼で、影裏の瞳を視る。


春見:「奏 時貞。貴方は決して、彼にも、彼女にもなれないっ!」


 苦悶の表情に歪む結理君の頭を両手で抱きしめ、必死に奏 時貞の意識を弾き出す。


春見:「……貴方は、奏 時貞という存在からは、決して逸脱できない。

 どれだけ記憶を盗み取ろうと、どれだけ万能の存在に近付こうと!」


「”貴方は、貴方でしかない!”」


 彼の眼に向けて、逆に介入を仕掛ける事でその力を強制解除させる!


奏:「グゥッ!?」


 弾き飛ばされるように魔眼は光を失い、奏は肩で息をしながら、呟く。


奏:「だが、ガイアの記憶は奪ったぞ……これだ、これさえあれば……!」



GM:影裏。君はガイアの記憶を失った。それによって即座に追加侵蝕率分、つまりは180%の侵蝕率を減少してくれ。

影裏:330%から180%減少して……侵蝕率150%になるな。

GM:ガイアの記憶は失われた。ただし、この5話で描写した部分だけは記憶として持っていてオッケーだ。

影裏:大切な部分以外を抜かれた感じか。

GM:うむ。それを守ったのは絆に他ならないだろう。


 奏 時貞が魔眼の力を解き放った。

 それは戦闘を開始するのに十分すぎる理由だ。


 戦闘条件を開示しよう!

 君たちは同一エンゲージに存在している。そして前方5mの位置に奏 時貞が独り。だが!


奏:「来い、ガイアの可能性が視た同位体よ!」

 タイミングは特殊だが《Eロイス:妄念の姿》で取得した《高速分身》を宣言する。


GM:奏 時貞とHPを共有する四人が同一エンゲージに新たに出現。

 戦闘終了条件は奏 時貞たちが共有している総HPを0にし、撃破する事だ。

 


 そしてNPC効果をふたつ公開しよう。


 NPC効果:及川桃矢

 《雲散霧消》Lv2:HPダメージを10点軽減させる。ラウンド1回まで。


 NPC効果:都築京香&プランナー

 《アドヴァイス》Lv2:C値-1、ダイス+2個。タイミングはオートとして扱う。ラウンド1回まで。



 最後に。この戦闘に敗北した場合《Eロイス:無限を継ぐ者》により奏 時貞とプランナーは存在そのものが融合する事となる。



 奏:「僕は、お前らとは違うッ! そうだ、僕を分かってくれるのはやっぱり君だけなんだよ、プランナー!」


 妄執、妄念、妄想。歪んだ強い想いによって周囲のレネゲイドが否応なく揺さぶられる!


GM:衝動判定だ。難易度:<意志> 9。衝動侵蝕は2Dだ。判定どうぞ!

影裏:行くぜ! ──達成値22、衝動侵蝕で……14点上昇して164%だ。

春見:思い出の一品を使用! ──達成値16。……こちらも14点上がって169%。



 自らの内を揺さぶる衝動を抑え、彼らは臨戦態勢を取る。


春見:「……貴方はもっと他人を見下さずにいるべきだった。

 そうすれば、もっと他の道もあったのでしょうけど」


 その魔眼に──"約束の瞳"に光が満ちる。


「ここまで来れば同情はしない。容赦もしない。私たちが、ここから時を進めるために!」


「皆で──貴方を越えて見せるっ!」


影裏:「そうだ。俺たちはお前を越えていく。たとえお前がどれほどの力を手に入れようと関係ない」


「積み重ねてきた歴史が、想いが、絆が。俺たちをここに立たせてくれた。ここから歩き出させてくれる」


「だから、負けはしない。行くぜ、春見。京香。桃矢」


春見:「うんっ!」

プランナー:「──行こう」

京香:「──ええ」

及川:「ああ。全力で──」


 皆の決意を離さないとばかりに、影裏は右手を握り締め、吼える。



「 俺たちの未来を、この手で掴むために! 」



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