最終話~ミドル20(1)~

 奏 時貞が本来いるべき時代。場所も、時間も、本来であれば知る術のない情報だ。

 しかしガイアの記憶に触れた影裏は、それを知っている。


影裏:「時代は2050年。現代で時貞が拠点にしていた海上プラント。

 それが時貞のいる場所──奴が生まれた研究所だ」

春見:「2050年……どんな時代なのか想像もできないくらい、遠いね」

京香:「やはり、見てきたんだね」


 寂しげにも、嬉しげにも聞こえる呟き。


影裏:「……ああ。ガイアの記憶としてだが、俺は時貞の始まりを見た。

 全てが始まった場所だ。決戦には相応しいかもな」

京香:「通常の手段では手が出せない。となれば方法はひとつだけ」

春見:「私、でしょ?」


 その場の誰もが、春見を見つめた。


影裏:「……眼の事は俺が引き受ける。頼めるか、春見」

春見:「もちろん。でも、次使ったらもう、右眼は何も視えなくなると思う。

 もっと結理君たちに頼る事になる。そこだけはごめんね?」

影裏:「……そうはさせないさ。大丈夫だ、俺を信じろ」

春見:「うん、ありがと」


 恐怖の感じられない柔らかな笑みを春見は浮かべる。

 それを、動揺した表情で京香は見つめていた。


プランナー:「(言えば、迷うと思ったんだ。私は──弱いから)」

影裏:「……京香」


 静かに、呼びかける。その表情の意味を、知っているから。


影裏:「いくらお前でも、全てを見通せるわけじゃない。

 そんな風に、全部の責任を独りで背負う必要はないんだ」

京香:「──うん。分かってる。”あの時”から。結理君に声をかけてもらった時から、ずっと。私は、独りなんかじゃ、なかったから」

影裏:「おう。大丈夫だ。俺たちがついてる」


 元気付けるように笑い、”あの時”と同じ言葉をかけた。


影裏:「行こうぜ。未来が俺たちを待ってる」

京香:「うん──行こう」

プランナー:「二人を、ううん。皆を、信じてるわ」

春見:「──任せて。私が皆を無事に送り届けてみせるから」



 どれだけ離れても胸に宿っている、絆。


 繋がりロイスを強く想起させる、始まりとなったN市立高校。

 その屋上を、彼らの最後にして、最初の一歩を踏み出す場所に選んだ。



 始まりは、この高校の教室だった。

 仲の良い、友達。それだけだった。


 けれど、今はもう、違う。

 友達以上であり、恋人でもあり、親友だ。


 春見は高校の屋上で、改めて皆に問いかける。

 

春見:「……皆、心の準備はいい?」


 過去に跳んできた時とは、訳が違う。

 しかし迷いなく即答した彼は、春見の右側で笑いかける。


影裏:「おう。いつでも来い」

京香:「跳んだ先は戦場かもしれない。それでも──」

プランナー:「──私たちが、一緒にいるためなら」

春見:「うんっ。どんな困難だって打ち砕いていける」


 皆の答えを訊いてから、"約束の瞳"に微かに残ったレネゲイドを集束し始める。


春見:「…………」


 魔眼の起動に、随分と時間が掛かるようになってしまった。

 その胸中で想いを馳せていたのは、自傷のように自身を責めるものではなかった。


「(場所も、時間も、想いも。全てを跳び越えて私たちは──取り戻しに行くんだ)」


 レネゲイドの高まりを察知し、魔眼を起動する。


「…………さぁ、視せて」


 その眼に映し出す光景は、希望でも、絶望でもない。

 これから視るのは、未来という名の真っ白なキャンバス。


「視つけた」


 時間のルールも、万物のそれさえ書き換えてみせよう。私のためじゃない。皆のためなら。

 そして──彼のためなら、私は神様さえあざむいてみせる。


「時間軸固定。座標軸固定」


 紡ぐ。奇跡を──運命に書き換えて。


「告げる。ガイア、私たちを……」


 徐々に光を増す魔眼。言霊は、再び世界に向けて解き放たれる。



「 『約束の場所に、私たちを導いて』 」



 再び 世界に 光が満ちた。



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