最終話~ミドル16~

GM:シーンプレイヤーは影裏。春見の登場は任意だ。

影裏:OK、シーンイン!(侵蝕率304%)

春見:もちろんシーンイン!(侵蝕率118%)



 詫びるように崩れ落ちた厳蔵の元へ、アンナが駆け寄る。

 どれだけ意見がぶつかろうと、大切な妹に非道な事をされたとしても、家族の一人である事に変わりはなかったのだ。

 彼女は小さく「お祖父様……」と呟いた後、二人に言葉をかける。


アンナ:「ありがとうございます、春見様、影裏さん。当主様を助けてくれて」

春見:「ううん。家族だもの。助け合うのは大切な事だよ」

影裏:「……これで、少しはこの家に恩返しができたかな」


 自然な足取りで、春見は影裏の左側へと寄っていく。


アンナ:「……正直に言えば、すみません影裏さん。貴方の事を、今まで見くびっていました」

春見:「ふふっ、結理君強くなったもんね」

アンナ:「はい……当主様も仰っていましたが、人というのはこれほど強く、逞しく成長するものなのですね」

影裏:「いいんですよ。この頃の俺は、今よりも更に青くて生意気な若造でしたから。

 それが、少しでもマシに成長できたのなら……それはきっと」


 春見に視線を送り、微笑み合う。


影裏:「春見や友人たち、佐倉家の皆のおかげです」


 その様子を、どこか昏い表情で見つめるアンナ。


アンナ:「……春見様」

春見:「……お姉ちゃん。私、強くなれたよ。お姉ちゃんのおかげです」



「いつか、まだ遠い未来だけど──また、家族になりましょう」



アンナ:「いつか……いつの日か、私も──。

 いいえ。その時、きっと私は逃げてしまいます。自分が弱い事を、知っているから」


 俯いた顔を、上げられない。二人の事を、直視できない。


アンナ:「だけど、いつか──いつか、きっと。二人のように、強く在れるように」

春見:「……うん。その時を私は待ち遠しく想っています。それまで、どうか今の私を支えてあげてください」

アンナ:「ええ。もちろんです。だって私は──」


 開いた口が、それより先を紡げずに閉ざされてしまう。

 自分は悪い人だから。春見の記憶を奪った自分に、姉と名乗る資格など存在しないから。

 たとえ相手から認めてもらえても、自らを縛る”呪い”となって恐怖してしまうのだ。


春見:「(分かるよ、お姉ちゃん。自分は赦せないよね。だから……。

 貴女が未来で赦される日を、私は待ち望んでます。

 きっと誰かに赦してもらえないと、その言葉は──)」


 結理君を一瞬見やって、慈母のように優しい笑みを浮かべ姉を見つめ直す。


春見:「大丈夫。私は待ってますから」


 あの頃より、ずっと低く感じる姉の頭をフード越しに撫でる。


アンナ:「いつかの未来で、また会いましょう……。貴女に、いつかと同じ祈りを捧げます」



「春見様。母より大切な人。貴女の人生が──

 ──どうか、幸せでありますように」



春見:「……私も祈りましょう」



「私の唯一の姉妹である貴女の人生に──

 ──どうか、幸多からん事を」



 夢の中では聞き取れなかった言葉。あの時から変わらない、心からの祈り。

 自らを赦すまで時間がかかるだろう。それでも互いに──祈らずには、いられなかった。


アンナ:「……さあ、本来の目的を果たさねばなりません。この家を訪れた、目的を」

春見:「名残惜しいけど、あまり悠長にはしていられないね」

影裏:「ああ、いつまでも話している訳にはいかないな。

 ……ご当主様、杏子さん。佐倉家の家宝、"約束の瞳"は俺たちが貰い受けます」

 

「決してたがえられない、約束を果たすために」


 アンナはひとつ頷くと、影裏の目を、ハッキリと見つめる。


アンナ:「影裏さん。貴方が春見様の隣に寄り添っている事。私は──」


「私は、誇りに思います。そしてどうか春見様を……よろしく、お願いします」


 しかしその瞳の奥に、昏い羨望のが揺らめいている事も、知っている。

 それでも──影裏は答える。


影裏:「はい。俺の全てを賭けて」


 それが、誤魔化してはならない自身の誇りそのものだと言うように。

 たとえその答えが、悲しい事件への引き金だとしても。

 この姉妹なら──きっと乗り越えられる。そう信じて。


アンナ:「…………私は、当主様を自室へお連れします。”眼”は、どうぞご自由に」


 深く、深くフードを被り直す。一片の表情も、見せてはならないとばかりに。


アンナ:「全てが。全てが終わったら。また、訪ねてきてください」

影裏:「……ありがとうございます。行こう、春見」

春見:「……ありがとう。うん、行こうか」


 かつて佐倉家を襲った暴漢たちは、家族に送り出され、去ってゆく。

 たとえ未来に禍根を残そうとも、成すべき約束のため、友のために。

 歩みを止める訳には、いかない──。

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