第四話〜ミドル2(2)〜

 影裏と春見、及川、京香、プランナーの5人は、奏 時貞の情報を得るべく深夜の海へと漕ぎ出した。灯りひとつ無い水平線を越えると、海上プラントが姿を現す。波は穏やかで目的地周辺までは苦労もなく辿り着けるだろう。

 しかしプラント上からはサーチライトで索敵されており、不用意には近付くことができない。

 そのため5人は遠巻きに偵察しているのだが、すぐに異様な光景に気付く。


影裏:「……おいおい、なんだよアレ……」

京香:「全員、"同じ顔"の人……。こんなことってあり得るの?」


 プラント上でサーチライトを動かす奏 時貞。双眼鏡で辺りを見回す奏 時貞。プラント上を警邏する奏 時貞。

 大勢の同一人物が仕事を分担し、周囲を警戒していたのだ。


春見:「な、何あれ……クローン?」

及川:「ああ。おそらくクローン体だろう。元になった奴と同じ肉体を持つ存在なんだろうさ」

影裏:「敵方の準備も万端ってわけだ。厄介だな」


 海上プラントへの上陸方法を頭に巡らせていると、及川が口を開いた。


及川:「──みんなはここで機を窺っていてくれ。僕が騒ぎを起こして彼らを引きつけるよ」

影裏:「……一人で行く気か?」

及川:「ああ。僕は死なない点だけでマスターエージェントに数えられている。……囮くらいにはなるだろうさ」

影裏:「──へ、そいつは頼もしいな。なら、すまん。任せるぜ、桃矢」

京香:「無理しないでね、桃矢君」

春見:「……気を付けてね。危ない時は遠慮なく助けを呼んで欲しい」


「もう、4人が離れるのは……嫌なの」


 その言葉は、及川だけに向けられたものではなく。

 だからこそ、この場にいる全員が一瞬、目を伏せた。


及川:「……ああ。それは、僕も同感だよ。春見」

京香:「うん。もう、離れたくない」

影裏:「──そう、だな。……武運を祈ってる。縁起でもないが……死ぬなよ」

及川:「もちろんさ。……突入は任せた。みんなも、無事でな」


 及川に向けて、影裏はニヤリと笑う。


影裏:「ああ。昔の主義に則って、速攻で片をつけてやるさ。やるべきことは手短に、な」


 その言葉に笑いかえすと、及川はモーターボートを降りて離れていった。


春見:「ふふっ……懐かしいね、それ」

影裏:「だろ? まあ、ずいぶん昔と状況は変わっちまったけどな」

プランナー:「…………」


 彼らの様子を、プランナーは少し離れて見守っていた。


京香:「────」


 しばらくしてから、海上プラントに警報が鳴り響く。微かに聞こえてくる放送によれば、君たちから離れた場所に"海水が集まっている"らしい。


プランナー:「みんな、船から手を離さない方がいいわ」


 プラント上から聞こえるチェーンガンの発砲音も虚しく、集まった海水は津波となって海上プラントへ押し寄せた。


影裏:「ははっ、さすが、マスターエージェントはやることが派手だな!」

春見:「……強いね、及川君」

影裏:「そうだな。個人戦力としては、きっと俺たちより上だろうさ。けど──」


 影裏は二人を、春見と京香を見据える。


影裏:「俺にはお前たちがいる。桃矢に引けを取るつもりはねぇ」


 互いに頷き合う。その結束──絆は、何よりも強い。


京香:「っ! 見て、ボートが……!」


 及川のオルクスによる空間操作によって、ボートは波に乗り海上プラントの裏、人気のない場所へと上陸した。


春見:「……行こう。私たちにできることをしなきゃ」

京香:「うん……私にも、できることを!」

影裏:「ああ。行くぜ、みんな……作戦開始だ!」



 影裏たちは及川に注意が向いている隙に、一番大きな建造物──管制塔の内部まで潜入することができた。

 多くの奏 時貞が迎撃のために出払っているためか、建物内はそれほど人の気配がない。順調に駆け抜けていくのだが、前方から奏クローンの一団が走ってくることに気付ける。しかし──


影裏:「こっちに気付いてるわけじゃなさそうだな」



GM:ということで判定だー!


 判定項目:敵の一団に対処せよ!

 <回避> 9 or <知覚> 9

 もしくは<RC> 14

 失敗した場合、全員2D10のダメージを受ける。


影裏:RCかなーやっぱ(笑)

春見:回避も知覚も苦手だからね……。

影裏:それじゃ、軽く行きますか!


 その言葉通り、影裏はRCで35の達成値を叩き出して突破した。……もっと難しくして良かったかもしれない(苦笑)


春見:無問題。

影裏:これぞエース(どやっ)



 影裏は両腕に黒炎を灯し敵の正面へと躍り出る。


影裏:「道を……開けろぉ!」

 黒炎で薙ぎ払い、一切スピードを落とすことなく駆け抜けていく!



 そうして順調に進む影裏たちは、厳重に警戒されている部屋を見つけることができ、隠れながら敵の数を数えるのだが──。


影裏:「ドアの前にバリケードと、哨戒する奏が二人」

春見:「……ちょっと離れたところにも、もう二人いるね」

影裏:「この厳重さだ。何かしら重要な部屋みたいだな」



GM:それでは判定を公開しよう。


 判定項目:敵を無力化しバリケードを突破せよ!

 難易度:攻撃技能による命中判定 35

 エフェクト組み合わせ可能。


影裏:35か! 結構高いな。

春見:GM、ちょっとご提案が──。


 春見の提案を聞き、


GM:よし。じゃあ面白そうだし乗っちゃおう。

春見:やったね。



春見:「……」

 意を決したように、奏クローンたちの前に出る。


奏クローンたち:「「「……!」」

春見:「……"こんにちは、何か問題はない?"」


 警戒し攻撃態勢を取る彼らに、親しげに語りかける。しかしその口調とは裏腹に、魔眼を発動している。


春見:「何かあったら問題だし、ここは私に"任せて"。貴方たちは"別の場所を哨戒して"いてください」

奏クローンたち:「「「了解だ。至急、別地点の哨戒に当たる」」」


 警戒を解き奏クローンたちは走り去っていく。


春見:「ふぅ……これで警報は鳴らされないね。中に入ろう」

影裏:「助かった。さすがだな、春見」

京香:「すごい……。まるで敵じゃないみたいだった」

プランナー:「やはり卓越してるわね」

春見:「実はね、こういう潜入ミッションの方が昔から成績は良かったの」


 少し照れた表情を浮かべながら部屋の中へと入っていく。

 中で何が待ち受けているのか。この時の彼らには知る由もなかった。





 春見からの提案。それはイージーエフェクトの《竹馬の友》を使って状況を切り抜けたい、というものだった。

 GMの想定では奏クローンたちを倒して中へと押し入るわけだったが、入り口にいる彼らにはデータを用意していなかったため、実質エキストラだったのだ。

 春見のPLであるmistoさんはそれをいち早く見抜いて《竹馬の友》を提案したという。

 mistoさんに一本取られる形となり、同時に最大限の賛辞を送りたい。


GM:それじゃ、ここでシーンを切り替えよう。潜入していく場面は終了。次はミドル戦闘を想定しているぞ!

春見:ついにか。

影裏:今回は誰が来るかな……。

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