第三話〜オープニング1〜

GM:おまたせ! それじゃオープニングシーンを始めて行こう! まずはPC2、春見がシーンプレイヤーだ。影裏は登場不可でおなしゃす。

春見:シーンイン。侵蝕率は、1点上がっただけか。幸先いいね。



 先ほどのマスターシーンから時間が流れること1ヶ月ほど。前回の遠藤千夏の暴走事件からも同じく1ヶ月ほどが経過している。

 この間、目立って大きな事件はないものの、FHとの小競り合いが頻発していた。そのため「UGNのエース」「轟木 源十郎の右腕」とまで言われる影裏と、優秀な能力を持つ副官・佐倉 春見は別々の任務に当たることが多かった。

 もちろん副官補佐の遠藤 千夏も同様だ。同じ隊に所属しているにも関わらず、最近の小規模な事件に対しては実質的に3部隊に分かれての行動を取っている。


 時刻は夕暮れ時。春見はUGN日本支部の副官室で影裏の帰りを待ちつつ、一人机に向かい事後処理についての書類を書いているところだ。


春見:「ふぅ……これでこの件はお終い」


 ひとつの書類群を片付け、ひとりごちる。側には書類の束がまだ少し。


春見:「最近、結理君と一緒に任務に出てないな。……無理してないといいけれど」


 そうして、また新しい書類へと手を伸ばす。あれから私の右眼は視力が大きく低下しているため、一人の時は眼鏡を常備している。

 左は伊達の、オーダーメイド製だ。


春見:「……結理君、早く帰って来ないかなぁ」


GM:ではそんなところに、部屋のドアがノックされる。


春見:「はい、空いてますよ」

 結理君かとも思うけど、時間が早いから事務対応。

奏 時貞(以下、奏):「失礼します」


 入ってきたのは、奏 時貞という最近UGNに入ってきたオッドアイの青年だ。大正時代後期に着られていたような和服と学生帽を身に纏っている。戦闘を見たこともあるが、実力はそれほどでもなかった。


春見:「奏さん。どうかしましたか?」

奏:「佐倉副官、こんなところにいましたか。ご機嫌麗しゅう」


 奏 時貞は時代錯誤な挨拶を口にすると、帽子を手に取りお辞儀する。


春見:「えぇ……ありがとうございます。誰かお探しでしたか?」

奏:「いえ、少々伝えておかなくてはいけない事がありまして。それで佐倉副官を探していたのです」


 窓際まで歩き振り返った彼の表情は、逆光で見えなくなる。


春見:「私にでしたか。どんな用でしょう」

奏:「単刀直入に申します。あなたの大切だった人、その人を裏切るべきだ、と忠告して差し上げましょう」

春見:「……どういう意味ですか」

奏:「そのままの意味です。残念ながら理由は申せませんし、それが誰かをここで口にする訳にも参りません。ただ──その身を案じてのこと。それだけですよ、佐倉副官」

春見:「……ではこう聞きましょう。貴方は何者ですか」


 右眼の魔眼を解放して警戒を露わにする春見。


春見:「一体何を知っているんです」

奏:「何者か、それはもうご存知でしょう。UGNの一隊士、奏 時貞ですよ。何を知っているかについては──」


 逆光の中、奏の左目だけが仄かに光る。


奏:「そうですねぇ。あなたの行く末を知っている、とだけ」

春見:「行く……末……」

奏:「さて。お節介もここまでです。私はお暇させていただきますね、佐倉副官。見ての通り、17時を10分も過ぎてしまいました。私、時間外労働はしない主義なので」

春見:「待ちなさい! 貴方は──」


 春見の声に、ドアが閉められる音だけが答える。


春見:「……」


 体の力が抜け、がくりと椅子に腰掛ける。


春見:「彼は、一体何のことを、誰のことを言って……? ──結理君、早く帰ってきて……」


 ここにいない彼に届くはずもない願いを、小さく呟く。

 夕日の中、彼女は一人震えることしかできない──。

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