第二話〜ミドル5(1)〜

 夜が明けて翌日。君たちはUGN日本支部で、昨夜以降の死刑囚たちの動きを追ったエージェントから報告を聞きつつ、情報収集するシーンだ。


GM:シーンプレイヤーは影裏。春見もできれば登場してくれるとありがたい。

春見:了解。ではシーンイン(ダイスころころ)(登場侵蝕 3)やっすぅい!

影裏:出るぜ(ダイスころころ)(登場侵蝕 10)こふっ!(吐血)



 これにより侵蝕値が、影裏は82、春見は62に。まさか20も差がつくとは……! やっぱりミドル戦闘強すぎたかな……。予定では、クライマックス戦闘もかなり強く作ってるから……。休憩中にちょっとデータを調整しなければ。



GM:場所はUGN日本支部のブリーフィングルーム。影裏、春見、千夏の三人はエージェントの一人、"スコープ"から引き継ぎを受けているところだ。


影裏:「……それで、逃走した死刑囚については?」

春見:「……」

 言葉は少なめ。昨夜の寝不足が祟っている様子。

スコープ:「昨夜からの動きを追ったところ、現在は都市部にある建設途中で放棄された廃ビルに逃げ込んでいるようです。

春見:「……廃ビル。そこで何をしているのでしょう?」

スコープ:「まだこれといって大きな動きは見せていません。ただ、私見ですが何かを企てているのではないかと。奴らは殺人犯です。何もしないはずはないと思われます」

影裏:「……となると、それについても調べる必要が出てくるか。

 とりあえず、監視は継続。ただし深追いは絶対にさせるな。何か異常があればすぐに報告を上げてくれ」

スコープ:「了解です! UGNとしての方針は以前と変わらず、"抵抗されなければ保護"したいようです。……個人的なことを言ってしまうと、正直納得が……いえ、失言でした」

春見:「……」

影裏:「大人しく"保護"されてくれれば楽なんだがな……」

千夏:「抵抗されなければ、なんて。甘い話ですね」

春見:「……じゃあ調べてみようか。あの人たちのこと」

影裏:「ああ、敵が大人しくしている今がチャンスだ。こちらも情報を纏めよう」

春見:「千夏ちゃんもそれでいいかな?」

千夏:「異論ありません」

影裏:「さて、鬼が出るか蛇が出るか……。各員、深入りは避けて、連携を大切にな」

スコープ:「了解です。引き続き監視の任に当たります!」

影裏:「それじゃ、分担だが……薬島 陸については俺が──」

春見:「結理君、待って」

影裏:「…………どうした、春見」

春見:「一人で抱えようとしないで? これは私たち皆でやらないと。……"連携"が大切なんでしょ?」

影裏:「っ……それは……」


 影裏は逡巡する。春見も、千夏も、彼の次の言葉を待っている。春見にとってのそれは信頼の証に他ならない。だが、千夏にとってのそれは"同情"と言えるだろう。いや、もしかしたらある種の"期待"だったのかもしれない。

 ここからの影裏のRPは、正直に言ってしまうとGMの予想を大きく上回っていた。読者の方々においては、ぜひ"一話時点の影裏との違い”を感じていただきたい。


影裏:「……調べればすぐにわかること、か。

 春見、遠藤も。今から少し話をする」

春見:「……うん、聞くよ。結理君」

千夏:「…………やっぱり、強いなぁ」

 ぼそりと呟く。

影裏:「まず、春見に謝ることがある。……15年間、俺はお前に嘘を吐いてきた」

春見:「…………嘘?」

影裏:「俺の両親が交通事故で死んだって。あれは──嘘なんだ」

春見:「……」

影裏:「俺の両親は、殺されたんだ。15年前、ある殺人鬼の手にかかって」

春見:「それって……!」

影裏:「雨の夜を狙って、9人もの被害者を出したシリアルキラー。……俺の両親は、あの薬島 陸に殺された。──俺の、目の前で」

春見:「……」

千夏:「──」

影裏:「このことは、佐倉家の皆は既に知ってる。けど、当時幼かった春見には、凄惨な事件の話はできないって、そう判断してな。ずっと隠してたんだ。……悪かった」

春見:「そう、だったんだ……」


 春見は一瞬瞑目して言葉と、その意味を飲み込む。


春見:「……ありがとう、話してくれて」

千夏:「──それで、薬島 陸をどうするつもり、いや。どう"したい"ですか?

 影裏さんには、あの男を殺す"権利"がある。そう思います」

影裏:「遠藤、それは違う」


 きっぱりと、揺るぎない口調で言い切る影裏。その言葉には、強い意志が込められている。


影裏:「誰かを殺す権利なんて、本当は、誰にもないはずなんだ。殺すことに、権利なんて」


 自分の右手を見やる。それは数多ものジャームたちを、人間を殺してきた"凶器"だ。


千夏:「っ、じゃあ。じゃあ! 薬島 陸はどうなんですか!? あの男にこそ、そんな権利は無かったはずです!」

春見:「……千夏ちゃん」

影裏:「ああ、あの男は命を弄んだ。それは決して許されることじゃない。……それは分かっている」

千夏:「だったら!」

影裏:「けどな、俺たちだって、これまで何度も誰かと命のやりとりをしてきた。誰かの命を奪って生きているという意味では、同じなんだよ」

千夏:「同じじゃない……全然違う……!」

影裏:「なら、何が俺たちと薬島を分けている違いなのか。遠藤、分かるか」

千夏:「アイツは! アイツは楽しんで殺しました! 私たちとは違う!」

影裏:「そうだ。アイツは楽しむために。俺たちは日常を守るために戦って来た。命を奪い、そして背負ってきた」

春見:「……」

影裏:「俺たちはUGNだ。誰かの日常を守るために、別の誰かを犠牲にすることを選んでこの組織に入った。──そこに、殺す権利なんてものは存在しないんだ」

千夏:「ッ……!」


 冷静に断言した影裏に反論しようと千夏は口を開くが、その言葉は出てこない。


千夏:「……影裏さんなら。影裏さん"だけには"分かってもらえる。そう思ってたのに──。少し、席を外します。……追ってこないでください」

影裏:「俺だけにはって……まさか、遠藤、お前──」


 その言葉を振り切るように、千夏は部屋から飛び出していく。《瞬間退場》だ。


春見:「ねえ、もしかして千夏ちゃんも──」

影裏:「春見、すまんが、ここ任せてもいいか。今のアイツを独りにはできない」

春見:「……わかった。結理君がそう言うなら──行って、いいよ」


 春見の言葉を聞くや否や、迷わず後を追う。その脳裏には5年前、衝動に呑まれかけた夜が過っていた。しかし彼は気付かない。その言葉の最後が、不安に震えていることに──。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る