第16話 イルカムスの三帝会戦 転

作者注

今日は二話更新です


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「ようやく、俺の出番ということか。やれやれ……しかし、これで戦いは終わりだな」


 クビライは呟くと……

 配下二〇〇〇〇の騎兵たちに向き直る。


 彼らの中にはクビライと同郷の者も少なくない。

 ファールス王国は黒突の、遊牧民の領域と、接している。


 そして遊牧民の中には黒突には従わない者たちも少なくない。

 彼らの多くはファールス王国の庇護下で、騎兵として働いていた。


 クビライが指揮する二〇〇〇〇の騎兵も、その遊牧部族から集められたものだ。


「この戦で勝利すれば、レムリアの豊かな土地は我らの者だ! 王は諸君らにも、富を分け与えてくださるだろう。富と栄誉が欲しければ、全力で武功を上げるのだ!!」


「「「うぉぉおおお!!!」」」」


 クビライは号令と共に、突撃を開始した。

 その後に二〇〇〇〇の騎兵が続く。


 騎兵二〇〇〇〇が土煙を上げながら、十字軍へと迫る。


 これに対するは……


「レムリア帝国の、否! メシア教の繁栄は、この一戦にあります。全軍、突撃!!」


 レムリア帝国の皇后にして、将軍。

 カロリナはそう叫ぶと、自ら戦闘に立ち、一〇〇〇〇の騎兵を率いてクビライの前に立ちふさがった。


「矢を放て!!!」

「矢を撃て!!!」


 ファールスの軽騎兵が、レムリアの中装騎兵カタフラクトが同時に矢を放つ。

 不運にも矢で射抜かれた騎兵たちが、バラバラと落馬していく。


 そしてそのまま、戦闘に移行する。

 両軍共に精鋭ではあるが……しかし、練度が同じであれば、やはり数の差が響く。

 今はレムリア騎兵たちが奮起しているため戦線は保たれているものの、いずれ兵力差で押しつぶされるだろう。

 故に……


「……皇帝陛下。長くは持ちません。あとは、よろしくお願いいたします」


 カロリナはエルキュールを信じるしかなかった。




 カロリナが突撃していくのを見送った後……

 エルキュールもまた出撃の準備を始める。

 エルキュールを支えるのは、若く、しかしレムリア軍の中でも特に優秀な将軍。

 ニアとジェベだ。


「行くぞ!! 狙うは……異教徒の王。ファールス王だ!!」


 エルキュールは予備兵力の騎兵、二〇〇〇〇を率いて進軍を開始した。

 生じた間隙を通り抜け、そしてカロリナがクビライを抑えている間に……


 ファールス軍の本陣へと、向かう。





「なぬ!? やられた!!」


 レムリア軍の動きに最初に気付いたのは、クビライだった。

 最初は敵の増援だと考えていたが……

 レムリア軍はクビライを無視し、ファールス軍へ捨て身の攻撃に移ろうとしていた。


「っく……ここは任せる! 俺は新手の動きを封じる!!」


 クビライはその場の指揮を副将に任せると、半数の一〇〇〇〇を引き連れて、レムリア騎兵の攻撃を食い止めようと動いた。

 ……が、これはエルキュールの想定内。


「ジェベ!!」

「はい!」


 ジェベが五〇〇〇を率いて、その場から離脱。

 クビライ率いる一〇〇〇〇へと、襲い掛かる。



「……む?」

「あなたは……」


 そしてクビライとジェベは戦場で邂逅した。


「クビライ!?」「ジェベ!?」


 生きていたのか!?

 と、驚きながらも二人は同時に矢を放つ。


「ジェベという将がいるとは聞いたが、まさかお前だったとは!」

「それはこちらの台詞だ」


 クビライ、ジェベという名前は黒突ではありふれたもの。

 故に二人とも、同名の別人だと思っていたのだ。


「どうだ、ジェベ! ファールス王に士官しないか?」

「悪いが、すでにレムリアに妻子がいる身だ」

「ほう! ……子はいくつだ?」

「まだ一つだ」

「ならば……レムリアを征服してから、お前の子を抱きに行ってやろう!!」

「……お前にそんな趣味があったとは」

「そっちの意味ではない!!」


 そんなやり取りをしながら、二人は矢を撃ち合い、殺し合いを始めた。




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「……なるほど。してやられたな」


 真っ直ぐ、こちらへと迫ってくるレムリア軍の騎兵一〇〇〇〇を見て、ササン八世は呟いた。

 ようやく、レムリア軍の今までの動きに合点がいった。


 最初に敢えて、レムリア軍左翼に間隙を作り出したのは、ササン八世に予備兵力を吐き出させるためだ。

 そしてフラーリング軍の攻勢や、中央部隊への片翼包囲もまた、ファールス軍の予備兵力を誘い出すため。


 こうして可能な限りの予備兵力をファールス軍から奪い……

 そして同時に最大の弱点である、レムリア軍とフラーリング軍の境界に、間隙を生じさせた。


 当然、ササン八世はここへ予備兵力の騎兵部隊を送り込む。

 そしてこの騎兵部隊を迎撃するために、レムリア軍は騎兵部隊を動かし……


 たかのように見せかけるが、その本当の狙いはファールス軍の本陣。


 最低限の兵力でファールス軍を足止めし、そして本陣を強襲攻撃する。


「……だが、成功しなければ意味がない」


 ファールス軍本陣を守るのは、ファールス王国に於いてはもっとも練度の高い精鋭部隊。

 エルキュールもまた精鋭部隊を指揮していることは間違いないが……

 しかしそう簡単に抜かれるつもりはなかった。


「一対一で、決着を付けようではないか! エルキュール帝!!」

 

 ササン八世は剣を引き抜いた。







「一斉射撃!!」


 エルキュールの号令で、騎兵部隊が一斉に矢を放つ。

 次々と矢はファールス軍を射抜いていくが……


「っく……」


 ファールス軍もまた、負けじとクロスボウで撃ち返してきた。

 本来ならば撃ち合いに勝利してから、攻撃に入りたいところだが……


 しかし今は時間が押している。


「弓騎兵部隊はそのまま掩護! 残りは俺に続け!!」

「陛下をお守りしろ!!」


 エルキュールとニアは二人揃って、ファールス軍の歩兵部隊へと突撃した。

 剣を振り、次々と歩兵を斬り捨てながら、本陣を突き進んでいく。


「ニア、背後を頼む」

「……ご武運を。陛下」


 ここでエルキュールは兵を再び、二つに割った。

 ニアに背後を守ってもらい、そのうちに特に精鋭だけを引き連れてファールス軍本陣中枢へと向かう。


「まさか、自ら兵を率いてくるとはな。レムリア皇帝」

「こちらも切羽詰まっているのでね」


 ついに、エルキュールとササン八世は邂逅を果たした。


「しかし、一騎打ち、か。面白いことを考える」

「気に入ってもらえて、何よりだ。……手加減をする余裕はない。うっかり殺してしまわないうちに、幸福して貰えないかな? ファールス王」

「それはこちらの台詞だ」


 二人は剣を引き抜いた。

 そしてササン八世は自らが契約している、最強の精霊を呼び出した。


「炎と淫乱の精霊、『ベリアル』よ!!」


 この世の如何なるもの、全てを焼き払う最強の精霊だ。

 単体の攻撃能力ならば、この精霊に勝るものはいないだろう。


「悪いが、その命……貰おうか! エルキュール一世!!」


 『ベリアル』の炎を纏った剣を、ササン八世は振り上げた。

 エルキュールはこれを剣で迎え撃つ。


 普通の剣ならば、獄炎で溶かされてしまう。

 故にササン八世の勝利は、今、ここで確定……






「なに!? その剣は……」

「借りてきたんだ。ルートヴィッヒ一世にな」





 虹色に光り輝く剣が、『ベリアル』の炎を打ち消していた。

 エルキュールが持つ、その剣の名は『ジュワユーズ』。

 ルートヴィッヒ一世の宝剣にして、あらゆる悪魔や魔法を打ち払い、無力化する聖剣だ。


「俺の悪魔は戦い向きではないんだ。だから……非常に癪だが、この剣で勝たせてもらうぞ!!」


 『アスモデウス』と『シトリー』がエルキュールの頭の中で文句を言ったが、エルキュールはそれを敢えて無視した。

 そして『ジュワユーズ』を振り上げ、ササン八世の剣と何度も打ち合う。


「面白い!! さすが……我が義息子(むすこ)だ!!」

「……都合の良い時だけ、そういうことを言われても困るな」


 当然のことながら、ササン八世の魔法は全て打ち消されているが……

 エルキュール自身もそれは同様だ。


 故に最後を決するのは、互いの素の身体能力となる。


「っく……」

「どうやら、武芸では私の方が上のようだな!!」


 エルキュールの剣が、大きく跳ね上げられた。

 そしてササン八世はがら空きとなった、エルキュールの体へと剣を突き立てる。


 エルキュールはそれを……

 手で掴んだ」


「何!?」

「っぐ……」


 剣が肉を切り裂き、骨に突き刺さった。

 しかし、これで剣は止まった。


「……あとで、貴様の宰相の精霊を貸してもらうぞ」


 エルキュールは剣を振り下ろした。

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