第14話 イルカムスの三帝会戦
対異教十字軍の総兵力は……
レムリア軍歩兵一三〇〇〇〇。
レムリア軍騎兵五〇〇〇〇。
フラーリング軍歩兵四〇〇〇〇。
フラーリング軍騎兵二〇〇〇〇。
総兵力は二四〇〇〇〇だった。
対するファールス王国軍の総兵力は……
歩兵一八五〇〇〇。
騎兵九五〇〇〇。
合計、二八〇〇〇〇である。
総勢、五〇〇〇〇〇を超すこの大兵力は以下のように布陣した。
アルタクセルクセス ササン八世ベフナム クビライ 李黄
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シャーヒーン ヘレーナ ダレイオス カワード
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キュロス スメルディス ☆ ☆ ▽▽
カーリー
▲▲▲▲エドモンド ブラダマンテ▲▲▲▲
アリシア■■■■ オスカル ガルフィス ソニア ■■■■ローラン
■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ ▲▲ ■■■■
ステファン ダリオス・エルキュール カロリナ アストルフォ
■■■■■■シェヘラザード ルートヴィッヒ
▲▲▲▲
ニア
ジェベ
「ふむ……やはり指揮系統を実質的に分けているか」
ルートヴィッヒ一世は対異教十字軍の陣形を見て、そう判断した。
対異教十字軍は七か国の連合軍から成立しているが、実質的にはレムリア軍とフラーリング軍の二か国軍から成る。
そしてこのレムリア軍とフラーリング軍では、根本的に武装や組織構成が異なる。
この二つの軍を混成して軍を運用することは極めて難しい。
よって、エルキュール一世とルートヴィッヒ一世は指揮系統を二分するという極めて単純明快な運用をすることにしたのだろう。
フラーリング軍は右翼側を、レムリア軍は中央から左翼側を構成しているが……
これは一つの軍隊ではなく、二種類の軍隊が単に並んでいるだけと見た方が良い。
おそらくエルキュール一世もルートヴィッヒ一世も、出来得る限り息を合わせようとはしているが、何の訓練もしていない二人の二人三脚が成功するはずもない。
確実に両者の足並みは崩れるだろう。
よって……
「十字軍の弱点は、
レムリア軍とフラーリング軍の丁度、境。
レムリア軍の右翼こそが、十字軍の弱点。
ここを突破し、突き崩してやれば良い。
「……ということは、十字軍も分かっているはず」
故に十字軍はこの弱点を何らかの手段で補うか、もしくは……
それを逆手に取った策略を練っているはずだ。
「まあ、良い。数でも連携でも、こちらが上回っている。ここは下手に策を弄さず……敵が如何なる策を講じていても対処できるようにするべきだろう」
必死に知恵を絞らなければならないのは、十字軍側。
ササン八世はその足掻きを眺めていれば良いのだ。
「……想定通り、無難な陣形だな」
エルキュールはファールス軍の陣形を見て、そう呟いた。
ルートヴィッヒ一世とは、如何にして異なる指揮系統の軍を生かして敵を打ち倒すか、幾度も協議を重ねた。
結果として最善の策が練れたと二人は自負してはいるが……
しかし勝率は決して高いとは言えない。
というのも、エルキュールとルートヴィッヒ一世が如何なる策を練ろうとも、必ず対応できるような陣形をササン八世は組んでくることが予想できるからだ。
事実、ササン八世が組んだ陣形は横に長く、そして後背地に十分な予備兵力を用意した……
包囲も突破も許さない、極めて教科書的な配置である。
兵力が上回る相手にこれをやられるのが、一番困る。
「こちらの弱点は見抜かれているだろうな」
十字軍、と言えば聞こえは良いが……
実質的にはレムリア軍とファールス軍が横並びになっているだけ。
故にレムリア軍の右翼、丁度カロリナが指揮する部分がこの十字軍のアキレス腱である。
ファールス軍は間違いなく、ここを狙ってくる。
もっとも……だからこそ、エルキュールとルートヴィッヒ一世は作戦を立てることができた。
ササン八世がこのアキレス腱を狙ってくるという、ある種の信頼と信用があるからこそ、それを利用した戦術を練った。
「後は……賽を投げるだけ、だな」
戦いの合図は、名目上の十字軍総司令官であるセシリアの手によって行われた。
「聖なる十字架を掲げなさい!!」
聖なる十字架。
聖地に安置されている、神の子を磔刑に処した時に用いたとされる十字架である。
十字軍の士気を盛り上げるために、わざわざ持ってきたのだ。
「「「神は我らと共にあり。神は我らと共にあり。神は我らと共にあり!!!」」」
十字軍の士気が一気に盛り上がる。
だが、ファールス軍の士気もまた、負けていない。
「「「我らに神の御加護を!! 我らに勝利を!! 我らに神の御加護を!! 我らに勝利を!!」」」
双方の士気は徐々に盛り上がり……
最高潮に盛り上がったところで、戦闘が始まった。
最初に攻撃を開始したのは、十字軍右翼を構成する、フラーリング軍だった。
「さあ!! 我らの勇士をレムリア人に、そして異教徒に見せつけるのだ!!」
「「「うぉぉぉおおお!!!」」」
ルートヴィッヒ一世の号令と共に、総勢六〇〇〇〇の軍勢が動き出す。
これを指揮するのは、ローラン、ブラダマンテ、アストルフォの三名。
さすがは七勇士。
その動きはとても息があったものだった。
フラーリング軍の動きを見たササン八世は、特に動揺もした様子もなく、呟く。
「……やはり斜線陣か」
元々、陣形から予想はできていたが……
想定通り、フラーリング軍は横陣を斜めに傾けながら、突撃を始めた。
「左翼率いるカワード、ダレイオスへ伝達、受け止めろ」
ササン八世の命令で、ファールス軍もまた動き始めた。
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「ふむ、そう容易くは成功させてもらえないか」
ルートヴィッヒ一世は不敵な笑みを浮かべた。
フラーリング軍はあっという間にファールス軍の左翼に動きを捕捉され、止められてしまった。
そしてローランとカワード、ブラダマンテ・アストルフォとダレイオスがそれぞれ戦闘に入る。
「まあ、ここまでは想定の範囲内。さて、当初の作戦通り……余はファールス軍の左翼を撃破することだけを考え、後の差配はエルキュール陛下に一任しようか」
そう言うとルートヴィッヒ一世も自ら剣を抜き放ち、戦闘に渦中へと飛び込んでいった。
「次はこちらから行かせてもらおう。……ファールス軍、右翼。キュロス、スメルディス軍は攻撃を開始せよ!!」
ササン八世の号令で、ファールス軍右翼が動き出す。
これに対するは……
「レムリア軍左翼、アリシア、エドモンド、ステファン。ファールス軍の動きを抑えろ」
エルキュールの命令で、ファールス軍左翼も動き始めた。
斯くして……
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レムリア軍左翼と中央との間に、大きな間隙が生じた。
これにはササン八世も一瞬、戸惑う。
「……誘いか?」
露骨過ぎる隙だった。
しかし……これを突かないわけにはいかない。
勿論、無策でここへ突撃するような真似もしない。
「カーリーへ、戦象部隊を突撃させろ!」
「任された」
カーリー・マー率いる戦象部隊が動き始めた。
先の戦いで僅かに数を減らしているものの、その戦闘能力は健在だ。
真っ直ぐ、カーリー率いる戦象とそれい追従する軽歩兵たちがレムリア軍中央へと突撃する。
これに合わせ……
「中央、シャーヒーン軍。突撃せよ!」
同時にシャーヒーン将軍率いる、中央を前進させた。
そして続けて……
「左翼のヘレーナへ伝達。レムリア軍の間隙へ、突撃!!」
この一連のササン八世の攻勢により……
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カーリー率いる戦象及びシャーヒーン率いるファールス軍中央軍の攻撃を受ければ、レムリア軍の中央は動けなくなる。
中央、及び左翼をファールス軍に抑え込まれた状態でヘレーナ率いる騎兵一〇〇〇〇に間隙を通過されれば、十字軍は背後を脅かされることとなる。
……が、しかしこれはエルキュールの想定通りだ。
「オスカル軍、ガルフィス軍、ソニア軍。想定通り、攻撃に移れ」
「「「は!!」」」
その動きはササン八世の想定以上に、迅速だった。
レムリア軍の歩兵部隊は滑らかな動きで、大きく横陣を傾けながらファールス軍を迎え撃つ。
さらに……
「ダリオス将軍。任せたぞ」
「任されました」
ダリオス将軍率いるレムリア予備軍が前へ進み出る。
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「ほう……この動きに対応してくるとは。……やはり、想定内ではあったか」
ササン八世はレムリア軍の歩兵の曲芸染みた動きに感嘆の声を漏らした。
レムリア軍はファールス軍の動きにすぐに対応し、それどころか中央軍左翼側への片翼包囲までも試みようとしていた。
もっとも、ササン八世の表情にはまだ余裕の色があった。
というのも、まだまだ予備兵力がササン八世の手元にはあったからだ。
そしてエルキュールもまた、現状ではファールス軍優位に戦いが進んでいることを知っていた。
故に二人は揃って、呟いた。
「「戦いはこれからだ」」
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