第4話 サルデルの戦い
サルデル村に到着したレムリア帝国の兵力は、常備軍歩兵一個軍団、屯田歩兵二個軍団、
合計、五一六〇〇。
これに対し、ファールス王国の兵力は歩兵三万に
合計、五〇〇〇〇。
そして両軍は以下のように布陣した。
ヘレーナ
ダレイオス ササン八世 シャーヒーン
▽▽▽▽▽ □□□□□□□□□□ ▽▽▽▽▽ 川
〇〇〇〇〇 □□□□□□□□□□ 〇〇〇〇〇 川
□□□□□□□□□□ 川
川
川
川
■■■■■■■■■■ 川
■■■■■■■■■■ 川
▲▲▲▲▲▲ ■■■■■■■■■■■■ ▲▲▲▲▲ 川
ソニア エルキュール ニア
レムリア軍は一つ、一二〇〇〇
ファールス軍は一つ、一〇〇〇〇と換算。
ササン八世の布陣は単純明快。
中央に歩兵三万を、そして両翼に重・中混合騎兵を一万ずつ、布陣した。
それに対し、エルキュールもまた単純明快。
中央に常備軍歩兵一個軍団、屯田歩兵二個軍団、弓兵二個大隊、合計三八四〇〇を配置。
左翼にはソニア率いる赤狼隊、右翼にはニア率いる遊撃隊を配置し、前者には三個、後者には二個の重装騎兵大隊を配置させた。
双方の狙いは単純だった。
「豊富な歩兵戦力による、縦深突破か」
「両翼の騎兵による、包囲攻撃か」
特に驚きもなく、ササン八世とエルキュールは呟いた。
最初に戦場に到着したのは、エルキュールだった。
敵よりもこちらの方が騎兵戦力に劣るという情報をすでに入手していたエルキュールは、敵が騎兵戦力を生かしにくい、川辺に布陣した。
そして川辺の近くには騎兵としても歩兵としても活躍できる、ニア率いる独立遊撃部隊を。
一方で川辺から離れた場所には、戦闘能力の高いソニア率いる赤狼隊を配置。
そしてそれぞれに重装騎兵を配置して、戦力を強化。
最後に自らが中央の歩兵を指揮することにした。
もっとも、唯一懸念するべきは……川辺に配置したことで、シャーヒーンが『クロセル』を用いて川を氷結し、奇襲を仕掛けてくるかもしれないという可能性である。
とはいえ、平野で敵と正面からぶつかれば奇襲も何も、最初から包囲されてしまう。
これに関してはニアに伝達し、注意を促すしかない。
一方でササン八世は騎兵の生かし難い地形に臆することなく、教科書通りに兵を配置したのだった。
「中央の戦力比はおよそ一〇〇〇〇。しかも相手は死を恐れるメシア教徒か。ふむ、これは両翼を早く終わらせなければ、突破されるな」
「……やはり騎兵戦力の開きが大きすぎるな。両翼が突破される前に、中央を突破しなければ、包囲される」
ササン八世も、エルキュールも共に同様の結論を下した。
斯くして……
太鼓と笛の音が戦場に響き渡る。
両軍の進撃が始まった。
最初に動き始めたのは、両翼の騎兵部隊だった。
まず、レムリア軍左翼とファールス軍右翼の戦場。
ソニア率いる騎兵七二〇〇は、ダレイオス率いる一〇〇〇〇へと襲い掛かる……
かに見せかけ、反転した。
「ふむ、遅滞戦術が目的か。しかし、そう容易くいくかな?」
ダレイオスはソニアの動きを、決着を遅らせるための遅滞戦術であると判断した。
兵力差が三〇〇〇ほどある以上、両者が衝突すればレムリア騎兵の敗北は目に見えている。
故に後退することで、決着を遅らせ、レムリア軍の側面を守ろうという判断だ。
ダレイオスがもしソニア率いる騎兵を無視してレムリア軍の中央側面へと遅い掛かれば、ソニアは再び反転し、ダレイオス率いる右翼ファールス騎兵の側面を攻撃するだろう。
「逃がすものか」
ダレイオスは騎兵の速力を上げて、ソニア率いる騎兵部隊へと迫る。
が、しかし。
「なぬ!?」
「元より、逃げるつもりなどありません」
ダレイオスの率いる騎兵が疲労を見せたところで、ソニアは急速反転。
自らが先頭になり、遅い掛かった。
赤狼隊三六〇〇が中核となり、ダレイオス率いる一〇〇〇〇の騎兵を抑え込む。
その隙に
「ぬぬ……何という強さ!」
「神は我らと共にあり! 異教徒を亡ぼせ!!」
白銀の鎧を真っ赤に染め上げながら、ソニアは大声で吠える。
そしてダレイオスを見つけると、剣を振り上げながら襲い掛かる。
「さあ!! あなたも悪魔を出したらどうですか!!」
「……狂犬ごときに使うほどではない」
「その様子ですと、長城の突破で魔力は使い果たしたようですね!!」
ダレイオスの振るう鎚と、ソニアの振るう剣が激しくぶつかる。
戦いはやや、ソニア優位へと傾いていた。
「将軍!!」
「閣下をお守りしろ!!」
追い詰められるダレイオスを助けようと、ファールス騎兵がソニアへと襲い掛かる。
それを防ごうと、赤狼隊も奮戦する。
徐々にレムリア軍左翼とファールス軍右翼の戦いは、混戦へと変わっていった。
一方、レムリア軍右翼とファールス軍左翼の戦場。
ここではニア率いる六〇〇〇の騎兵部隊と、シャーヒーン率いる一〇〇〇〇の騎兵部隊が戦っていた。
両者が戦場としている土地はフラート河の支流である河のすぐ近くであり、地面はややぬかるんでいた。
こういう場所では……
「矢で馬を射り、敵兵を引き摺り下ろしなさい!!」
ニア率いる、独立遊撃部隊が強い。
まず、ニアは事前に戦場に杭を打ち混んでいた。
この杭とぬかるみにより、ファールス騎兵は容易く、接近攻撃ができなくなっていた。
そして下馬させた手勢三六〇〇に長弓を持たせ、足を取られて身動きが取れなくなっていた騎兵を攻撃させた。
レムリアのロングボウは優れた射程距離を誇る。
これと杭、そしてぬかるみという地形効果が合わさると、極めて凶悪なものとなる。
そしてファールス騎兵が僅かに存在する杭の切れ目や、乾燥した場所を通り、下馬したニアの独立遊撃部隊を襲おうとすると……
すぐさま、レムリアの
「……若いのによくやる。昔と比べ、レムリアの兵と将の質も向上しているようだな」
シャーヒーンは感心しながらも、眉を顰めた。
彼としてはかつての雪辱を晴らしたいが……そう容易くは行かないようだ。
だが……しかし、笑みを浮かべた。
そして自らの武器精霊、『クロセル』を力強く握りしめる。
「早くも、切り札を切らなくてはならなくなりそうだ」
不敵な笑みを浮かべた。
一方、両翼よりわずかに遅れ……レムリア軍中央とファールス軍中央の戦いが始まった。
その戦いはまず、レムリア軍のロングボウとファールス軍のクロスボウの撃ち合いから始まった。
「……我が軍のロングボウの方が射程、連射性は上だが」
「しかし我々のクロスボウ部隊の方が、数が多い」
エルキュールとササン八世は全く同じタイミングで、無表情でそう呟いた。
レムリアのロングボウはただのロングボウではなく、滑車などを用いて作られたある種の芸術品である。
そしてそれを扱うロングボウ兵は曲芸師のようなものだ。
故にどうしても数を増やしにくい。
それに対し、ファールスのクロスボウは量産品。
そしてそれを扱う兵士は決して練度が低いわけではないものの、替えが効く。
このことはエルキュールも、ササン八世も承知していた。
それぞれ長所と短所を理解した上で、そういう装備を整えていたのだ。
だが、一つだけ、エルキュールにとって計算違いが存在した。
(……数十年の間に、技術革新があったようだな)
ファールス王国のクロスボウの威力、精度、射程が以前と比べて向上している。
これはエルキュールにとっては意外なことだった。
しかし考えてみればそうおかしくはない。
世界で最も、クロスボウの製造技術とシステムに優れているのは、極東の絹の国である。
ファールス王国は絹の道を通じ、絹の国と交易関係にある。
故に絹の国から最新の技術を容易く、仕入れることができるのだ。
両軍、矢を撃ち合いながらも徐々に距離を詰めていく。
そして……
ついに両者の近接部隊が衝突した。
□□□□□□□□□□ 川
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川
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川
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