第25話 テリポル市攻囲

 テリポルの戦いの翌日。

 エルキュールは軍の再編成を終え、テリポル市への包囲に取り掛かっていた。


 「んくぅ……引き籠って、くぁあ、しまい、ふぅ、まし、んぁ……」

 「まあ、しかし計画通り兵数はこちらの方が多くなった」


 アリシアの臀部を触りながらエルキュールは言った。

 落ち着いた表情でテリポル市の城壁を眺めるエルキュールとは対照的に、アリシアの頬は赤く、上気している。


 嬌声を上げ、身を悶えさせながら、相槌を打つ。


 「っ、んぁ……ふぅ……こ、このあと、し、城攻めを?」

 「いや……この兵力ではさすがに落とすのは難しいだろう」


 レムリア軍の兵力は三〇〇〇〇。

 一方、チェルダ軍のテリポル市守備兵力は一〇〇〇〇。


 攻城戦は十分に可能だが……できればもう少し兵力を集めたいところだ。


 「この兵力差だと……都市の完全包囲も難しいな。まあ……そうだな。西門を歩兵で押さえて、敵の物流と情報は騎兵で押さえるというのが無難な選択肢だな」


 テリポル市の城壁の門は三つ。 

 

 チェルダ市へと続く西門、テリポルタニア地方及びアズダヴィア市、そしてレムリア帝国のキュレーネ市へと続く東門、そして最後に大砂漠、バルバル族への領域に続く南門。


 三つの城門の前に戦力を分けると、単純に一つの門当たりにレムリア軍は一〇〇〇〇。

 敵兵力が一〇〇〇〇であることを考えると……

 この兵力差では逆に強襲攻撃をされ、手痛い打撃を受ける可能性がある。


 故に完全包囲を諦め、そして敵が首都のチェルダ市へと情報を伝えにくくなるように西門を固め、南や東の門に関しては機動力に長ける騎兵部隊で対応するという選択が無難である。


 「う、うぁ、んぁ、う、海側は、んっ、どうするのですか?」

 「クリストスが海上封鎖を試みている。もっとも……上陸はどこかの港が落ちないとできないが」


 レムリア帝国の海上戦力は現在、三つに分かれている。

 一つはノヴァ・レムリアやアレクティア市などの本土に残り、他国に睨みを効かせている艦隊。

 もう一つは上陸部隊を守備する艦隊。

 最後はクリストスが直接指揮する、チェルダ市及びテリポル市間の航路を封鎖する艦隊である。


 「海はクリストスが塞ぎ、西門は歩兵が、東門と南門は騎兵が、そしてダメ押しに幹線道路はニアが塞いでいる。まあ、それでも完全な情報の遮断は難しいが……」


 どちらにせよ、敵の情報伝達能力は大きく損なわれる。

 そこへジェベによる情報攪乱と、エルキュールが偽の情報を流せば……


 敵は身動きが取れなくなるだろう。


 「で、では、と、とりあえず味方との合流までここで、ひぁああああ!」

 「どうした、アリシア。さっきからうるさいぞ」


 肩を抱く、と見せかけてアリシアの胸を鷲掴みしたエルキュールが言った。

 ムニムニと、エルキュールの手に合わせてアリシアの胸肉が形を変える。


 「あふぅ、こ、こんなところで、そ、そんなに直接……」

 「何だ、尻の方が良かったか?」

 「そ、そうじゃ、な、ないですけど……ん、くぅ、ぁぁ……」


 アリシアは身を悶えさせた。

 

 「……皇帝陛下。何をなさっているのですか?」


 エルキュールがアリシアと遊んでいると……

 武器の手入れをするために一時的にエルキュールの傍から離れていたシェヘラザードが怒ったような声を上げて、エルキュールに近づいた。

 その瞳には嫉妬の炎が渦巻いている。


 「おお、シェヘラザードか。どうした? お前も揉んで欲しかったのか?」 

 「い、いや、そうじゃないですけど……」


 アリシアのように公衆の面前でセクハラをされるのは嫌だが……

 かといって、自分ではなくアリシアがセクハラをされているのを見るのは、気に入らないようだ。


 「後で胸でも尻でも、いくらでも触ってやるよ」

 「い、いや……け、結構です……」


 シェヘラザードは耳を赤くして、目を反らした。

 エルキュールはニヤリと笑みを浮かべ……


 アリシアから離れてシェヘラザードの方へと向かう。

 ホッとアリシアは一息ついた。


 「おいおい、遠慮するなって」

 「ひぁ! や、やめてください!」


 エルキュールは躊躇なく、シェヘラザードの胸を鷲掴みにした。

 むにゅり、と胸部の形が歪む。


 エルキュールはシェヘラザードの胸を揉みながらアリシアに言った。


 「アリシア。さっきの質問の答えになるが……これからマルヌ島に停泊しているステファン率いる上陸部隊と連絡を取り、合計五三〇〇〇の兵力で陸海同時攻撃を行い、テリポル市を陥落させる」


 「ふぅぁあああ!!! ん、くぅ、わ、分かりました、分かりましたからぁ……も、揉むのは、や、やめてくらひゃぃ……」


 シェヘラザードは顔を真っ赤にさせ、半泣きで体を震わせる。

 しかしエルキュールは強引にシェヘラザードの体を拘束し、より激しく手を動かした。


 それからしばらく、シェヘラザードは一際大きく体を痙攣させてから……

 ぐったりと、動かなくなった。


 エルキュールが手を離すと、シェヘラザードはわなわなと地面に座り込んだ。

 そして息を荒くし、焦点の合わない目で地面を見つめる。


 「どうした、アリシア。お前もやって欲しいか?」

 「い、いえ、け、結構です!」

 「そう遠慮するな……お前は尻を念入りに揉んでやる」


 エルキュール手をワキワキさせながら、アリシアに接近した。



 そんなこんなで第一次テリポル攻囲戦が始まろうとしていた。









 さて……

 時を遡ること五日前。


 エルキュールが大砂漠を超え、チェルダ王国領へと侵入してから、丁度数時間後のこと。


 マシニッサ率いるバルバル族シュイエン氏族が、テリポルタニア地方へと侵入した。

 エルキュールとは別のルートを辿っての砂漠越えである。


 エルキュールと行動を共にしなかったのは、エルキュールとしては自分がテリポル市を攻略している間に、テリポルタニア守備軍を混乱させるための別動隊が欲しかったからと……

 全く、異なる指揮系統の軍隊が混在することで指揮系統が混乱することを嫌ったためである。

 何よりも速度が優先されるこの戦略的な奇襲作戦に於いて、指揮系統の乱れは致命的である。


 斯くして……

 騎兵六〇〇〇、歩兵一二〇〇〇、合計一八〇〇〇の兵士たちはテリポルタニア地方の都市を次々と落としていった。


 テリポルタニア守備軍は七〇〇〇〇……

 ということにはなっていたが、しかしまだ兵は集まりきってはおらず、その数は五〇〇〇〇であった。


 五〇〇〇〇という数は襲撃を仕掛けたマシニッサの軍勢一八〇〇〇の三倍近くあるが……

 しかし彼らの注意はレムリア軍の侵入を防ぐために海側、つまり北へと向いており、さらにその兵力は分散されていた。


 結果、対応が後手に回ってしまい……

 マシニッサの襲撃を許す結果となった。


 マシニッサはこの戦争での流血は望んでいなかったため……

 襲撃をしては大砂漠へと退却し、その後別の地点に奇襲攻撃を行うという戦術を採った。


 テリポリタニア守備軍はマシニッサ率いるシュイエン氏族の襲撃と、そして海上から来る可能性のあるレムリア軍に備えるのに必死で、テリポリ市へ援軍を送る余裕はなかった。





 マシニッサ率いるバルバル族がテリポルタニア地方へ攻撃を開始してから三日が経過した、砂漠越え四日目の日。

 

 将軍たちがイアソンに詰め寄っていた。

 バルバル族の襲撃と、レムリア軍の砂漠越えについての情報が届いたからである。


 「イアソン様! ど、どうしますか?」

 「……落ち着き給え」


 イアソンは本を閉じ、冷静な声で将軍たちに語り掛けた。

 

 将軍たちの表情は様々だ。

 ある者は顔を真っ青にさせ、ある者は酷く狼狽しており、またある者はイアソンに対する苛立ちを隠せていない。


 「以前、捕虜の尋問によって得た情報によれば……レムリア軍の本命はあくまで海。つまり砂漠から襲ってきたバルバル族はあくまで陽動」


 レムリア軍の侵攻に合わせて、隙をつく形でバルバル族が侵攻してくる。

 または双方が手を組んで攻撃を仕掛けてくる。


 このことはイアソンにとっては予想の範疇であった。


 「テリポルタニア守備軍は確かに……海から侵入してくるレムリア軍に備えたもの。しかし、ある程度のゆとり、つまり砂漠から背後を突かれても対応できるだけの余裕は持たせてある」


 事実、後手には回っているものの……

 テリポルタニア守備軍はバルバル族の侵入に対応できており、そしてまた海への警戒も緩めていない。


 「むしろ慌てて、テリポルタニアへ援軍を出すことにより、このアズダヴィアの守備力が低下する方が問題だ。おそらく敵の狙いもそれ。ここは落ち着いて、このアズダヴィアを守り続けていればいい」


 イアソンはそう結論付けた


 「し、しかし砂漠を越えてレムリア軍が侵攻してきたという情報は? テリポル市で友軍が敗れたという情報は? ほかにもテリポル市がすでに陥落した、首都のチェルダ市へと迫っている……様々な情報が飛び交っていますが……」


 「それはデマだ。冷静に考えてみたまえ。砂漠越えなど、不可能だろう?」


 イアソンは将軍たちに言い聞かせるように言った。

 そもそも前提となる砂漠越えが嘘である。

 となれば、残りも何らかの情報の誤りである可能性が高いというのがイアソンの予測だ。


 「おそらくテリポルの南の砂漠地帯に出現したバルバル族を、レムリア軍と誤認したんだろう。……混乱は直に収まるだろうし、それにしばらく待てばカーマイン将軍からの連絡が来るはずさ。真偽はそれで判断すればいい。正確な情報を待ってからでも、遅くはないはずだよ」


 むしろこの状況下で動くのは危険である。

 と、イアソンは主張し、援軍を出さずにレムリア軍と睨み合いを続けることにした。


 将軍たちは一応、イアソンの言い分に納得したようだが……

 

 しかしそれでも不満を隠せない様子でいた。

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