第23話 テリポルの戦い 破
「我々の戦力は歩兵軍団一二〇〇〇と、ブルガロン、
エルキュールはオスカルとアリシアに、現在の自軍の兵力を説明する。
もっとも二人ともそんなことは当然、心得ている。
これはただの前置きだ。
「そして敵の兵力は偵察部隊からの報告によると、騎兵が一四〇〇〇。歩兵は軽歩兵と重装歩兵の二種類がいて、軽歩兵が二一〇〇〇、重装歩兵が一五〇〇〇の合計三六〇〇〇。合わせて約五〇〇〇〇」
チェルダ王国の騎兵は
歩兵のうち、軽歩兵は投槍、投石、弓矢などの投射兵器による攻撃と、剣を使用しての接近戦をこなす兵科であり、一方重装歩兵は短い槍と盾で武装している。
レムリア帝国軍にはチェルダ王国軍の軽歩兵に値するような、投射兵器による攻撃を行うような歩兵部隊は存在しない……が、弓騎兵であるブルガロン騎兵が存在する。
レムリア帝国軍は圧倒的に騎兵戦力で優れており……
一方チェルダ王国は歩兵戦力を豊富に有している。
「まあ、ここまで明確な兵科による戦力差があるならば……こちらが採用する戦術は決まっている。言わずとも、分かるな?」
エルキュールがそう言うと、アリシアとオスカルは頷いた。
二人の脳裏に、王道的な戦術が思い浮かぶ。
「では……作戦の概要を説明する」
エルキュールはアリシアとオスカル、その他将軍たちに陣形と、そして作戦を指示した。
それを聞いたアリシアとオスカルは小さな声で呟いた。
「……そんなの分かりませんよ」
「違うじゃないですか」
そういう二人に対し、エルキュールは肩を竦めた。
「それはお前たちが勝手に思い込んだだけだろ?」
ニヤリと笑みを浮かべた。
一方、チェルダ王国軍の将軍カーマインは敵兵力と自軍兵力の差異を考え……
つぶやく。
「間違いなく、レムリア皇帝は両翼による包囲を狙ってくるだろう」
騎兵戦力で圧倒的に優っているのだ。
それを行わない手はない。
レムリア軍の中央を担うであろう歩兵戦力は確かに、遥かにチェルダ王国軍よりも数で劣るが……
しかしレムリア帝国軍の歩兵が精強であることは有名だ。
「注意するべきは……ブルガロン人の騎兵部隊か。遊牧民族であると聞く彼らの戦闘能力は極めて高い……我が国の騎兵よりも、遥かに練度で優るだろう」
まともに両翼の兵力がぶつかれば、敗退は目に見えている。
騎兵だけでは、とても両翼を支えきれないだろう。
「歩兵部隊を薄く伸ばす……いや、それだけでは足りないな。軽歩兵を後方に待機させ、随時戦力を両翼に送り、戦線を維持する。それしかあるまい」
もし仮にレムリア軍が疲弊を見せるようであれば、中央突破を図ればいい。
無理に攻める必要はない。
いずれ、援軍はやってくるのだ。
焦るべきは敵中に孤立しているレムリア軍であり、チェルダ王国軍ではない。
時間はチェルダ王国の味方だ。
斯くして両軍はテリポル市の近郊で向かい合った。
両軍の布陣は以下の通りである。
〇〇〇―〇〇〇
〇〇〇 〇〇〇
▽▽▽▽▽ □□□□□□□□□□□□□□□ ▽▽▽▽▽
▽▽ 〇〇〇―――〇〇〇―――〇〇〇 ▽▽
◆―◆――◆ ◆―◆――◆
◆◆▲▲ ●―●―■■ ■■―●―● ▲▲◆◆
■―■
▲▲▲▲▲
白……チェルダ王国軍
〇……軽歩兵
□……重装歩兵
△……騎兵
総兵力約五〇〇〇〇(記号一つで約一〇〇〇とする)
黒……レムリア帝国軍
●……ハルバード部隊
■……パイク部隊
▲……
◆……ブルガロン騎兵
歩兵軍団指揮官……オスカル・アルモン
右翼騎兵部隊指揮官……アリシア・クロム
中央総司令官……エルキュール
総兵力約三三〇〇〇(記号一つで一個大隊一二〇〇。ただし行軍によって、約三〇〇〇人の欠員が生じているため、実際には一二〇〇よりも少ない)
※―記号は薄く広がっていることを意味する。
「ふむ……やはり両翼の兵力を補うために、軽歩兵を温存してきたか。まあ、良い。その程度の補強、打ち砕いて見せよう。まずは騎兵部隊による攻撃を開始する!!」
エルキュールは前線の騎兵部隊に指示を出した。
斯くして戦端はレムリア帝国軍の騎兵部隊による突撃によって開始された。
土埃を上げて、レムリア帝国の騎兵たちが一斉に突撃を開始する。
「っく、やはり最初は騎兵部隊からか……騎兵の攻撃を防げ! 前進せよ!」
カーマインはこれに対応する形で部隊を動かす。
両翼の騎兵部隊と、軽歩兵部隊が前進を開始する。
「我らブルガロン人の武勇を皇帝陛下に示すのだ! 騎射、開始!!」
右翼ではアリシアの号令により、ブルガロン騎兵による投射攻撃が開始された。
同時に
複合弓から次々と矢が放たれる。
矢の大雨がチェルダ王国軍の騎兵に降り注ぐ。
彼らは円形の皮盾を掲げて、矢を防ぐが……しかしその凄まじい矢の雨を防ぎきることはできず、次々と落馬していく。
右翼だけでなく、左翼側、そして……中央でも同様のことは起きていた。
中央では軽歩兵たちが懸命に矢を放ち、石や槍を投げるが……
それよりも遥かに射程距離と機動力に長けている弓騎兵による猛攻により、押されていた。
「っく、敵の攻撃が激しすぎて反撃ができない!」
「矢が刺さり過ぎて、盾が使いモノにならない……」
「これがブルガロン人の弓騎兵か! っく、おのれ、こちらが攻撃を仕掛けようとすると、すぐに逃げていく。この、卑怯者共め!!」
あらかた矢を撃ち終えると、両翼の騎兵部隊は突撃を開始した。
「死ね!」
アリシアだけは一人、契約精霊の『レラジュ』を呼び出し、弓による攻撃を続ける。
狙うのは地位の高い武人である。
大概、指揮官など地位の高い武人は目立つ格好をしているため、大変分かりやすい。
アリシアの矢は掠っただけでも敵を死に追いやる、必殺の魔弓。
ブルガロン騎兵、
「チェルダ王国は、
アリシアはニヤリと笑みを浮かべ、次々とチェルダ王国の上級武人たちを射殺していく。
一方、中央で軽歩兵たちを蹴散らしたブルガロン騎兵たちは矢を撃ち終えると、予め指示されていた通り、両翼の援軍へと向かった。
そしてブルガロン騎兵たちがいなくなった中央を埋めるかのように、レムリア帝国の歩兵部隊がゆっくりと前進を開始する。
「やはり敵の狙いはこちらの両翼か! 軽歩兵部隊、重装歩兵部隊、前進開始!」
カーマインもまた、レムリア帝国軍の動きに対応するように軍を動かす。
そしてさらに、新たに両翼に加わったレムリア帝国の騎兵、つまりブルガロン騎兵の援軍に対抗するために後方に控えていた軽歩兵部隊を両翼へと投入する。
〇〇〇―〇〇〇
□ □□□□□ □
〇〇〇 ▽▽ 〇□□□□〇 〇□□□□〇 ▽▽〇〇〇
▽▽▽▽▽◆ ●―●―■■ ■■―●―● ◆▽▽▽▽▽
◆▲▲◆◆ ◆◆▲▲◆
■―■
▲▲▲▲▲
しかしそれでも質、量ともに優るレムリア帝国側の騎兵の猛攻にチェルダ王国の両翼騎兵及び軽歩兵部隊は押されていく。
特にアリシアが指揮するレムリア右翼側の猛攻は激しく、チェルダ王国左翼騎兵をゆっくりと押し込み、包囲しようとする。
そこへさらに……エルキュールは中央に控えさせておいた
右翼でのアリシアの猛攻、そして左翼側への新たな
チェルダ王国の両翼はゆっくりと崩壊を始める。
またオスカル率いるレムリア軍の歩兵もまた……
数的不利にも関わらず、チェルダ王国歩兵に猛攻を加えていた。
剣で接近戦を行う軽歩兵は無論のこと、盾を持つ関係上あまり長い槍を持つことができないチェルダ王国の重装歩兵は、正面戦闘ではハルバートやパイクで武装するレムリア帝国の歩兵に敵わないのだ。
さすがに数ではチェルダ王国軍が優っていることもあり、中央は崩壊する兆しは見せていないが……
それでも大きく押し込まれていた。
〇〇〇―〇〇〇
□ □□□ □
〇〇〇▽▽ 〇□□□□□ □□□□□〇 ▽▽〇〇〇
◆▲▽▽▲◆ ●―●―■■ ■■―●―● ◆▽▽▲▲◆
▲▲◆◆ ◆◆
■―■
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「まさか、これほどまでにレムリアの騎兵が精強とは……やはり敵の狙いは両翼包囲による、包囲殲滅か。中央を開けているのはこちらの兵力を中央へと誘導するため……しかし、そうはいかないぞ! 敵の狙いは分かっているのだ。わざわざ嵌ってやる必要はない!」
カーマインは予備兵力として残していた軽歩兵を全て、両翼へと送り込む。
さらに念のために中央の戦力を一部割き、両翼をより補強する。
すると……
さすがのレムリア帝国の騎兵も、これほど分厚い両翼を突破することは難しいのか。
ゆっくりと勢いを衰えさせ……
そして両翼の戦況は膠着状態となった。
カーマインは見事、レムリア帝国の猛攻を防ぎ切ったのである。
〇〇〇 □□□ 〇〇〇
◆▲〇▽▽〇 □□□□□□ □□□□□□ 〇▽▽〇◆
▲▽▽◆ ●―●―■■ ■■―●―● ◆▽▽▲
▲◆◆ ■―■ ◆◆▲
▲▲▲
カーマインは、ほっと胸を撫で下ろした。
そして呟く。
「何とか、勝てそうだな……」
一方……両翼の攻撃を防がれたエルキュールは呟いた。
「勝った」
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