第21話 どっきり大作戦 舞台裏 結
砂漠越えが始まって一か月。
エルキュールとアリシア、シェヘラザード、ニアの四人は半径三メートルほどのプールの中に半身を沈めていた。
エルキュールはサーフ型の、他の三人はビキニ型の水着に身を包んでいる。
「ぐはぁー、生き返るなぁ」
エルキュールはプールの中で大きく伸びをした。
そしてそのまま両手を大きく広げ、アリシアとシェヘラザードを抱き寄せる。
「あぅ……」
「え、エッチです……陛下」
アリシアは小さく悲鳴を上げ、シェヘラザードは抗議の声を上げるが……
満更ではない様子で、エルキュールの両手に抱かれる。
シェヘラザードの大きな胸と、アリシアのそこそこ大きな胸に挟まれ、エルキュールは幸せそうな表情を浮かべる。
「疲れが抜けるようだな」
「陛下! 私も、私のことも忘れないでください!」
「まさか! 忘れてなどいないよ」
ニアはエルキュールの上に覆いかぶさるような形で、抱き付いた。
二人は熱い接吻を交わす。
「っひゃ! へ、陛下、そ、そこはダメです!!」
「良いでは無いか、良いでは無いか」
エルキュールはおもむろにニアの尻尾を掴んだ。
黒い、ハート型の可愛らしい尻尾だ。
「お前の尻尾は可愛いなぁ。ピクピク動いている。ほれ、ほれ」
「ひぃぁ……お、お願いです、そ、そこは、そこは、本当に、本当にだめなんですぅ……」
「そこ? そこって、どこだ? 具体的に言え」
「し、しっぽ、しっぽの、せ、先端は……」
「ここか?」
「ぁあ、んッ、ぁあああ!! ら、らめぇ、らめです。しょ、しょこだけはぁあああ」
ニアは小さな肩を震わせ、その裸体を紅く染めながら、体を震わせる。
そして脱力するように、エルキュールの体に倒れ掛かった。
エルキュールの手がニアの尻尾、臀部、背中を撫でるたびに、ニアは小さく体を震わせ、甘い声を上げる。
ニアをある程度弄り倒した後、エルキュールは右手側にいるシェヘラザードの肩に手を回した。
そしてゆっくりとその白い裸体を撫でる。
「シェヘラザード、お前は本当に、相変わらず良い体をしている」
「ふぅ……ぁあ、へ、陛下、ふ、二人がいますし……」
「さっき、散々ニアの痴態を食い入るように見ていたくせに、何を今更」
エルキュールはそう言ってシェヘラザードの体を、より自分に密着させた。
その美しく、たわわに実った果実を直接その手で触れることはせず、自分の体に押し付ける。
「相変わらず、大きいな。素晴らしい弾力だ」
「ぅあ……、は、恥ずかしい、です」
などと言いながら、シェヘラザードはエルキュールに自分の体を押し付けた。
シェヘラザード自身も、体と体を擦り合わせることで生まれる快楽に酔っているようだ。
「ひゃっ!」
エルキュールは左手で、油断していたアリシアの臀部を鷲掴みにした。
そしてそのまま自分の体に引き寄せる。
「お前は胸はそれなりだが……尻が大きいな。ルナと同じ……いや、シェヘラザードと同じくらいあるんじゃないか?」
「あぅ……」
「ひぅ……」
エルキュールは右手でシェヘラザードの臀部を、左手でアリシアの臀部を撫でまわす。
そしてじっくりと大きさを比べる。
「うーん、どっちも同じくらいに感じるな。これはしっかりと確かめないと……アリシア、シェヘラザード。命令だ……脱げ。ついでに、ニアもだ」
三人は顔を赤らめ……小さく頷いた。
散々体を重ねた四人は、その後プールから上がり、緩い衣服に身を包み、くつろいでいた。
「なんか、行軍以上に疲れた気がします……」
ニアはぐったりとソファーにもたれ掛かった。
同じく、ソファーに座っているアリシアとシェヘラザードも頷く。
「お前らは良いじゃないか。俺なんか、一人で三人を相手にしたんだぞ?」
エルキュールは冷えた桃を摘みながら言った。
もっとも、この桃は生果物ではない。
レムリア帝国から持ち込まれた、砂糖漬けの缶詰である。
「それは自業自得ではないですか」
「……その割には元気そうですね」
シェヘラザードは呆れ顔で、アリシアは苦笑いで言った。
エルキュールは肩を竦める。
「陛下、陛下……私も、その、欲しいです!」
「ん? ……ああ、なるほど。そういうことだな」
エルキュールは自分の使っていたフォークで桃を刺し、ニアの口元にまで運ぶ。
パクリ、とニアは桃を頬張った。
「ん、美味しいです……」
「それは良かった」
エルキュールはニアの頭を撫でる。
ニアは猫のように、エルキュールに擦り寄った。
「それにしても……何だかんだで、随分と進むことができましたね。私、半数は兵を失うことを覚悟していたんですが……」
シェヘラザードは過酷な行軍を思い返しながら言った。
もうすでにレムリア軍は約三〇〇〇の兵を失ったが……たったの三〇〇〇である。
これほど過酷な行軍で三〇〇〇人しか脱落者がいないのは、異常なことだ。
「まあ、念入りに準備したからな」
エルキュールはニヤリと笑みを浮かべた。
まず下準備として、行軍ルートに関しては事前に念入りに調べた。
砂漠の各所にある、水場の位置に関しては特に念入りに。
さらに重い荷物、つまり鎧や矢、糧秣もあらかじめバルバル族のオアシス都市へと運び込んでおいた。
「兵士たちの不満も殆どないようですね。私はブルガロン兵が反乱を起こすのではないかと、気が気でなかったのですが」
アリシアは呟いた。
素行の悪いブルガロン兵たちも、この行軍では随分と大人しかった。
これは故郷の家族を人質に取られているというのもあるが……
それ以上にエルキュールが兵士たちの不満解消に心血を注いだからである。
行軍中は仕方がないとしても、途中で立ち寄る、バルバル族のオアシス都市には娯楽を用意した。
性欲を解消させるための娼婦は無論、体を清めるための水場、そして缶詰を利用した美味しい食事など……
それらを事前に手配しておいたのだ。
そのため兵士たちは休憩地であるオアシス都市で羽を伸ばすことができ、行軍中に反乱を起こすこともなかったのだ。
「いやー、しかしだ……俺も辛かった。行軍中に女を抱けないのは本当にキツイ、うん、兵士の気持ちを理解するってのは大切だな」
うんうん、とエルキュールは頷いた。
エルキュールが進軍先にしっかりと娯楽を提供するのは、身を以って兵士の不満を味わっているからである。
こんなに辛いなら、反乱の一つや二つ、起こしたくなる。
と、エルキュール自身も思うからこそ、しっかりと休憩場所で娯楽を提供するのだ。
「皇帝陛下。おくつろぎ、いただけましたか?」
四人が客室でくつろいでいると……
バルバル族の族長、マシニッサが現れた。
「おお! マシニッサか、いや、助かったよ。あー、少々汚したが、それは謝っておく。すまないな」
エルキュールはすぐに立ち上がった。
マシニッサの国際的な立場は族長、首長……つまり国王より少し格下、くらいであり……
皇帝であるエルキュールであっても、相応の礼儀を示さなければならない相手だ。
「いえいえ、楽しんでいただけたのであれば幸いです」
この屋敷はマシニッサの邸宅である。
このオアシス都市はバルバル族、シュイエン氏族の首都とも言える場所なのだ。
そしてエルキュールが先程利用したプールも、マシニッサの所有物である。
砂漠では水を自由に使えることが、一種のステータスなのだ。
「ところでマシニッサ。そちらの兵は集まったか?」
「はい、陛下。騎兵六〇〇〇、歩兵一二〇〇〇。合計一八〇〇〇の兵を率いて、同盟軍として参戦いたします」
「ふむ……思ったより多いな。大丈夫なのか?」
「皇帝陛下の、レムリア帝国のご負担と比べれば、大したことはございません」
マシニッサはそう言ってエルキュールの心配を否定した。
しかし……実際はバルバル族シュイエン氏族の経済、人口規模から一八〇〇〇の兵はかなりの負担だった。
マシニッサはあくまでシュイエン氏族の族長である。
バルバル族、全ての王というわけでは、決してない。
フェザーン地方を支配し、複数のバルバル族の氏族を支配下に置くシュイエン氏族は確かにバルバル族の中では相当に強大な氏族であるが……
さすがにレムリア帝国やチェルダ王国に比べれば、その規模は霞む。
同じ遊牧系の民族とはいえ、豊かな草原を支配していたブルガロン王国とは異なり……
バルバル族シュイエン氏族の支配領域は、草木もまともに生えない砂漠地帯である。
一八〇〇〇という数はシュイエン氏族にとって、出せる限界ギリギリの数だった。
そうまでしてそれほどの大軍を提供したのは、マシニッサはこの戦争を勝てると踏んでいるからであり、またレムリア帝国にシュイエン氏族の力を見せつけて、その評価を上げると共に、牽制するためでもある。
「まあ援軍は多いに越したことは無い。何から何まで、感謝しよう。我々がここまで来れたのは、君たちの協力のおかげだ」
まず行軍そのものに、シュイエン氏族の道案内を必要とした。
またオアシス都市に物資を運びこむのも、そう簡単なことではない。
不自然なモノの動きをチェルダ王国に悟られれば、奇襲計画がバレてしまい、作戦が根幹から揺らぐことになる。
情報を隠蔽することに成功したのは、シュイエン氏族の全面協力があったからだ。
「いえいえ、大した手間ではありませんでした。元々、フェザーン地方はさほど人の往来が激しいわけではありませんから」
大砂漠を経由した交易は大昔から行われてはいるが……
しかしそれはレムリア帝国、ファールス王国、
その上、オアシス都市そのものは砂漠に取り囲まれ、完全に孤立している。
シュイエン氏族にとっては、情報の隠蔽などさほど難しいことではなかった。
また……レムリア帝国による、積極的なメシア教の布教活動と、マシニッサのメシア教政策も情報の隠蔽に一役買っている。
元々、教会を立てるために石材や木材などの物資の移動があり……
それをレムリア帝国から輸入する……と見せかけて、大量の糧秣をオアシス都市に送り込んでいたのだ。
そして物資は全て、教会の地下に保管されていた。
シュイエン氏族の多くがその物資の存在に気付かなかったのだ。
チェルダ王国がそれに気付けないのも、自明である。
「ところで……君らは幾度もチェルダ王国と交戦しているのだろう? こちらもそれなりに調べたが……注意すべき、敵将はいるか?」
エルキュールが聞くと、マシニッサは頷いた。
「そうですね。敵の将軍と言えば、やはりカーマイン将軍とイアソン将軍が有名です」
「それは俺も聞いている」
エルキュールは頷いた。
内戦中もエルキュールはチェルダ王国への諜報活動を続けていたが、その両名は国王派を代表する将軍として、よく名前が挙がっていた。
「しかし……私個人としては、『赤狼姫』が一番恐ろしいかと」
「赤狼姫?」
「はい。赤狼姫、ソニア・リュープス・ゲイセリア。率いた兵士に対して、殺した兵士の比率が最も高いのは彼女でしょう。チェルダ王国で一番、勇猛で残忍な部隊が、彼女の率いる『赤狼隊』です」
そう言ってからマシニッサはその『赤狼姫』の脅威について語った。
エルキュールはしばらく思案してから、頷いた。
「なるほど、分かった。俺からも部下に伝えておこう」
エルキュールは頷いた。
それからエルキュールはマシニッサに手を伸ばした。
マシニッサはエルキュールの手を取り……
握手を結ぶ。
「さて……作戦通り、頼むよ」
「分かっております」
マシニッサは頷き、そしてニヤリと笑みを浮かべた。
「レムリア帝国と、シュイエン氏族の繁栄のために」
「ああ。あの異端者共、西方派のメシア教徒共に、神の威光を示してやろう」
「諸君、一か月半もの間の長い行軍、大義であった!」
エルキュールは兵士たちに語りかけた。
砂漠の中、照り付ける太陽の下で兵士たちはエルキュールの顔をじっと見つめる。
「ここまで来るのに、少なくない犠牲が生じた」
レムリア帝国軍が行軍で失った兵は約三〇〇〇。
当初は四三二〇〇の規模を持ったこの軍は、すでに四〇二〇〇にまで目減りしていた。
しかし士気は落ちていない。
むしろ兵士たちは大いに高ぶっていた。
ようやく、この地獄のような行軍から抜け出せる。
そして……この鬱憤を、チェルダ王国軍にぶつけることができるのだ。
「あと一時間も行軍すれば、街が見えてくる。チェルダ王国とバルバル族の領域の、最前線の都市だ。ここを食い破り……一気にチェルダ王国の内部、テリポル市へと侵攻する!」
エルキュールはそう宣言した。
そしてマントを翻し、兵士たちに背を向け、北を、チェルダ王国の方を向いた。
そして大きな声を張り上げる。
「ジェベ! お前の率いる三個大隊は先鋒だ。騎兵の機動力でもって、チェルダ王国の防衛線に穴を開けろ!」
「は! 陛下!!」
ジェベは頷いた。
「続くはアリシア! お前の率いるブルガロン人部隊と、そして俺が直接率いる
「はい、陛下。必ずや、ご期待に応えてみせます」
アリシアは頷いた。
そしてそれに続き、ブルガロン人騎兵と
「続くはオスカル・アルモン! お前の率いる、歩兵軍団である。騎兵の速度に遅れるな、必ずついてこい!」
「はい、陛下!」
オスカルと歩兵軍団が雄叫びをあげる。
「最後にニア・ルカリオス! 背後を預ける。我らの背中を守り切れ」
「はい! 必ずや!!」
ニアは馬の手綱を強く握りめて、答えた。
最後にエルキュールはもう一度、全軍に号令を掛ける。
「さあ、諸君! これから一気に敵の領土へと、迫る。決して止まることなかれ、決して怯むことなかれ! レムリアの力を、蛮族共に、異端者共に見せつける」
そして大声で叫んだ。
「神は我らと共にあり!」
続いて、シェヘラザード、アリシア、ニア、オスカルが叫ぶ。
「「神は我らと共にあり!!」」
続いて全軍が叫ぶ。
「「「神は我らと共にあり!!!」」」
エルキュールは剣を頭上に振り上げ、そして北へと、チェルダ王国の方角を指示した。
「全軍!! 進撃、開始!!!!!!」
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