第10話 ペラティアの戦い 転
一方カロリナ率いるレムリア軍右翼
もともと
普段なら柔軟性に優れた兵科として活躍できるが……
さすがにオリジナルのブルガロンには勝てない。
どうしても器用貧乏になってしまう。
その上、
数と質で負けている以上、どうしても押されてしまう。
それでもカロリナは第一線で剣を振るい、ブルガロン兵を討ち取り続けた。
「お前ら!! 敵将は女だぞ!! 捕まえろ!!」
「「「おおおお!!!」」」
「……これだから蛮族は」
ブルガロン人たちはカロリナが女だと知ると、我先にとカロリナに殺到した。
あのレムリア皇帝の皇后である。
略取し、犯したいと思うのはブルガロン人にとっては当たり前のことだった。
「まあ、御しやすくて良いですけどね」
カロリナは契約精霊のエリゴスの姿をランスからハルバードのような形に変化させる。
もしエルキュールがその場でそれを見たら、「偃月刀」というだろう。
左手の剣で敵を払いながら、右手の偃月刀で敵を屠っていく。
「カロリナ様! そろそろ……」
「分かりました。……潮時ですね」
カロリナは部下の援護を受けながら、後方に下がる。
それを合図に
「追え!! レムリア軍の騎兵を撃破するぞ!!」
ブルガロン軍の戦略は騎兵の質でレムリアを圧倒して戦場から排除し、敵歩兵の背後に周り込むことだ。
そうすればさすがの鉄壁の守りも崩れるだろう、という目論見である。
テレリグは先頭にたってレムリア
レムリア歩兵側面を攻撃するようなことはしない。
側面には杭が刺さっており、またハルバード部隊がしっかりと守っているからだ。
何より側面攻撃に移るとレムリア
レムリア
「そろそろ、ですね!!」
ある程度まで逃げたところでカロリナは馬を反転させた。
次々とレムリア
「無駄だ! 今更反撃に転じても勢いはこちらに……」
テレリグが自軍に発破を掛けようと声を上げようとしたその時……
「テレリグ様、急報です!! (ブルガロンから見て)左側の森からレムリア軍と思われる歩兵が姿を現しました! その数約二〇〇〇!」
「な、何? 伏兵か? 小癪な真似を……」
とはいえ、歩兵など大した脅威でもない。
こちらは一三〇〇〇の騎兵なのだ。
テレリグは伏兵の撃退を命じようとする。
だが……
「急報です!! 後方よりレムリア軍と思われる騎兵約二〇〇〇が出現しました!!」
「テレリグ様! レムリア軍中央右翼の歩兵部隊がこちらに攻撃を仕掛けてきました!!」
川
川 森
川 ♪♪ 森森
川 森森森森
川 森森森森森
川 森森森森森森
川 森森森森森森
川▽▽▽ ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽ 森森森森森森
川○○○○○ ○○○○○○○○○○○○ 森森森森森森
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川◆◆◆ ● ●▽▲▲▽▽●森森森森森
川 ▲▲▲▲▲森森森森森森
▲▲▲▲▲森森森森森森
時は少し遡る。
「中央の歩兵で受け止め、両翼の騎兵で包囲殲滅ってカッコよくやりたいんだけどね? ぶっちゃけ無理なわけよ。だって騎兵の戦力で負けてるし。むしろこっちが回り込まれる危険がある」
エルキュールは将軍たち……ステファン、オスカル、エドモンド、ガルフィス、カロリナ、ニア、ジェベの顔を見渡して言った。
尚、ダリオスはお留守番だ。
「連中は生まれながらの騎兵、まあ大多数は
包囲どころか普通に戦えばこちらが包囲されかねない。
それだけ騎兵の戦力差というものは大きい。
「そこで連中の騎兵を各個、包囲して撃破する。狙うのは敵の左翼側の騎兵だ。オスカル、お前にハルバード部隊二個大隊をやる。森の中に隠れろ」
次にエルキュールはニアとジェベに向かって言った。
「お前らは初めての部隊指揮になるな。兵はお前たちに上げた“玩具”を使え。お前たちは森の向かい側を迂回して、連中の背後に周れ。こちらが旗を上げて合図をしたら、背後に攻撃を仕掛けろ」
ニアとジェベは神妙な顔で頷いた。
「俺は全体の指揮を執りつつ……頃合いを見て中央右翼のハルバード部隊を使ってブルガロン騎兵の側面を攻撃する」
そしてエルキュールは最後にカロリナの顔を見た。
「お前は偽装退却で連中をハルバード部隊が布陣するところまで誘い込め。そしてお前が反撃に転じた時を持って、オスカルと俺が両側面から攻撃を加え、そしてニアとジェベに合図を送る。これで前面、両翼、背面を包囲して連中を磨り潰す。さて、何か質問は?」
「はい! 陛下」
ニアは少し興奮した顔で元気よく手を上げた。
「私たちの兵力では後ろを塞ぐには少し足りないような気がしますが……包囲殲滅を狙うんですか?」
「いや、騎兵は機動力も突破力もある。殲滅は無理だな。それにお前の言う通り蓋の厚さが足りない。だから逃げようとする敵を無理に押しとどめようとするな。手痛い反撃を受ける。お前たちは後ろを適度に脅かすだけで十分だ。そして……逃げる敵の背中を攻撃しろ」
完全に包囲して圧力を掛ければ、敵の組織的な抵抗を奪うことができる。
そうすれば包囲殲滅してしまった方が戦果も大きく、そして犠牲も少ない。
だが完全な包囲ができないのであれば、無理に包囲を狙わない方が良い。
敵の組織的な抵抗力を奪えていない状態で包囲すると、返り討ちにあい突破され、さらに各個撃破の可能性すらもある。
「他に質問は? 無いみたいだな。よし、では各自配置に付け」
「さすが陛下です! 作戦通り!!」
「作戦中だぞ、気を引き締めろ」
うっとりとした表情で馬を駆けていたニアに対して、ジェベが忠告する。
するとニアは不機嫌そうな顔を浮かべた。
「あなたに言われなくても分かっています。……長年陛下に仕えて来た私が一個大隊を陛下から貰うのは分かりますが、何で新参のあなたも同じように貰っているんですか?」
「知らん、陛下に聞け」
「……何か、姑息な手を使いましたね?」
ニアはジェベを睨みつけた。
ジェベは妙にライバル心を剥き出しにしてくる
ニアはジロジロとジェベの顔を見て……
そして何かに気が付いたような顔を浮かべた。
「あなた、女顔ですね。ま、まさか……くぅーっ!! セシリアはともかく、こんな男に先を越されるなんて!! 陛下、酷いです!! 私にもお尻はありますし、それにちゃんと正式な方の穴だって……あ、もしかして、入れるのではなく入れられる方が好き? ど、どうすれば良いんだろう……は張形とかを用意した方が……」
「多分、あなたは大きな勘違いをしている」
などと言い合っている二人が率いているのはエルキュールが特別に与えた騎兵大隊だ。
ニアとジェベがそれぞれ一人づつ大隊を持っていて、合計二個大隊がブルガロン騎兵の背後に周り込んでいることになる。
エルキュールはブルガロンと戦火を交える前に騎兵を一個軍団増やそうと考えたが、それには三つの壁があり頓挫してしまった。
一つは純粋に予算不足。
二個軍団の騎兵だけでも莫大な予算を使っているため、さらに一個軍団の騎兵を増やすのは難しい。
もう一つは
もうすでに三個軍団分の
最後に練度の問題。
騎兵の育成には時間が掛かるため、そう簡単に増やせない。
そこでエルキュールはレムリアに帰化した遊牧民、遊牧民の子孫を使って騎兵を使うことを考えた。
全てのブルガロン人がブルガロンに帰属しているわけではなく、中にはレムリア帝国に帰属するブルガロン人もいる。
またブルガロン人以外にも過去多くの遊牧民がレムリアには侵入してきており、その子孫の一部は未だに伝統的な生活を維持している。
エルキュールは彼らから騎兵を募ったのだ。
その数は二四〇〇。
それを二つに分けて、ニアとジェベに与えて独立遊撃部隊としたのだ。
独立遊撃部隊にしたのはニアとジェベの成長を促したり、丁度良い感じに手頃な兵力があれば便利だとエルキュールが考えたりといろいろ理由はあるが……
一番大きな理由はエルキュール個人の遊び心であった。
独立遊撃部隊ってカッコよくない?
という、割と酷い動機である。
尚、エルキュールはニアとジェベには好きに訓練するように伝えている。
独立遊撃部隊なのだから、あくまでちゃんと独立して遊撃できる装備や訓練を施すのが前提だが、それさえ満たせばエルキュールとしては問題無い。
今まで戦場を連れまわし、知識を蓄え、最近少し精神的な成長を見せ始めて来たニアと、レムリアのような国とは全く異なる社会軍事制度の国出身のジェベ。
二人がどのような部隊を作るのか、エルキュールは少しだけ楽しみにしていた。
もっとも「何でも良い」ほど困るものはなく、ニアとジェベは密かに頭を悩ませているのだが。
結成してまだ一年足らずなので、今のところ両者の軍にさほど差は無い。
強いて言うなればジェベの部隊の方が軽装で、ニアの部隊の方が
「俺が騎射で敵を乱す。そこにお前が突っ込め」
「一々私に指示をしないでください! 私はあなたの部下でないですよ! まあ、今回はそれに乗ってあげますけど」
ニアは不機嫌そうに言いながら、短槍を構える。
ジェベは背後に周り込まれて混乱気味のブルガロン騎兵の背面に矢を浴びせかけ、間髪置かず突撃した。
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