第7話 ニア・ルカリオス 後

 セシリアとの茶会の翌日、ニアはノヴァ・レムリアの街を歩いていた。

 ノヴァ・レムリアは場所によって住む人の身分も物価も治安も異なるが、今ニアが歩いているのはノヴァ・レムリアの下層市民たちが住む場所であり、ニアが生まれ育ち、捨てられた場所だ。


 「昔と比べて活気があるなぁ……」


 ニアが小さい頃はもっとこの辺りは沈んでいるように見えた。

 だが今は大いに活気づいている。

 

 エルキュールの今までの統治政策の成果と言える。

 そしてこれから行われる貨幣改鋳政策により、ますます発展する……

 というのがエルキュールの説明だった。


 ニアは詳しいことはよく分からないが、エルキュールがスゴイということだけは分かった。


 「……あの二人はどうしているんだろう?」


 あの二人。 

 つまり自分自身の両親のことだ。


 捨てられて以来、ニアは両親に出会っていない。

 少し前は両親に対して強い憎しみを抱いていたため、積極的に探していたが、見つからなかった。

 聞き込みによると二人ともノヴァ・レムリアから引っ越したようだ。


 引っ越したのはニアがエルキュールに拾われる少し前。

 ニアから逃げたというよりは、良い思い出のないノヴァ・レムリアを離れたというのが適切である。


 さすがにノヴァ・レムリアの外に出られると、ニアも探すことができない。

 そこまで執着するほどでもないとニアは感じたため、ノヴァ・レムリアから離れた事実を知ってからニアは両親を探すのを止めた。


 「ノヴァ・レムリアの外に仕事先なんてあるのかね?」


 ニアは首を傾げた。

 ノヴァ・レムリアの人口が年々増加しているのは、ノヴァ・レムリアが人手不足気味で来る人を拒まないということと、そしてノヴァ・レムリアの賃金が地方と比べても頭一つ抜けて高いからだ。


 ニアが知る限り、ニアの両親はノヴァ・レムリア生まれノヴァ・レムリア育ちだ。

 ノヴァ・レムリアの外に伝手などない。

 何か伝手かコネがないと、職を得るのは難しい。


 「まあ、どうでも良いか」


 そんなことよりも今は目の前のことだ。

 

 ニアが最も恐れているのはエルキュールやルーカノスから見捨てられることである。

 昔のニアと今のニアの違いは、ルカリオス家の養子にしてもらった、ことだけだ。

 

 ルカリオスの家名を失うことは、昔と同じ場所、雪が降り積もる裏路地に戻ることを意味していた。

 もっともそうなれば必ずセシリアが助けてくれるため、飢え死にする心配はないが……

 ニア自身のアイデンティティを保つことができない。


 「何か、陛下に仕事を貰おうかな?」


 功績を上げるにしても、仕事が無ければ何もできない。

 だが問題は十五歳のニアに勤まるような仕事があるのか、ということだ。


 エルキュールはニアを贔屓して可愛がってくれてはいるが……

 だからといって重要な仕事を与えるほどの贔屓はしてくれないだろう。


 エルキュールという男はあくまで実力を最優先する。


 「試しに頼んでみようかな……」


 




 「仕事が欲しい?」

 「は、はい……陛下のお役に立ちたいのです。何か、私にできることはないでしょうか?」


 するとエルキュールはしばらく考え込んでから答える。

 

 「うーん、まあ俺個人の心情としては何か仕事を与えても良いのだが。だがね、お前を極端に贔屓することはできないんだよ。それはお前にとっても良くない。要らない嫉妬を集めるからな。お前はただでさえ、魔族ナイトメアだから」


 ニアは上流階級の者たちの間では同情を集めることができているが、それは容易に引っくり返る恐れがある。

 好意は悪意に、同情は嫉妬に。

 

 それに、さすがに十五歳の小娘に重要な仕事を任せるほどエルキュールも阿呆ではない。


 「何でも良いんです」

 「何でも良い、ね。どうして急に仕事なんて欲しくなったんだ?」

 「それは……その、このままじゃダメだと思ったんです。セシリアを見て……」


 ニアの言葉を聞き、エルキュールは目を細めた。

 そしてしばらく考えてから答える。


 「まあ、無いことは無い」

 「本当ですか?」

 「ああ。まあ華々しいような仕事ではないが……知っての通り、ノヴァ・レムリアの治安維持は我々ユリアノス家が保有する奴隷及び解放奴隷によって構成されている、警邏奴隷が担当している」


 警察には大きく分けて司法警察と行政警察があるが、警邏奴隷は行政警察に当たる。

 ノヴァ・レムリアを巡回し、犯罪を抑止したり、現行犯で捕らえたりするのだ。


 「ただ近年、それだけでは手が回らなくなって来た。外からノヴァ・レムリアに移住してきた人間が犯罪に遭うケースが増えている」


 警邏奴隷が行政警察に当たるとするのであれば、司法警察に当たるのは何かというと……

 実はレムリア帝国には司法警察に相当するものは存在しない。


 殺人事件が起きたとしても、それを国が捜査して解決することはないのだ。


 もし殺人事件が起きたならば、その殺害された人間の家族や友人、そして被保護者クリエンテス保護者パトロネス関係にあるものが独自に調べ、証拠を集めて裁判所に訴える。


 なぜ司法警察が無いのかといえば、まあ率直に言えば莫大な費用が掛かるからだ。

 レムリア帝国は非常に小さな国家であり、まさに夜警国家と言える。


 今まではそれでも問題は無かったのだ。

 何故なら地域コミュニティーが司法警察の代わりをしっかりと果たしていたからである。

 最低限の秩序は守られていた。


 だが近年の労働力流入と人口増加により、そうはいかなくなってきている。

 新たにノヴァ・レムリアにやってきた人間はどこのコミュニティーにも属していないわけで、路地裏で刺されて殺されようが、強姦されようが、その犯人を見つけるために尽力してくれるような存在がいない。

 余所者への排外感情もあり、新しい住民に対する犯罪が横行している。


 これだけならばまだ良いのだが……

 それ以上に問題なのは、その新しい住民たちが自衛のために徒党を組み始めることだ。


 それが自衛の範疇に収まっていれば良いが……

 まあ大概新しい住民の多くは低所得層であり、素行もあまり良いとは言えない。


 自衛が行き過ぎて犯罪を行うようになり、最終的にギャング、マフィア、ヤクザなどの暴力団の類に変異する可能性がある。

 エルキュールとしてはそれだけは避けたい。


 「まあそんなわけでこれからはちゃんと犯罪の調査をしていかなければならないわけで、警邏奴隷をさらに拡充し、奴隷や解放奴隷以外の人間も雇用したりしているわけだが……調査の指揮を執れる人間がいなくてな」


 日本では刑事ドラマなどがあり、それに憧れる子供たちは多いかもしれないが……

 レムリア帝国で犯罪の取り締まりをする仕事に憧れる人間は、変人の類だ。

 

 それは主な構成員が奴隷や解放奴隷であることからも自明だろう。

 捜査そのものが地味であり、さらに人を疑う職業であるため嫌われやすい。


 そのため貴族などの知識層はまずそんな仕事をしようとは思わない。

 

 今まではそれで良かったのだが、犯罪の捜査が仕事に加わると話は少し変わる。

 ある程度、法律への知識が必要になるからだ。


 元々レムリア帝国の法体系は不文法の積み重ねでできており、かなり複雑だ。

 少なくともきちんとした教育を受けたことがある者でないと、法律を把握することは難しい。

 

 それを奴隷や解放奴隷に求めるのは酷というものだ。


 「法律の知識もそうだが、身分も必要になる。富裕層が犯罪に関わっていたら、奴隷や解放奴隷共では遠慮して手が出せん。だからどこか家格の高い貴族を……と思ったんだが、みんな嫌がってやろうとしないわけだ。で、どうだ? やるか? ルカリオス家ならば家格に申し分はないが」


 ニアは間髪入れずに頷いた。


 「是非、やらせてください!! あ、でも……お養父様に許可を取らなくてはならないので、少し待って頂けませんか?」

 「ああ、問題無いよ。だができるだけ返答は早くしてくれよ」

 「はい!!」


 ニアはすぐに自分の養父に許可を取りに行くために踵を返した。

 ニアの後ろ姿をエルキュールは楽しそうに笑みを浮かべて見送る。


 「少しは変わったみたいだな」







 幸いなことにルーカノスからの許可はあっさりと下りた。

 仕事内容が仕事内容なだけあり、上流階級からの反発も少なく、ニアは無事に“警察長官”の地位に就くことに成功した。


 「それにしてもどんな犯罪を追いかければ良いんでしょうかね……何か意見ありますか?」


 ニアは副官に当たる、解放奴隷の男性に尋ねた。

 元々はその男性が警邏隊の隊長だったが、ニアが来たことで地位が奪われた形になっている。


 最初はニアに対して反感を抱いていたが、ニアが物腰を低くして接したことと実務をその解放奴隷の男性に一任し続けたことにより、現在の関係は良好だ。


 これはエルキュールからのアドバイスである。


 経験不足のニアがいきなり陣頭指揮などできるはずがないから、最初はお飾りに甘んじて置け。

 そして年長者を敬う姿勢を見せれば、チョロイ・・・・解放奴隷は「お貴族様が俺に対して腰を低くして対応している!」と気分が良くなり、態度が柔らかくなるはずだ、と。


 「やっぱり最初は大物を狙って、我々の仕事ぶりを世間にアピールしませんか?」 


 「その言い方だと、候補はあるみたいですね」


 「ええ、最近ノヴァ・レムリアで横行している女性や子供の誘拐……どうです?」


 「誘拐、つまり奴隷狩りですか」


 自由民を攫って奴隷にする行為は重罪だが……

 見逃されやすい。

 というのも、大概は下層民の子供や女性を対象にするため大事になりにくいからだ。


 さらに富裕層である奴隷商人も一枚噛んでいたりするわけで……

 被害者の家族は泣き寝入りするしかないのが現状だ。


 「陛下の御膝元でそんな卑怯な犯罪が横行しているのを見過ごすわけには……いかないですね。奴隷商人が相手なら私のコネも生きるし……よしそれにしましょう」


 奴隷の最大の購入者は農地経営をしたり、自分の手足になる部下を欲する貴族だ。

 ルカリオス家も奴隷商人とは太いパイプがある。


 ニア自身もしっかりと活躍してエルキュールにアピールすることができるわけで、最初のターゲットとしては適当に思われた。


 「そうと決まったら話は早いですね。俺たちは下町で聞き込みをします。長官は……」

 「うん、分かってます。貴族と奴隷商人たち、そして教会の方にも問い合わせてみますね」


 斯くしてニアにとって初めての仕事が始まった。



 

 「これで全員か……」

 「長官って強いんですね……」


 半年間の調査の結果、奴隷狩り組織のアジトを突き止めたニアたちは、奴隷の取引現場に突入して、彼らを現行犯で捕まえることに成功した。

 

 敵の七割はニアが倒した。

 普通の人族ヒューマンや下位種の獣人族ワービーストでは、身体能力でニアには敵わない。

 今のニアはそれだけの実力を身に着けている。


 「副官、捕縛を終えたら被害者たちを解放して」

 「はい、分かりました」


 警邏たちは敵から奪った鍵を使い、奴隷たちの檻と枷を外していく。

 心底安堵した表情の被害者たちの顔を確認してから……

 先程から自分が椅子替わりに座っている男に言った。


 「あなたにはこの取引に関係している全ての奴隷商人の情報を吐いて貰います。良いですね?」

 「……吐けば罪が軽くなるか?」

 「死刑だけは免れるようにしてあげますよ」


 ニアがそう言うと男―奴隷狩り組織のリーダー―は溜息を吐いた。

 

 「できれば一生牢獄に入れてくれ……下手に保釈されると殺される」

 「それは裁判官に言ってください。……洗いざらい全部吐けば、全員捕まえてあげます。安心してください」

 「そうかい、じゃあ期待してるよ……それと重いから退いてッゲホ!」

 「失礼な」


 ニアは男の頭を殴ってから立ち上がる。

 言って良いことと悪いことが世の中にはあるのだ。


 「まあそれはさておき……これで予算も増えるかな?」


 ニアはほくそ笑んだ。





 

 「という理由で給料が上がったから、何かご飯でも奢ってあげようと思うんだけど食べたいものある?」

 「奢り……ですか?」


 胸を張って自慢気に言うニアに対して、セシリアは困惑した表情を浮かべた。

 

 「何? たかが奴隷狩り組織を一つ潰したくらいで調子乗るなみたいな?」

 「そういう捻くれてるところはあなたの欠点ですね。いえ、活躍は聞いていますよ。素直に凄いと思います。ですが私は聖職者なので、あまり贅沢は……」

 「しょっちゅう陛下とお茶したり葡萄酒飲んでるのに?」

 「い、いや……それはエルキュール様が飲めというから……」


 それはそれ、これはこれというやつだ。


 「私の奢りだから良いでしょ?」

 「何だか集っている感じがしますが……分かりました。あなたが全額支払ってくれるなら行きましょう」

 「それで何が食べたい?」

 「高級ステーキ」

 「少しは遠慮しなさいよ。そんなに給料高くないのよ」


 そんなわけでニアとセシリアはノヴァ・レムリアの街に繰り出すことになった。

 無論、セシリアは身分を隠した上での外出だ。

 普通の町娘の服を着て、目立つ髪が隠れるように帽子を被る。


 「この仕事をやってから知ったんだけどね、この街ってしょっちゅう殺人や強盗、強姦が起きてるの。だからセシリア、私から離れないでね」

 「まあ他ならぬこの街の主人が強姦魔ですからね……」


 セシリアはどこぞの長耳族エルフの皇帝の顔を思い浮かべた。

 君主からしてそうなのだから、国民もそうなってしまうのだろう。


 「だから普段からの見回りと、犯罪を犯したら捕まるっていうことを知らしめることが大切なんだけどね? それはそうと、教会って告解をしてるじゃない? あれで犯罪犯した奴がいたらこっそり教えてくれない?」

 「できるわけないでしょ、そんなこと……例え相手がどんな罪を犯していたとしても、告解で聞いたことは誰にも話しませんよ」

 「こっそりで良いの、こっそりで」

 「そういう問題ではありませんので」


 セシリアはきっぱりと断った。

 ニアは不満顔だ。


 そんな話をしながら二人は店の中に入った。

 そしてステーキを食べながら話を続ける。


 「メシア教の教義でさ、隣人を愛せってあるじゃない? 人を許しなさい、とも。じゃあさ、セシリアも私に対しても許せっていうの?」

 「どんなことに対する『許し』のことですか?」

 「私の両親」


 セシリアはナイフとフォークを置き、真剣な顔で言う。


 「そうですね……聖職者としてならば、許しなさいと言いますね」

 「でも……」

 「聖職者としてならば、です」


 セシリアは自分の立場を明確化した。

 

 「友人としていうのであれば、大事なのはあなたが御自身の両親を許すか、許さないかではなく、どこかで折り合いをつけられるかだと思いますよ」

 「……折り合い?」

 「復讐をしようが、仲直りをしようが、過去は変わりません。大事なのは今、この時であり……その先の未来でしょう? ならば過去に引きずられるよりも、どこかで割り切ってしまうのが良いと思います」


 そしてセシリアは問いかけた。


 「あなたはご両親に復讐したいんですか? それとも仲直りしたいんですか?」 

 「少なくとも仲直りしたいだなんて、思ってない。あんなクズ親、こっちから願い下げ」

 「じゃあ復讐したいんですか?」

 「うん、まあね」

 「具体的にはどんな?」


 セシリアに言われて……

 ニアは言い淀んだ。


 「私としましては、犯罪者の友達は持ちたくありません。それだけはやめてくださいね」

 「分かってるよ……暴力を振るったりとかは、しない」

 「本当ですか? 小耳に挟んだのですが、あなた平民の方に対して暴力を振るったことがあると聞きましたよ?」

 「……最近はしてないよ」


 確かに昔、ニアは街に繰り出しては自分を虐めた相手に対して復讐を繰り返していた。

 だがエルキュールやルーカノスに咎められて以降は回数を減らし……

 今は殆どしていない。


 警察長官としての仕事が忙しいからだ。


 また……

 ニア自身は無自覚だが、ニアには軽度の嗜虐癖がある。

 

 今までは憎い相手にそれが発散されていたが、最近はその標的が犯罪者に変わったという事情もあった。


 「反省してますか?」

 「してない」

 「はぁ……まあ告解をしたくなったらいつでも来てください。ちゃんと赦しを上げますよ」

 「ふん、何で私が赦しを貰わないといけないのよ。私は絶対にあいつらを許さない!」


 そんなニアを見て、セシリアは思わず笑った。


 「何、笑ってるのよ……」

 「いえ、あなたも変わったなと思っただけです」







 番外編 とある女性の告解



 「実の息子が愛せない、ですか」


 セシリアは小窓の向こう側の女性に聞き返した。

 小窓にはカーテンがしてあり、相手の顔は見えない。


 若い、綺麗な声の女性であることしかセシリアは分からない。

 相手の身分や地位には詮索しないのがルールだ。


 「はい、私には息子が二人いました。長男は非常に出来が悪く、次男は……とても出来が良い息子です。次男が生まれる前は私たちの家では長男が家督を継ぐことになっていて、私たち夫婦はその長男を非常に可愛がっていました」


 「……なるほど」


 子供どころか結婚もしたことがないセシリアにはイマイチ実感が持てない。

 が、別に告解は相談室ではない。

 罪の告白を聞き、赦しを与える場なので……赦しの奇蹟を扱える司教であるならば人生経験の有無は関係ない。


 「しかし私たちが甘やかしすぎたせいで長男は……その、非常に素行が悪くなってしまったのです。彼を跡継ぎにして良いのか悩んでいた時期に次男は産まれました。私たちはその次男を可愛がり過ぎないようにできるだけ距離を離して育てました。次男は……非常に優秀で聡明でした。夫は大変喜んで、次男を跡継ぎに指名しました。ですが私には……」


 「その次男が愛せないと?」


 「はい」


 女性は沈んだ声で答えた。

 手間の掛かる子供と手間の掛からない子供、案外前者の方が可愛く思える……というのをセシリアは聞き齧ったことがある。

 そういうことなのか? とセシリアが考えていると……


 「怖いんです、次男は……」

 「怖い?」

 「あの子は笑わないんですよ。いえ、笑いはするんですが……あれは笑ってなんかいないんです。笑みをお面のように張り付けているだけで、実際はただの無表情なんです。怒った顔を浮かべる時も悲しい顔を浮かべる時も……それは無表情と変わらないんです。もう、何を考えているのか分からなくて……」

 「……」

 「結婚式の招待状も来たのですが……行けませんでした。分かってはいるんです、愛してあげなくてはいけないことは。だけど……どうしてもダメなんです。ああ、主よ、赦しを下さい……」


 告解が終わったようなので、セシリアは口を開いた。


 「私は父と子、聖霊の御名によってあなたの罪を赦します、アーメン……」


 告解を終え、立ち去る女性にセシリアは声を掛けた。


 「……一度親子で話し合っては如何ですか? 未だ子供どころか夫すらいない者が助言など、差し出がましいかもしれませんが、このままでは何一つあなたの実生活は変わりませんよ? 主の赦しはあくまで今まで犯してしまった罪への赦し。……今後の罪とは別ですし、それにあなたの人間関係が変化するわけではありませんから」


 セシリアがそう言うと……


 「……考えてみます、姫巫女メディウム猊下」


 女性は辛そうに答えた。

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