第20話 手紙

 ・初めてのやり取り



 レムリア帝国皇帝陛下


 拝啓


 このようにお手紙を書くのは実は陛下が初めてなので、勝手が分かりません。

 御無礼を働いてしまうかもしれませんが、申し訳ございません。

 先だってお詫び申し上げます。


 本日陛下へお手紙を書かせて頂いたのは、お聞きしたいことがあったからです。


 陛下がおっしゃられた「何か困ったこと、聞きたいことがあったらいつでも手紙を書いてくれ」というお言葉に甘えて、お手紙を書かせて頂いた次第です。

 

 お恥ずかしながら、私が姫巫女メディウム猊下に後継者としてご指名して頂いたのは、数年前のことでございます。

 当時は突然のことで実感が湧かず、今でも姫巫女メディウムになった私の姿を想像することができません。

 姫巫女メディウム猊下のように素晴らしい姫巫女メディウムになれるか、正直なところ不安なのです。


 先日、皇帝陛下にあのような大言を申し上げた身の上でこのようなことをお聞きするのは、大変恐縮なのですが……

 上に立つ者はどのような心構えでいれば良いのでしょうか?


 皇帝陛下は十二歳、私と同じ年で御即位したとお聞きしています。

 その時、不安に思うところはなかったのか、何か気を付けたことはあったのか……


 宜しければお教えいただけないでしょうか。


 敬具


 セシリア・ペテロ


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 セシリア・ペテロ様


 拝啓


 あなた様のように有望で可愛らしい、次期姫巫女メディウムに頼りにされるのはレムリア皇帝としても、男としても光栄の限りです。

 

 さてあなた様は次期姫巫女メディウムへの即位に不安を抱かれているとのことですが……それは至って普通のことです。

 姫巫女メディウムともなれば、メシア教の象徴的存在。

 その責任は重く、不安を抱かれることは恥ずかしいことではありません。


 おっしゃられる通り、私はレムリア皇帝に即位したのは十二歳でしたが、不安で一杯でした。

 お恥ずかしながら、一度逃げ出そうとしたこともあったのです。

 ですが優秀な家臣たちと私を支持してくれる臣民たちのおかげで、今までやってこれました。

 私は決して一人の力でここまでできたとは思っておりません。


 (※作者注意 あくまで手紙の上での社交辞令です。実際のところは何一つ不安など抱いて居ませんでしたし、逃亡は演技で即位にはノリノリでした。今までやってこれたのは九割くらい自分の能力のおかげだと心の底から彼は信じています。以下、彼の手紙の中には心にも思っていないことが一部書かれているのでそのことを留意してお読みください)


 そろそろ本題に入らせて頂きます。


 上に立つ者としての心構えですが……

 どのような時も胸を張り、自信に溢れているように見せることです。


 例え不安に思ったとしても、そのことを口や表情に出してはいけません。

 なぜなら、不安は上から下に感染するからです。


 上に立つ者が常に不安そうな顔をしていれば、その家臣たちの顔も不安そうになります。

 そしてさらにその下の者達の表情も暗くなるのです。


 レムリア皇帝、姫巫女メディウムは立場こそ違えどメシア教世界の指導者であります。

 メシア教世界の指導者である我々がそのように不安そうな表情をしていれば、それは全てのメシア教徒たちに感染することになります。

 それはメシア教世界全体の活力の低下を意味し、異教徒や異端者たちに付け入る隙を与えることとなります。


 ですから、あなた様も不安な表情は決して出してはなりません。

 

 とはいえ、不安に思うことは誰しもがあることです。

 もし耐えきれなくなったら……いえ、少しでも不安に思うことがあったら私にご相談ください。

 

 年長者として、メシア教世界の守護者としてお助け致しましょう。


 私ももしもの時はあなた様を頼らせて頂きます。


 敬具


 エルキュール・ユリアノス



 

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 ・異教徒や異端者について


 エルキュール陛下


 拝啓


 陛下とお手紙のやり取りをして半年となりました。

 陛下とお近づきになられて、大変嬉しく思っております。


 私は陛下のことを大変尊敬していますが、しかし一部では納得のいかない点がございます。

 ずばりお聞きしますが……陛下は異教徒や異端者の存在について、如何様にお考えであらせられますか?


 陛下が布告なされた『アレクティア勅令』の内容が、私は未だに納得することができておりません。

 今まで陛下とやり取りをした限りでは、私は陛下は大変敬虔なメシア教の信徒であるような印象を受けました。


 しかし『アレクティア勅令』は私の、陛下のそのような印象からは真逆に映るのです。

 

 無論のことながら、私としましては全ての異教徒と異端者を皆殺しにせよなどと申しているわけではございません。

 彼らの教えが、人生が正しかったかどうかは全て……主(神)による最後の審判によって明らかとなります。

 

 ですが私は全ての生きとして生きる者たちには正統なる教えを享受する権利があると考えておりますし、我々メシア教徒はその教えを伝える義務があると考えております。


 陛下の『アレクティア勅令』はそのような機会を減じてしまっているように感じます。

 

 大変ご無礼な質問だとは思いますが、是非お考えをお聞かせください。


 敬具


 セシリア・ペテロ


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セシリア・ペテロ殿


 拝啓


 私もあなたのような大変お美しい女性とお知り合いになれて、光栄に思っております。

 今後ともあなたとは交流を深めていきたいと思っております。

 立場に違いはあれど、私とあなた個人との友情に違いはないと考えております。


 さてあなたのご指摘は御尤もでございます。

 大変耳が痛い限りです。


 とはいえ、私は私自身のやり方が最善では無いにしても次善ではあると、為政者としてより多くの者たちが幸福になり、神の正しき教えを享受できる機会を得ることができる政策であると確信しております。


 そもそもですが、なぜ異教徒や異端者などという存在がいるのでしょうか?

 

 神の子が我らに享受して下さった教えは大変素晴らしいものです。

 この教えに全ての者たちが耳を傾け、理解すれば……きっとより多くの者達が神の国へと旅立つことができるでしょう。


 しかし現実として、この世界には多くの異教徒や異端者が存在致します。


 神の教えは間違いなく正しく、そして素晴らしいものです。

 ではなぜその教えに彼らが従わないのか、耳を傾けないのか。


 私が思いますに、それは我らの不徳の致すところに原因がございます。 


 即ち我らの伝え方、さらには振る舞いに原因があるのです。

 

 大変お恥ずかしいことですが、我が国のメシア教徒の中には異教徒や異端者に対し、理不尽な暴行・強盗・強姦を行う者が官民聖職者問わず一定数存在致します。

 またニアのように同じメシア教徒でありながらも、少数民族であるという理由だけで理不尽な迫害を加える者たちがいるのです。


 このような態度では異教徒や異端者たちがその心を固く閉ざしてしまうのは、致し方が無いことでございます。

 

 これが我が国の現状なのでございます。


 さてここで一つ例え話を致しましょう。


 北風と太陽、というお話しでございます。



 (※以下、北風と太陽の童話の概略が続く)



 今まで我々は北風のやり方で異教徒や異端者と接してきておりました。

 ですが現状は悪化するばかりであり、一向に改善いたしません。


 そこで私は太陽のやり方で彼らに接しようと考えたのでございます。


 つまり私の目的はあなたと同様に、世界中の全ての生きとして生きる者達が正しき教えを享受し、そして神の国へと誘われるような世界を作ることでございます。


 ご理解いただけたら幸いです。


 敬具


 エルキュール・ユリアノス



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 ・誕生日プレゼント


 親愛なるセシリア


 拝啓


 君とやり取りをしてから随分と時間が経つ。

 私の中の君はチビセシリアのままなのだが、果たして君はどれくらい成長し、美しくなっているのだろうか?

 できれば近い内にお会いしたいと思っているが、しかし政務に忙しくて君と会う時間が取れない。


 実に残念なことだ。


 成長、といえば……

 君の親友であり、私の大切な家臣であるニアは随分と大きくなった。


 もう百五十センチを超えてしまった。

 体も女性らしく成長している。


 我が妻のカロリナもニアの成長には焦り始めているようだ。

 子供の成長とは恐ろしい。


 まあ私も少し前までは子供だったのだが。


 ニアの誕生日が十二月にあることは知っているだろうか?

 前夜祭と同じ日だ。


 彼女にはドレスを贈った。

 もう十四歳になるわけだし、社交界にも必要だと判断したのだ。


 ニアも君に会いたがっている。

 特に身長を気にしているようだ。


 君には勝ちたいらしい。




 さて本題に入ろう。


 私は『普遍』は物体ではなく……(以下神学的な話が続く)



 以上である。

 ではいつか、お会いできる日を心待ちにしている。


 敬具


 君の守護者である、エルキュール・ユリアノス


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 親愛なるエルキュール様


 拝啓

 

 エルキュール様とお手紙のやり取りをして随分とお時間が経ちますね。

 私の成長ですが……ちゃんと身長も伸びてきております。


 エルキュール様にお見せできる日を心待ちにしております。




 ところで私の誕生日は一月一日なのですよ。




 ニアは誕生日にドレスを頂いたとのことですね。

 私はニアともやり取りをしていますが、そのお話はニアから聞いておりませんでした。


 どういうことでしょうか?

 何故彼女がそのことを私にお伝えしてくれなかったのか、実に残念です。



 私は彼女に誕生日カードを贈りましたが、そのような素晴らしいプレゼントの前では私のカードは見劣りしたかもしれませんね。

 ニアが羨ましい限りです。



 

 ところで私の誕生日は一月一日なのですよ。





 しかしエルキュール様。

 そのように特定の家臣を贔屓するようなことは、皇帝として如何なものでしょうか?

 周囲の者達の中には不満を抱く者もいらっしゃるのではないでしょうか?

 

 私はエルキュール様のためを思って言っております。

 そのような依怙贔屓は止めた方がよろしいかと。





 ところで私の誕生日は一月一日なのですよ。





 さてニアの誕生日などというどうでも良いこと・・・・・・・・は置いておいて、本題に入らせて頂きましょう。


 私は『普遍』は……(以下神学的な話が続く)



 以上です。

 では、お会いできる日を心待ちにしております。

 

 敬具


 エルキュール様の友人であるセシリア・ペテロ



 追伸


 ところで私の誕生日は一月一日なのですよ。


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 ・ローサ島攻囲について 

 

 親愛なるエルキュール様


 拝啓


 まずお祝いの言葉を述べさせていただきます。

 ローサ島、陥落。

 おめでとうございます。


 ローサ島の海賊たちの悪行は聞き及んでおりました。

 彼らが一掃されたことで、より多くの方々が安全に航海することができるようになったでしょう。


 またローサ島の多くの異端者たちが、エルキュール様の御導きによって正しき教えに触れることができ、神の国に導かれる機会を得ることができるようになったことは、神に仕える敬虔な一人の僕としてとても喜ばしいことであると、思います。


 ローサ島攻囲での詳細につきましては、既に私の耳にも入っております。

 多大な犠牲が出たとのことで……

 レムリア総主教座内部に於いても、エルキュール様の行動を咎めるような声が上がっております。


 確かにエルキュール様の今回のやり方は少々強引であり、苛烈であったようにも見えます。

 ですがそれ以上にローサ島海賊団が多くの敬虔なメシア教徒を苦しめたのは事実であります。


 ローサ島海賊団の罪は重く、また彼らの悪行を知りながらもそれに協力していたローサ島の異端者たちもまた、無罪とは言えません。

 罪なき人々を殺めた、という非難は不適切なものです。


 もしローサ島海賊団に対して穏やかに接したとしても、果たして彼らが簡単に心を入れ替えるかどうかは、分かりません。

 幾度も反乱を起こし、その度に多くの犠牲が出るくらいならば……


 此度のように、一度に全てを片付けてしまうのが最良の選択肢であったと思います。


 偉そうなことを言うなと御不快に思われるかもしれませんが……


 もしかしてエルキュール様がお気に病まれているのでは……と思い、ペンを取らせて頂きました。

 

 私とエルキュール様は立場は違えど、同じ「より多くの者がメシア教の教えを享受できるような世界を作る」という目的を共有しております。

 もし何かあったならば、私を頼っては頂けないでしょうか?


 まだまだ未熟者ですが、できるだけエルキュール様のお力になりたいと思います。


 敬具


 エルキュール様の理解者であるセシリア・ペテロ


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 親愛なるセシリア


 拝啓


 励ましの言葉、ありがとう。

 お心遣い、感謝する。


 今回は私個人も、少々やり過ぎではあったと反省しています。

 とはいえ、海賊たちを屈服させるためにはあれ以外のやり方を思いつくことはできませんでした。


 これは私の不徳の致すところでしょう。

 

 私は政治家であり、軍人。

 これは多くの人を救う一方、人を殺す仕事でもある。


 事実私の手は血で真っ赤に汚れているでしょう。

 

 とはいえ、誰かがやらねばならぬことなのです。

 これをできるのは私だけです。


 これは神より私に与えられた使命であると、私は考えております。




 私は……私のことを英雄と慕い、称える者だけの英雄でありたいと思っています




 百の外国人の幸福よりも、たった一人の臣民の幸福の方が遥かに大切であると、私は思っております。

 

 敬具


 君の大切な理解者であるエルキュール・ユリアノス


 

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 セシリア・ペテロ様


 拝啓


 あと少しでお互い誕生日ですね。

 今年もお誕生日カードを贈らせて頂きます。

 

 さて……皇帝陛下よりお聞きしました。

 セシリア様は皇帝陛下と文通なさっているのですね。


 それもお二人がお会いして以来、ずっと。

 私と同じ期間、私とそれ以上の頻度で。


 だから何か、というわけではありませんが……


 私個人としましては、なぜそのことを教えて頂けなかったのか……

 という思いがございます。


 私が皇帝陛下のことをお慕い申し上げていることは、セシリア様もご存じのはずです。

 何度もご相談に乗って頂きました。


 それなのに皇帝陛下と文通していることをお教えいただけないのは、酷くないでしょうか?

 聞いたところ、お二人は帝国の郵便制度を利用して文通なさっているようですね。


 本当のところを言えば、私はもっとセシリア様とお手紙を交わしたいのです。

 どうせ帝国郵便を使うのであれば、一通も二通も運ぶ手間は同じです。


 どうして私とはそのようにして下さってくれなかったのでしょうか?


 セシリア様は私の恋心を知っておいでだったはずです。

 そして私はセシリア様の親友であったと、思っておりました。


 正直なところ、裏切られた気分です。

 

 ちゃんとした納得できる回答を頂きたいです。


 敬具


 ニア・ルカリオス


 

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 ニア・ルカリオス様


 拝啓


 確かに私は皇帝陛下と文通をしておりました。

 そのことをあなたにお伝えしなかったのは確かに不適切でした。

 申し訳ございません。


 しかし私はあなたと、皇帝陛下との友情は別個のものであると考えております。

 私があなたと文通していることも、私が皇帝陛下と文通していることも、あくまで私個人の自由意志によるものです。


 故に私が皇帝陛下と文通をすることに関しては、あなたとは無関係です。


 確かに私があなたに皇帝陛下と文通していた事実を―決して意図してではないにしても―隠すような形になってしまったことは、私の落ち度でございます。


 ですがそのことについて、あなたに私を責める権利が果たしてあるのでしょうか。


 親友同士だからこそ、何もかも包み隠してはならないということはないと私は思っております。

 私はあなたを裏切るような意図は決してございませんでした。


 そのことをご理解頂けると幸いです。

 

 敬具


 セシリア・ペテロ



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セシリア・ペテロ様


 拝啓


 セシリア様のお気持ちはとてもよく分かりました。

 その通りですね。


 私にはセシリア様を責める権利はございません。

 セシリア様が皇帝陛下と文通なさることは、ええ、確かにセシリア様の自由でございます。


 それを私にお隠しになさるのも、セシリア様のご自由です。


 私が皇帝陛下のことをお慕い申し上げていることを知りながらも、御自分自身が皇帝陛下と文通なさっている事実を私に隠し通すことは確かにセシリア様の自由です。


 ですがもしセシリア様が私の親友であると、お思いになっているのであれば……

 恋の手助けはするかどうかは別として、そのお相手と文通なさっている事実を私に伝えるべきではないでしょうか?


 そしてなぜ隠していたのかをしっかりと説明する必要もあるのではないでしょうか?


 セシリア様は私のことを親友だとおっしゃっておりますが、どうやら私とセシリア様の間には『親友』の定義について、少々認識の相違があるようです。


 少なくとも私がセシリア様の御立場ならば、私はそのことをしっかりとお伝えします。


 私はセシリア様の『親友』になれたと思っておりましたが、どうやら違ったようです。

 とても残念に思います。


 セシリア様を責める気持ちはもうありません。

 所詮、私は平民、それもノヴァ・レムリアの下層民の生まれであり……

 加えて魔族ナイトメアです。


 内心では私のことを見下していたのですね。


 当然のことであると思います。


 次期姫巫女メディウムであらせられるセシリア様と対等の友人であるなどと、図に乗ったのは私でございます。

 今までの御無礼をお許しください。


 もう二度と、お手紙を交わすことは無いでしょう。


 敬具


 ニア・ルカリオス


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 ニア・ルカリオス様


 拝啓


 なぜ急にそのような態度を取られるのか、困惑しております。 

 隠していたことは申し訳なかったと、謝罪致しました。


 謝罪を受け入れろなどと、図々しいことは申しません。

 確かに親友同士とはいえ、許せないことはあると思います。


 主は相手の罪を許せとおっしゃっておりますが、それが簡単にできないことも当然分かっております。


 ですがいくら何でも、そのような言い方は酷くないでしょうか?

 

 私はあなたのことを見下したことなど、今までで一度もありません。

 主に誓って、一度もないと断言致します。


 もし一度でもそのような気持ちを抱いていたとするならば、喜んで煉獄に堕ちる覚悟です。


 私があなたを親友だと思っていたのは間違いありません。

 私はそれがあなたに伝わっていたと、信じていたのですが……私をお疑いになられるのですか?


 私にだって、隠したいことの一つや二つあるのです。

 それをどうしてご理解して頂けないのでしょうか?



 それにあなたは私ばかりを責めますが……

 あなたは何一つ、私に対して酷いことをしていないと断言できるのですか?


 あなたは今まで……皇帝陛下からお誕生日プレゼントを二度も受け取っていますね?

 どうしてそのことを私にお伝えしてくれなかったのですか?

 皇帝陛下から全てお聞きしましたよ。


 その時、私は酷く裏切られた思いをしました。

 ですがそれでも……隠したいことの一つ、二つはあると思い、口には出しませんでした。

 

 それに皇帝陛下は私のお誕生日が一月一日であることをお知りになりませんでした。 

 あなたは知っておいででしたよね?

 そのことを陛下にお伝えするくらい、あなたならば機会はいくらでもあったのではありませんか?


 随分と日頃から陛下と仲良くなさっていると、あなたと陛下のお手紙からそのことは伝わっておりましたよ。


 あなたはそういったことを考慮に入れず、私だけを一方的に責めるのですが?

 それは公平ではないと思います。


 そして……いくら何でもそのような突き放したような言い方はないのではありませんか? 

 弁解のしようがないではありませんか。


 親友ならば何でも許せなどと図々しいことは申しません。

 ですが許して頂く機会すらも潰して、一方的に連絡を絶つと宣言するのはいくら何でも酷くないでしょうか?


 魔族ナイトメアが云々というのも、被害妄想甚だしいとしか言いようがありません。

 それとも私を困らせようと、攻撃しようという意図があってそのようなことをお書きになられたのですか?

 

 あなたがそのような方だとは思ってもいませんでした。


 あなたのお言葉を借りさせて頂きますが、どうやら私とあなたとの間には『親友』の認識について、大きな相違があるようです。

 

 一先ず一度、冷却期間を置いた方が良いかもしれません。

 

 お互い、冷静でないままに連絡を取り合おうとするのはよくありません。

 まあ、あなたはもう私と連絡を取ってくれないと断言していますので、関係ないかもしれませんが……


 しばらくの間はお手紙を控えさせて頂きます。


 敬具


 セシリア・ペテロ

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