第15話 リバーチェの戦い 急

 さてカロリナは反乱軍右翼コサック騎兵を壊滅し、再び移動し始めた段階で……

 エルキュールとエドモンド率いる中央にも大きな変化が訪れ始めていた。


 レムリア軍は捨て駒扱いの傭兵部隊を押し込む形で、同盟軍によってカロリナが開けた穴をさらに押し広げていた。

 結果、レムリア軍中央は反乱軍中央に深く食い込む形となる。


 このまま両脇から敵に攻撃されれば……当然包囲殲滅されてしまう。

 故にエルキュールはここでエドモンドに指示を出した。


 「エドモンド、お前は右翼をカバーしろ。俺は中央と左翼を何とかする」

 「陛下に負担が掛かる形となりますが……宜しいのですか?」

 「もうすでに反乱軍右翼騎兵は一掃されている。左翼の脅威は小さい」


 なるほど、とエドモンドは頷き……

 主君の命令に従って動き始める。



 エルキュールとエドモンドはここで今まで戦闘に参加していなかった、最後尾の屯田兵たちに指示を出し……彼らを両側面へと移動させた。


 傭兵や同盟軍よりは練度の高い屯田兵によって側面を守り、敵による包囲殲滅を防ぐための作戦である。

 また一方でロングボウ兵も同時に動かし……

 屯田兵に守らせつつ、レムリア軍を包囲しようと動き始めた敵の両翼への射撃を命じた。



 これらの攻撃及び防御により……

 レムリア軍を包み込みつつあった反乱軍の両翼は停滞した。


 また……カロリナによって反乱軍右翼コサック騎兵が殲滅され、カロリナ率いる本隊とは切り離された中装騎兵カタフラクト左翼三個大隊が反乱軍右翼側面への攻撃を開始し……

 反乱軍右翼側面は急速に瓦解し始めた。

    


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 一方カロリナ率いる中装騎兵カタフラクトは反乱軍右翼コサック騎兵を粉砕した後、反乱軍の背後を通って戦場を横断して……


 レムリア軍右翼中装騎兵カタフラクトと交戦中の反乱軍左翼コサック騎兵の背後に奇襲攻撃を仕掛けた。

 突如、背後に現れたレムリア軍中装騎兵カタフラクトによって反乱軍コサック騎兵は大混乱になる。


 一方、レムリア軍右翼中装騎兵カタフラクトは思わぬ援軍によって士気が上がり……

 一気に攻勢に転じた。


 正面と背面から中装騎兵カタフラクトに挟まれたコサック騎兵は態勢を整える間もなく……

 討ち取られていく。


 「レムリアの騎兵なんぞに、我ら生粋の騎兵が敗北して堪るか!! 反撃しろ!!」


 コサックの首長は怒鳴り声を上げながら…… 

 部下たちに止まって戦うように命じる。


 しかしもうすでに陣形が崩れてしまっているためか、誰もコサックの首長の言葉に耳を貸さない。

 コサックの首長は歯軋りをして……

 自暴自棄になったのか、自らレムリア軍に突撃していく。


 「この俺がレムリアの騎兵なんぞに負けるはずがない!!」


 コサックの首長はそう叫びながら……

 もっとも近くにいた、小柄な少女―ニア―に向かって、剣を振り上げた。


 が、しかしその剣はニアの体を切り裂くことはなかった。


 剣が振り下ろされるよりも先に……

 ニアが投げたナイフが、コサックの首長の喉を貫いたからである。


 喉を掻きむしりながらコサックの首長は落馬し……

 しばらくもがいてから、絶命した。


 「よくやりました、ニア。今のはおそらく、敵将の一人です」

 「え、そうなんですか? えっと……こういう時はどうすれば?」

 「敵将はこのニア・ルカリオスが討ち取った!! とでも叫んでおけばいいのです」

 「えっと……敵将はこのニア・ルカリオスが討ち取った!!」


 少し恥ずかしそうにニアは叫んだ。

 斯くして反乱軍左翼コサック騎兵も排除され……反乱軍の両側面、及び背後が丸裸になった。


 「えっと……この後は再び隊を二つに分けて、背後を攻撃するんですね?」

 「ええ、そうです。だんだん分かって来たじゃないですか。……三個大隊を残します。残りの四個大隊は私についてきてください。敵の背面を強襲します!!」


 斯くしてカロリナとニアは四個大隊を引き連れて、反乱軍の背面に移動する。

 

 反乱軍は両側面を三個大隊ずつ、そして背後を四個大隊の中装騎兵カタフラクトに囲まれる形となった。


 

 

 

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 「突撃!!」


 そしてカロリナは無防備な反乱軍の背面に強襲を仕掛けた。

 時を同じくして両側面の中装騎兵カタフラクトも強襲を仕掛け……

 

 さらにエルキュールとエドモンドは中央歩兵に総攻撃を命じた。


 斯くして反乱軍は内側と外側の両方から強力な圧力を受けることになり……

 ついに破裂した。

 

 

 

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 川      

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 勝敗は決した。








 中央を分断されたことで反乱軍の指揮系統は完全に壊滅した。

 もはやそれ軍と言えるものではなく、ただの烏合の衆であった。


 逃げ惑う反乱軍に対し、カロリナは中装騎兵カタフラクトを率いて執拗に追撃をして……

 その殆どを馬の蹄で踏みつぶした。


 後には反乱軍の死体で平原が埋め尽くされることとなった。





 

 

 

 『リバーチェの戦い』


 交戦勢力 レムリア帝国・タウリカ半島同盟都市VSタウリカ連合軍・コサック


 レムリア帝国


 主な指揮官……エルキュール(・ユリアノス)一世、カロリナ・ユリアノス、エドモンド・エルドモート、(ルナリエ・ユリアノス)。


兵力 中装騎兵 約一二〇〇〇

    弓兵    約三六〇〇

    屯田兵   約六〇〇〇

    同盟軍   約六〇〇〇

    傭兵軍   約一二〇〇〇

    

    合計     約三九六〇〇



損害 中装騎兵  約三〇〇

    弓兵     〇

    屯田兵   約一〇〇

    同盟軍   約六〇〇

    傭兵軍   約七〇〇〇

   

    合計    約八〇〇〇


残存 中装騎兵  約一一〇〇〇

    弓兵     約三六〇〇

    屯田兵   約五九〇〇

    同盟軍   約五四〇〇

    傭兵軍   約五〇〇〇

   

    合計    約三一六〇〇



 

 タウリカ連合軍(反乱軍)


 主な指揮官……ステファン・シェイコスキー等


 兵力 歩兵(傭兵) 約二六〇〇〇

     コサック騎兵(傭兵) 約四〇〇〇


     合計 約三〇〇〇〇


 損害 歩兵(傭兵) 死傷者約一〇〇〇〇 捕虜約一〇〇〇〇 逃亡約六〇〇〇

     コサック騎兵(傭兵) 死傷者約二〇〇〇 捕虜約二〇〇〇


     合計 約三〇〇〇〇


 残存 歩兵(傭兵) 〇

     コサック騎兵(傭兵) 〇


     合計 〇


 備考 軍としての機能は壊滅。

     但し逃亡した傭兵六〇〇〇は再結集しつつあり、全滅ではない。


 結果 レムリア帝国の勝利

 影響 レムリア帝国のタウリカ半島及び北方での影響力拡大

 歴史的意義 北方のメシア教化が促進

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