第14話 リバーチェの戦い 破

 陣形が完全に崩れていた、敵味方含めた傭兵部隊は……

 カロリナによる中装騎兵カタフラクトの突撃で吹き飛ばされた。


 彼らは一目散に……

 今度は中装騎兵カタフラクトから逃げるために、反乱軍側へ駆け出していく。


 傭兵たちが反乱軍側へ逃げていくのを見計らい……

 カロリナは一度隊列を整えてから……再度、反乱軍に向かって突撃した。

 

 レムリア軍の一連の行動により……反乱軍はパニックになっていた。


 まずそもそも前提として……味方を踏み潰して突撃するなど、正気の沙汰ではない。

 中装騎兵カタフラクトの突撃そのものは警戒されていたが、少なくともこのタイミングではない……と思っていたのである。


 さらに反乱軍レムリア軍が混在した傭兵部隊が無秩序に反乱軍側へ逃げてきたため、事実上の同士討ちが発生し……前線部隊が混乱状態に陥っていた。


 「中装騎兵カタフラクトが来るぞ!!」

 「槍部隊を前に出せ!! 急げ!!」


 反乱軍は混乱状態になりながらも……何とか逃げてきた傭兵たちを片付けて、対中装騎兵カタフラクト重装騎兵クリバナリウス対策の槍部隊を前面に出す。

 槍部隊が一斉に槍を前に突き出して……カロリナの中装騎兵カタフラクトを待ち構える。


 カロリナ率いるレムリア軍はそれに対し、一切怯んだ様子を見せず……

 そのまま真っ直ぐ突き進んでいく。


 そして……


 中装騎兵カタフラクトは槍兵と接敵する間際、ギリギリのところで急停止した。


 そしてカロリナは命令する。


 「射撃、開始!!」


 中装騎兵カタフラクトたちは弓を構え、次々に矢を放っていく。

 一列目が矢を放ち後退、二列目が矢を放ち後退……というように、次々と列を入れ替えながら、騎射による波状攻撃を浴びせる。


 数千本の矢を断続的に浴びせられた状態で……

 槍衾を維持し続けることができるほど、反乱軍の練度は高くない。


 あっという間に槍衾が崩れ去る。

 そして槍衾が崩れたのと、全く同じタイミングで……


 「突撃!!!」


 カロリナは契約精霊『エリゴス』を抜き放ち、反乱軍へと突撃した。

 中装騎兵カタフラクトは混乱状態にあった槍兵部隊を一瞬で後方へと吹き飛ばし……

 さらに陣形の奥深くにまで組み込む。


 まるでハンマーにでも殴られたかのように、陣形の腹が大きく凹んだ。


 「ぐぁぁぁ!!!」

 「に、逃げろ!!」

 「た、助けてくれ!!」

 「逃亡は許さん!! 戦え!!」


 反乱軍の傭兵隊長たちは怒鳴り声を上げながら、どうにか傭兵たちを踏みとどまらせ、戦わせようとする。

 

 「包囲してしまえ!! 退路を断てば、中装騎兵カタフラクトと言えども……ぐぁ!!」

 「そう簡単にできませんよ」


 カロリナは五月蠅く騒いでいた傭兵隊長を切り倒してから……

 撤退の指示を出した。 

 波が退くように中装騎兵カタフラクトは撤退していく。


 決して深入りはしないようにする。

 父親からの教えだ。


 「皇后殿下、この後どうされますか?」

 

 ニアはカロリナに尋ねた。

 敵兵を何人か討ち取ったのか、血で髪が濡れている。


 「旋回して左翼の友軍の救援に向かいます」


 カロリナはそう答え……

 言葉通り、旋回して……左翼側へと向かった。









 「想像以上にカロリナ、上手いな。さすがはガルフィスの娘だな」

 「そうですね。やはり騎兵運用に関してはあの親子は天才的です」


 カロリナ率いる中装騎兵カタフラクトによる騎射を見て……

 エルキュールとエドモンドは感嘆の声を上げた。


 中装騎兵カタフラクト重装騎兵クリバナリウスと比べて、装備が軽装である。

 その代わり弓による射撃攻撃も可能とする。

 騎射でまず陣形を崩してから、敵に突撃を加える……という運用が可能な兵科だ。


 「しかしガルフィスがどちらかと言えば一撃必殺、瞬間的な破壊力に優れるとするならば……カロリナは柔軟性に長けるな。中装騎兵カタフラクトの運用に関してはガルフィスよりも上かもな」

 「ですね。中装騎兵カタフラクトは柔軟性があり、戦術に幅が広がる一方で逆に扱いが難しい。あそこまで使いこなせるのは現状では皇后殿下ただお一人でしょう」


 二人がそうこう話しているうちに……

 カロリナが突撃に移った。


 中装騎兵カタフラクトの突撃を正面から受けて、大きく陣形を歪ませた反乱軍を確認したエルキュールは傭兵部隊四個大隊に命じる。


 「突撃準備。……もし逃げ帰るようなことがあれば、どうなるか分かるな?」


 エルキュールの命令に……

 傭兵たちは戦慄した。


 そして……背後に控えているロングボウ部隊の存在を強く意識した。

 もし少しでも突撃を躊躇すれば、彼らの矢が自分たちの背中を射貫く。


 傭兵たちはそれを強く意識した。


 「神は我らと共にあり」


 エルキュールは神に祈り始めた。

 それを皮切りに……レムリア軍のロングボウ兵、屯田兵も大きな声で唱え始める。


 「「神は我らと共にあり」」

 「「神は我らと共にあり」」

 「「神は我らと共にあり」」


 その勢いに釣られて……同盟軍の兵士たちも唱え始める。


 「「「神は我らと共にあり」」」

 「「「神は我らと共にあり」」」

 「「「神は我らと共にあり」」」


 雰囲気に押される形で……大部分がメシア教徒ではない傭兵たちもまた、やけくそとも言える態度で唱える。


 「「「「神は我らと共にあり」」」」

 「「「「神は我らと共にあり」」」」

 「「「「神は我らと共にあり」」」」


 そして……


 「突撃開始!!!」


 エルキュールの号令が戦場に響く。

 そして……


 「うぉぉぉぉ!!!」

 「もうどうにでもなれ!!」

 「クソ!! 俺は生きて帰って、結婚するんだ!!!」

 

 傭兵たちは半泣きで反乱軍へ突撃していく。

 丁度その頃カロリナは撤退を終え、旋回を始めている最中であった。


 カロリナ率いる中装騎兵カタフラクトの最後列が旋回を終えて左翼へと向かったのと同時に、傭兵たちの最前列が今まで中装騎兵カタフラクトが旋回をしていた場所を通り過ぎる。

 そして入れ替わりになる形で、中装騎兵カタフラクトが開けた穴に対して傭兵たちが殺到した。


 「押し広げろ!!」

 「前へ、前へ進め!!」

 「押し返せ!!」

 「穴を塞ぐんだ!!」


 レムリア軍の傭兵と反乱軍の傭兵が押し合いになる。

 反乱軍は何とかレムリア軍の傭兵を押し返し、その攻撃を防ぎきるが……


 間髪入れず、レムリア軍傭兵部隊五個大隊が反乱軍に突撃してきた。

 反乱軍は真新しい、まだ元気で新品の兵との連戦を強いられる形となった。






 「第二波も上手く決まりましたね」

 「ああ。……第一波は四個大隊、第二波は五個大隊だ。そして……第三波は傭兵よりも士気が高い同盟軍を、そして最後の第四波で士気も練度も高い屯田兵を突撃させる。まあ、本音で言えば中央軍があと五個大隊あれば完璧だったがな。贅沢は言わないさ」


 エルキュールが行っているのは……波状攻撃と呼ばれるものだ。

 複数の部隊に分けて、同じ目標に連続で攻撃を加えることで……敵に休む暇を与えないという戦術である。


 言うは易く行うは難し。


 タイミングや兵力の分け方を間違えれば各個撃破を招きかねないため……

 敵軍戦力及び自軍戦力の正確な戦力把握、及び臨機応変な対応が必要となる戦術だ。


 「さて……第三派と第四派で攻撃を加える前にもっと敵に近づこうか」


 レムリア軍全体はゆっくりと進軍を始めた。






 さて一方旋回して左翼側へと移動したカロリナは……

 部隊を二つに分けた。


 三分の二の騎兵にはコサック騎兵との戦闘を命じ……

 カロリナが直接率いる三分の一の騎兵には、そのまま渡河を命じた。


 「えっと……なぜ渡河をするのですか? そのまま突撃してしまえば……」

 「良いから、黙って見ていなさい」


 カロリナはニアにそう言って……

 黙々と部隊を渡河させ……対岸で再び旋回して渡河をする。


 すると反乱軍のコサック騎兵の側面を攻撃する形となった。

 次々と川から攻撃を仕掛けてくる騎兵に対抗できず、反乱軍の右翼コサック騎兵は壊滅した。


 「す、凄い……後は側面を攻撃するだけですね!」


 ニアがそう言うと、カロリナは首を横に振った。


 「何を言っていますか。まだ終わっていませんよ。……三個大隊を残し、残りの五個大隊は私に付いてきなさい」


 カロリナはそう言って…… 

 再び移動を開始した。


 




 川      ▲▲

 川      ▲▲▲

 川      

 川     □□□□□□□□□   ▽▽▽

 川 ▲▲ □□□●●●●●□□□   ▲▲

 川  ▲ □□□★★★★★□□□

 川        ◆◆◆

 川       ■■■■■

 川

 川       

 川      

 川      

 川

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る