第13話 リバーチェの戦い 序
エルキュールの突撃命令によって、戦端は開かれた。
まずは両翼の
左翼
これに対するは反乱軍が雇用したコサックである。
生まれながらの騎兵、というわけではないが日常的に馬に乗って来た者達で構成されているため、その質は非常に高い。
一方でレムリア軍
これが初めての実戦ということもあり、コサック騎兵を押し切れていなかった。
左翼では川の存在で思うように戦えず、右翼ではコサック騎兵の方が数が少し多かったこともあり……
全体的には押され気味だ。
「ふん! どんなに良い装備を揃えて、数を集め、訓練したところで……所詮紛い物の騎兵が俺たち本物に勝てるわけねえだろうが!!」
コサックの首長―軍議で途中退出していた男―はそう叫びながら……
次から次へとレムリア騎兵を討ち取っていった。
彼の祖先は元々ブルガロン貴族であり……
生粋の遊牧民の家系なのだ。
レムリアとブルガロンは不俱戴天の敵同士。
例え彼がブルガロンから追放された一族の末裔であったとしても、ブルガロン人であるという点は変わらない。
そして敵がレムリアであるというのならば、戦う理由としては十分だった。
「うーん、やっぱり初実戦だからかな? 少し押され気味だ。作戦が終わるまで頑張って貰わないと困るんだが……」
エルキュールは戦闘経過の報告を聞いてから……
溜息を吐いた。
もう少し両翼に戦力を割くべきであったか?
いや、しかし中央には相応の戦力が必要で……あまり多くの戦力を両翼には割けない。
「ご安心ください、陛下。確かに押され気味なのは事実ですが……装備の質が違います。敵のコサックは軽装で一撃を喰らえば必死ですが、我らの
エドモンドはエルキュールにそう言った。
エドモンドは
そのエドモンドが大丈夫だというのであれば、おそらく大丈夫だろう。
エルキュールはそう判断して援軍を送るのをやめる。
戦力の逐次投入になるようなことはできるだけ避けなくてはならない。
「とはいえ、それでも想定より苦戦しているようだし……予定を切り上げ、そろそろ中央の攻撃に切り替えようか」
エルキュールはそう言って……
前列の傭兵部隊一個大隊に対し、突撃の準備をするように命じた。
彼らの主武装は剣と斧、短槍である。
傭兵の武器は持参が原則だ。
そもそもレムリア軍のパイクやハルバードを渡したところで、彼らは使いこなすことができない。
手慣れた武器を使わせて……
相応しい使い方をするべきだ。
「あの……陛下。傭兵って、あまり強くないんですよね?」
「ああ、そうだよ」
ニアの問いにエルキュールは答える。
「どうやって運用なさるおつもりなのですか? ……布陣図を見たのですが、イマイチ理解できず……教えて頂けませんか?」
「うーん、個人的には最後まで自分で考えて欲しいんだけどな」
エルキュールはそう言いながらニアの頭を撫でた。
「まあ、ヒントくらいは教えてやろう。良いか? 傭兵には短所が確かに多いが……長所もあるんだよ」
「短所……ですか? えっと、それは一体……」
「そいつは自分で考えな。まあ、基本的に長所と短所ってのは裏返しさ。傭兵の短所を裏返せば、長所になるよ」
どんな人にでも優しい人間は、優柔不断と見ることができる。
逆もまた然り。
物事とはそういうのもだ。
「傭兵の短所の裏返し……まず傭兵の短所は……えっと、練度が低くて、士気も低い。勝手に略奪するし、命令も聞かないことが多い。……どう裏返しても長所にならないような……」
ニアはうんうんと唸る。
そして……ポンと手を打った。
「分かりました!! えっと……………………ということですか!!」
ニアの答えにエルキュールは満足気に頷いた。
「大正解だ」
さてニアが悩んでいる間にも……傭兵部隊一個大隊が反乱軍に向かって突撃を開始していた。
「うぉぉぉぉ!!!」
「突撃だ!!」
大声を叫びながら、傭兵たちは真っ直ぐ敵へ突撃する。
そして敵の傭兵と接敵し……
「うぉぉぉ!!!」
「やられたぁぁぁ!!!」
あっという間に瓦解して、真っ直ぐ戻って来た。
これを見たエルキュールは一言。
「ひっでぇ、本当にやる気ないな」
頭を抱えた。
もしかしたら案外勇猛に戦ってくれるのでは? という期待を少しだけ胸に抱いていたため、非常に残念な気持ちだ。
だがまあ、ここまでは想定通りである。
さて一方……反乱軍。
「案外、あっさりやられたな……どう言うことだ?」
反乱軍右翼にいたステファンは……
伝令からの報告を聞き、首を傾げた。
彼自身は戦っていないので分からないが……どうやら一瞬でレムリア軍の傭兵部隊はやられたらしい。
まあ、傭兵部隊がやられたことそのものは疑問ではない。
疑問なのはなぜ名将と知られるレムリア皇帝がそのような暴挙に出たのか、ということである。
千程度の傭兵を突撃させれば、一瞬で壊滅するのは火を見るよりも明らかだ。
つまり……
これは何らかの罠、と考えることができる。
だが……
「何の罠だ?」
「予想通り、釣られてきましたね」
「そりゃそうだ、演技じゃなくて本当に負けてるんだもの。あいつら」
エルキュールは呆れ声で言った。
一瞬で壊滅した傭兵たちは真っ直ぐこちらに向かって逃げてきており……
そして反乱軍もまた、その傭兵たちを追いかけてこちらへ突撃を始めた。
「しかしこちらの練度も悪いが、あちらの練度も酷いな」
「本当ですね。酷い陣形です」
一瞬で瓦解した傭兵部隊は陣形もへったくれもなくこちらに逃げてきているが……
それを追い始めた敵の傭兵たちの陣形もまた、かなり崩れている。
双方にとって幸いなのは……傭兵たちの武装がパイク等の長槍ではなく、斧や剣であることだ。
もしパイクだったら、陣形が崩れた段階でもう戦闘は続けられない。
懐に入りこまれると、対抗のしようがないからだ。
だが斧や剣ならば取り回しやすいので……陣形が崩れても、乱戦である程度戦える。
「というよりはまともな集団行動ができないから、槍じゃなくて斧や剣で武装しているんだろうな」
長槍ならば弱兵でも戦える。
というのはある種の真実であり、また虚実でもある。
確かに一人一人の武勇は不要だが……逆に一致団結して戦う必要が生まれるため、むしろ軍隊としての訓練そのものはより必要となる。
長く、非常に重い長槍を一糸乱れず敵に向けたまま進軍するのには相応の練度が必要なのだ。
少なくとも野盗紛いの傭兵には無理な話である。
まあ、野盗紛いなおかげで戦闘経験そのものは豊富なのだろう。
剣や槍を持った方が活躍できるのだ。
「ではカロリナ……手筈通り、よろしく頼むよ。ところで……ニア、お前はどうする? 俺と一緒にいるか、カロリナと一緒に戦ってみるか……」
エルキュールはニアに問いかけた。
ニアは暫く考えてから……
「では、皇后殿下と御一緒させて頂きます」
「分かった。カロリナ、よろしくな」
「ええ、分かっています。……私から離れないでくださいね」
カロリナはそう言って……
そして一言。
「突撃!!!」
カロリナの号令により、中央及び両翼の
カロリナが直接指揮する
途中から一気に加速した。
そして……
川
川 ▽ □□□□□□□□□□□□□ ▽▽
川 □□□□□ □□□□□ ▽
川
川
川
川 □□□
川 ――●――
川 ▲▲▲▲▲▲▲
川
川 ▲ ▲▲
川
川 ―●●―●●―
川 ――◆◆◆――
川 ―●●●●●―
川 ―★★★★★―
川 ―■■■■■―
こちら側に迫って来ていた、
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