第5話 ローサ島戦記 第三巻『激突!! チェルダ海軍VSレムリア海軍』
レムリア海軍から少し遅れて、チェルダ海軍もまたレムリア海軍を捕捉した。
双方は陣形を整えながら接近し……ローサ島から南西の海で鉢合わせすることになった。
両軍の配置は以下の通りである。
エルキュール(総司令部)
↓
●●● ●●●
★◆◆ ◆◆★
■■■
◇◇□□□◇◇
☆○○○ ○ ○ ○○○☆
↑
ラウス一世(総司令部)
□……大型ガレー船竜撃艦+支援艦
☆……大型ガレー船快速艦+支援艦
○……大型ガレー船戦闘艦+支援艦
◇……中型ガレー船突撃艦+支援艦
※黒がレムリア、白がチェルダ
※図形一つで十隻
※エルキュールたちは右翼左側の戦闘艦に乗っている
※上が北
開戦当初、風は北から吹いていた。
レムリア海軍は北からの風を受け、一気にチェルダ海軍との距離を詰めていく。
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★◆◆ ◆◆★
■■■
◇◇□□□◇◇
☆○○○ ○ ○ ○○○☆
戦いはまず、竜撃艦同士の射撃から始まった。
双方の投石機から唸りを上げて石や金属の塊が飛ばされ、大弩から放たれた矢が唸りを上げる。
レムリア海軍が投石機を利用して放った、一本の瓶が……
不運な竜撃艦に命中した。
瓶は一瞬で割れて、中から液体が漏れ出る。
そしてそれは……
突然火の手を上げた。
あっという間に炎が木造の甲板を舐め回すように広がっていく。
「火を消せ!! このままだと燃え落ちるぞ!!」
「ダメです! 水を掛けても消えません!!」
「な、何?」
そうこうしている内に、次々と瓶が投げ込まれていき……
あっという間にその船は燃え尽きてしまった。
船員たちは火の手から逃げるように、海に飛び込んでいく。
「た、助けてくれ!!」
「せ、せめて鎖を外してくれ!!」
船に取り残された奴隷たちは悲鳴を上げるが……
誰も助ける余裕はなく、彼らは炎と共に海に沈むことになった。
「危ないところでしたね……」
「全くだ……しかし……これは不味いな」
海に命からがら逃れた、その竜撃艦の艦長は呟いた。
艦長の視線の先には……
次から次へと燃え上がり、海に沈んでいく友軍の船があった。
「『聖なる炎』の初めての実戦使用だが……うん、大成功のようだな」
「確実に火が付くのは良いですね。普通の油では、こうはいかない……」
レムリア海軍の竜撃艦が、チェルダ海軍の竜撃艦を圧倒した。
という知らせを受けたエルキュールとクリストスは満足気に頷いた。
そんな二人にカロリナが尋ねる。
「『聖なる炎』というのは、どういう兵器なんですか?」
「石油……地面から湧き出る油を精製したものと、松脂や硫黄、硝石を混合させて作った新兵器だ。非常によく燃える……水を掛けたくらいでは、消えないくらいな」
非常に原始的なナパーム弾のようなものである。
取り扱いには注意が必要で、風向き次第ではこちらが痛い目を見ることになるが……上手く使えば敵に大打撃を与えることが出来る。
「今、うちの竜撃艦が放っているのは……三層構造の瓶の上部に水、中部に石灰石、下部に『聖なる炎』を入れたものだ。瓶が割れると、水と石灰石が反応して発熱し……『聖なる炎』に火が付く」
「へえ……つまり、すごい兵器なんですね?」
「うん、まあその認識で何の差し支えもないよ」
あまり理解していなさそうなカロリナに対し、エルキュールは苦笑いを浮かべた。
もっとも、エルキュールもそこまで理解しているわけではないのだが。
これを作成したのはヒュパティアたちである。
詳しいことは彼女たちに聞いた方が良い。
「まあ、でも……あくまで戦術兵器に過ぎない。海戦の勝敗を左右するのは……兵士の練度と士気、そして将軍の頭脳だ。もっとも、うちは全て上回っているがね」
「お褒めに預かり、光栄です。陛下」
エルキュールから褒められ、クリストスは嬉しそうに笑みを浮かべた。
そしてすぐに顔を引き締める。
「第二段階に移ります」
そう言って、指示を全艦隊に送り始めた。
「レムリア海軍め……妙な兵器を出しおって……まあ、竜撃艦の撃ち合いでの敗北は予想通りだがな」
ラウス一世は顎に手を当てる。
そもそも練度ではチェルダ海軍は負けているし、レムリア海軍の兵器の命中精度が良いのは元からである。
想定以上の大損害ではあるが……
巻き返せないレベルではない。
未だ、数の優位は崩れていないのだ。
「想定通りだ。……全軍、予定通り行動せよ」
ラウス一世の指示が全艦隊に送られた。
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レムリア海軍は追い風に乗って中央へその戦力を集中させ、一方でラウス一世は大きく両手を広げるように艦隊を両翼に伸ばしていく。
これで双方の狙いは明らかとなった。
「このまま、敵中央を突破します」
「このまま、敵を包囲する」
双方、激しく海上で激突する。
突撃艦同士が衝角をぶつけるために速力を上げて、突撃し……
戦闘艦同士は弓の雨を降らせる。
「風の精霊よ!!」
「火の精霊よ!!」
すると竜が火を噴くかのように、パイプから火炎が噴き出す。
その火炎に触れたチェルダ海軍の船は次々と燃えて、海の藻屑となっていく。
しかしチェルダ海軍も負けじと、数の優位を生かしてレムリア海軍を追い詰めていく。
が、ここへきて突如風向きが変わった。
北から吹き続けていた風が止み、今度は南から風が吹き始めたのである。
逆風状態では『聖なる炎』も利用出来ず、またロングボウの矢も届きにくい。
そして突撃艦も速力が上がらない。
レムリア海軍は勢いを失い、一方でチェルダ海軍は勢いづき、攻勢を強める。
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「あー、クリストス君。実は現状はあまりよくないのではないかね?」
「そうですね……正直に言うと……」
クリストスは強張った顔で言う。
「かなり不味いですね」
レムリア海軍は両翼を囲まれる状態になっている。
今は十分抵抗できているが……
このまま輪が縮まれば、船同士が衝突して大惨事を引き起こしかねない。
「想定以上に数の差が出ていますね……」
「まあ、こちらの海兵の主力が
それを証明するように……
一方で
「
エルキュールはぼそりと呟いた。
確かに
だが……
「おい、クリストス。お前の精霊なら……速力を上げて敵の中央に突貫することはできるな?」
「可能ですが……しかし、陛下と皇后殿下の安全が……」
「クリストス!」
エルキュールはクリストスの言葉を強引に遮った。
「できるなら、やれ。このまま敗北するわけにはいかん。……あのラウス一世のドヤ顔なんぞ、死んでも見たくない」
そう言って、エルキュールはニヤリと笑った。
「相手が
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