第2話 ニアの降臨祭
「おめでとうございます、ルーカノス様」
「ああ、おめでとう。ニア」
エルキュールにコートを貰った翌朝。
ニアとルーカノスは共に降臨祭を迎えられたことを祝った。
「確か今日は……ルカリオス家の方々がいらっしゃるんですよね?」
ルカリオス家。
聖七十七家の一角である、この家の現在の当主はルーカノス・ルカリオスである。
が、しかしルーカノスに種子は無く、子供もできない。
養子のニアは
なので、次のルカリオス家の当主はルーカノスの弟が継ぐことが確定している。
もっとも、財産はニアに分与されるが。
聖七十七家の七十七というのは、七十七の血筋、という意味であり……実際には七十七家しかないというわけではない。
分家がいくつもあり、絶えないような仕組みになっているのだ。
「ああ、そうだ。とはいえ、それまでは時間がある。街でも散歩してきたらどうだ? 陛下からコートを貰ったんだろう? ……今日の降臨祭は今までの降臨祭よりも、遥かに盛り上がっている。全く出歩かないのは損だろう」
というのも、降臨祭の二日前と三日前にカロリナ、ルナリエの結婚式が行われたからである。
この大々的な結婚式を見るために、そして集まった人目当てに多くの商人や吟遊詩人などの芸人が集まっていた。
せっかく大都会ノヴァ・レムリアに来たのだ。
降臨祭までは滞在しようという人がいるのは当然だろう。
故に今年の降臨祭はかつてないほどの盛り上がりを見せていたのだった。
「意外です。ルーカノス様はそういう騒がしいことは嫌いかと……」
ルーカノスは聖職者である。
聖職者的には、降臨祭は家族と静かに慎ましく過ごすモノ。
少なくともバカ騒ぎするための祭りではない。
だが……
「好きではない。が、陛下ですらも身分を隠して街に繰り出している。……娘を咎められるわけなかろう」
まあ、つまり諦めである。
ニアは苦笑いを浮かべた。
「分かりました……少し遊んできます。正午には帰宅します」
「ああ、行ってくると良い」
ニアはルーカノスから許可を貰うと、外出用の服を着こむ。
出来るだけ、可愛らしい服を着て、エルキュールから貰ったコートを着込む。
次に手袋とマフラー―ルーカノスからプレゼントされたモノ―を身に着ける。
腰に剣―カロリナから誕生日としてプレゼントされたモノ―を帯びるのを忘れない。
そして可愛らしいネックレス―ルナリエからのプレゼント―を首に掛ける。
「後は帽子を被れば……」
帽子を被ろうとした途端、ニアの脳裏にエルキュールの言葉が過ぎった。
『お前はルカリオス家の貴族だ。自分に自信を持て』
帽子―角を隠すためのモノ―を被るのは……その言葉に反する。
ニアは少し迷ってから、帽子を被るのをやめた。
普段は腰に巻き付けるようにして、窮屈に隠している尻尾も……
巻きつけず、そのまま垂らしてしまう。
これでスカートから尻尾が覗く形になるだろう。
……後ろから、はっきりと見られる。
「……よし、行くか」
ニアは準備を終えて、玄関まで歩いていく。
「ニア、その恰好は……」
ルーカノスはいつもと違う、ニアの変化に驚いたが、何も言わなかった。
ただ一言だけ。
「気をつけてな、ニア」
「はい。行って参ります……」
そしてニアは数瞬悩んでから、顔を赤らめて……
「行ってきます、お父様」
そして駆け出すように屋敷を出ていった。
残されたルーカノスは呟いた。
「……あの娘に父と呼ばれるのは……これが初めてだな」
ニアは
そのことはノヴァ・レムリアに住む貴族の多くは知っている。
ニアも貴族になったからには当然人付き合いというものがあり、貴族や……同い年くらいの女の子とも顔を合わせるのである。
そしてニアにとって、少し意外だったのは……
貴族や高位聖職者はニアをあからさまに避けるようなことはなく、罵倒するようなこともなく、そして案外同情してくれたり、親しみを込めて接してくれる……ということだ。
ただまあ……
これは考えてみれば当たり前の話である。
レムリア帝国という国は多民族国家だ。
比率的には非
レムリア帝国がもっとも恐れているのは、人種間の対立による崩壊である。
故に支配層である貴族たちは、人種に関する迂闊な発言や行動を控えるし、控えるように行動するように教育されているし、控えない者は政治的に非難される。
レムリア帝国の貴族は、レムリア帝国が存在するからこそ貴族足り得る。
レムリア帝国崩壊後の世界に於いて、貴族が貴族足り得るかどうかは分からない。
それは旧西レムリア帝国領を見れば分かる。
旧西レムリア帝国の崩壊により、レムリア帝国の貴族たちは『レムリア帝国亡きあとの世界』を何よりも恐れるようになったのだ。
それにそもそもだが……
正しきメシア教教育を受けている貴族や高位聖職者たちは、多神教世界の産物である
最初は偏見を抱いていても、ニアとある程度接すれば……まあ普通の女の子だと分かるし、その境遇に同情もするのだ。
一方で一定の所得以下になると、急にニアへの風当たりは強くなる。
レムリア帝国は日本とは違い、どんな社会階層でも一定の義務教育を受けているというわけではない。
中流以下になれば文字の読み書きも怪しくなる。
当然、メシア教についても適当な教育しか受けていない。
見聞そのものが狭く、自分の隣人、友人、親、祖父母、親方や弟子といった、非常に狭いコミュニティーの世界で生きているため、偏見を持ちやすく、差別感情は肥大化しやすくなる。
加えて、『レムリア帝国を崩壊させてはならない』というような義務意識を持っていないので、行動や発言に遠慮は無くなる。
結果、宗教や人種についての差別は激化する。
彼らの特徴は貴族や高位聖職者たちとは違い、「○○だから嫌い」というような理論は一切ない。
「みんなが嫌いって言ってるから嫌い」というのが、差別や迫害の大きな理由だ。
例えばチェルダ王などは
しかし彼には「
変な言い方だが、彼の迫害は『理性ある』迫害なのである。
根本のところは、エルキュールが六星教徒の金貸しの資本力を当てにして、彼らへの差別や迫害をやめさせるのと変わらず、同じ政治的なモノであり、その人なりの合理的な判断の結果だ。
が、しかし教養のない下層民にはそんなものは存在しないのだ。
迫害することによって何らかの目的を達成するのではなく、迫害そのものが彼らにとっては目的なのである。
目的が存在しないため、その迫害や差別、暴力や暴言に際限は存在せず、永久にエスカレートを続けるのだ。
「……ここから先は下町」
ニアは緊張で鳴りやまない心臓に手を当てて、無理やり押さえつける。
ニアはエルキュールに拾われて以来、下町を一人で出歩いたことはない。
暴力や暴言をニアは心の底から恐れている。
だが……
いつまでも怯えていたくない。
という思いがニアにはあった。
だから……
一歩、ニアは踏み出した。
俯きたくなる顔を、ニアは無理矢理にでも上げて、前を見て真っ直ぐ歩く。
恐怖で引き攣りそうになるのを押さえ、毅然とした表情で堂々と街を歩く。
ニアの耳にはしっかりと、自分のことを侮蔑する声を捉えていたし……
周囲の者たちが自分を白い目で見ていることにも気付いた。
だがしかし……
誰も正面からニアを罵倒しなかった。
誰も暴力を振るわなかった。
小石一つすらも、飛んでこない。
何故か?
簡単だ。
今のニアが貴族だからだ。
見るからに高級そうな服を着て、腰から剣を下げている。
それを見れば、ニアがどのような身分の者か……よほど鈍いモノでない限り気が付くだろう。
そして……
コートの胸ポケットに縫い付けられた、ルカリオス家の家紋。
どの家の家紋か判別できないにしても、それが貴族の家紋であることはバカでも分かる。
貴族相手に罵倒できるバカはいない。
貴族相手に暴力を振るえるアホはいない。
貴族相手に小石を投げられる勇気のある者はいない。
誰もがニアに道を譲る。
試しにニアは立ち止ってみる。
そして周囲を見回した。
誰もがニアと目を合わせないようにしている。
(……昔、こんなことをすればすぐにでも殴られたのになぁ)
憑き物が落ちるように、ニアの心から恐怖が抜け落ちた。
「私、こんな人たちの何が怖かったんだろう……バカみたい」
所詮、この程度の人間たちだ。
相手が薄汚れて身よりの無い、孤児の
だが少しでも相手が自分よりも高い身分だと分かれば……
何一つできず、怯えるだけ。
ニアはこんな人間よりも遥かに恐ろしい人を知っている。
それはレムリア皇帝であるエルキュールや、正室のカロリナ、側室のルナリエ。
ガルフィス・ガレアノスに、クリストフ・オーギュスト。
ニアの養父である、ルーカノス・ルカリオス。
そして自分を正面から罵倒してきた、チェルダ王。
あの人達は、ここにいる人間を無礼討ちすることが出来るほどの権力を持っている。
エルキュールに関して言えば、何の理由無しに面白半分で殺すことも出来るだろう。
それに比べれば、自分を差別してきた人間の何とも矮小なことか。
彼らは薄汚れた小娘一人、殺すことができない。
そしてほんの少し良い恰好をした小娘一人に怯えるのだ。
そう……
冷静に考えてみれば、自分はあのルーカノス・ルカリオスの娘なのだ。
ノヴァ・レムリア総主教の娘。
そして……レムリア帝国の皇帝に目を掛けて貰っている。
その妻や、家臣の将軍たちとも交友がある。
その自分が
いや、何一つ恐れる必要は無い。
仮に罵倒してくる者がいれば、罵倒して返してやればいい。
教養のない貧乏人の平民風情が!! と。
仮に暴力を振るってくる者がいれば、殴り返してやればいい。
徹底的に、二度と自分に暴力を振るおうなどと考えられない程度に。
仮に自分に石を投げてくる者がいれば、そいつに汚れた服の弁償をさせてやろう。
元々大して持っていない財産を毟り取ってやればいい。
それで奴隷に落ちるようなことがあれば、買い取って……徹底的に使い潰してやろう。
自分にはそれができる!!
そんな開き直った気分で歩き……
ふと、足を止めた。
そこには焼き菓子の店があった。
お菓子というのは基本的に高級品だが……
庶民が食べられないわけではない。
エルキュールが砂糖栽培を始めたこともあり、ノヴァ・レムリアでは庶民にもある程度甘い菓子が浸透しつつあった。
また一緒に飲む珈琲も、庶民に手が出せる程度の価格になってきている。
無論、お菓子くらいならニアも日常的に食べているし、エルキュールにお茶を御馳走して貰うこともよくある。
ニアが足を止めたのは、焼き菓子の店、だからではない。
「確か、このお店は……」
昔、ニアは浮浪児だった頃。
甘い匂いに誘われて、この店に近づいたことがあった。
当時は生ごみくらいしか食べるモノが無く、こういったモノに本当に飢えていたのだ。
この店の店主はそんなニアに冷水を掛け、蹴り飛ばした。
何度も、何度も。
その時は秋も終わり、冬の始まりが到来していて……
びしょ濡れの服で、蹴られて痣になった部分の痛みに苦しみながら、凍え死ぬような思いをした。
本当に惨めで、辛く、どうして自分ばかりこんな目に合うのかと……
涙が止まらなかった。
ふと、ニアの心に悪戯心が湧いた。
ニアは店の方に歩いていき……扉を開ける。
カラン、カランと音が鳴った。
「いらっしゃいませ、お一人様……」
店主はそこまで言いかけて、顔を強張らせた。
そんな店主に対して、ニアは朗らかそうな笑みを浮かべた。
「
表情とは裏腹に、ニアは店主を挑発した。
その言葉を聞き……
店主は気が付いた。
この娘は昔、自分が水を掛けて、蹴り飛ばして追っ払った
店主はニアをじっくりと観察する。
ニアの高そうな服。
腰に帯びた剣。
そして……胸に縫い付けられた、何らかの貴族の家の紋章。
「ああ、良いよ。お断りなら帰るから。ただ、まあ……」
ニアはぼそりと小さく、しかし店主に聞こえるように呟いた。
「貴族の入店を断る無礼な店があったと、話すだけだしね」
店主は顔色を真っ青にさせた。
この子供に何があったのかは分からない。ただ、一つだけ分かることは……
自分が昔、暴力を振るった相手が貴族の身分を得て、自分の店に来訪した。
その事実だけだ。
レムリア帝国に於いて、貴族と平民は法の下に平等とされている。
そして貴族と平民の垣根は低い。
が、それでも確固たる身分差は存在する。
貴族を敵に回すのは不味い!
「いえいえ、そんな……貴族様の来店を断るような、無礼な店はありません。どうぞ、お席にご案内します」
「それは良かった!」
ニアは笑顔を浮かべた。
その笑顔を見て、店主は「もしかしたらこの子供は自分のことなんて覚えていないのでは?」という希望を抱いた。
考えてみれば
自分はその中の一人。
忘れて当然かもしれない!!
と、店主は安心した店主に対してニアは……
「ところで、あなたとどこかでお会いしたような気がするけど、気のせいかな?」
「き、気のせいではないですか?」
「ふーん、そうかな?」
店主は心臓をバクバクさせながら、ニアを店の奥に案内した。
「ここが当店で一番、良い席です」
「へえ、驚いた。あまりにもみすぼらしいから、嫌がらせで一番悪い席に案内されたと思っちゃった。勘違いして、ごめんね?」
店主はイラっと来たが、何とか堪えた。
嫌味を言われるだけなら、何の問題もない。
ニアは案内された席に座る。
「椅子が固いなあ……」
「……申し訳ありません。以後、気を付けます」
「本当に? あなたみたいな
店主の心臓がドクンと跳ねた。
ニアは今までの笑顔とは一転、冷ややかな表情で店主に言う。
「足を踏んだ方は忘れても、踏まれた方は覚えてる。って、知ってる? ……忘れてると思った?
忘れるわけないでしょ。あなた、自分よりも遥かに体格で優った人間に何度も何度も蹴られたことある? 冬に、外でびしょ濡れの服で一夜を明かしたことある? 無いでしょ。いいよね、足を踏んだ側はすぐに忘れられて。……私は一生、忘れないけどね」
ニアは言いたい事を一頻り言ってから……
銀貨を一枚、机に置いた。
「珈琲と簡単なお菓子」
「は、はい! かしこまりました!!」
それからしばらくして、珈琲とお菓子が運ばれてくる。
他の客よりもニアの注文を優先したのだろう。
驚くべき早さだった。
ニアは内心で舌打ちする。
もし、来るのが遅かったら嫌味を言ってやろうと思っていたのだ。
ニアは出された珈琲を口に含む。
そして一言。
「不味い。よくこんな不味い珈琲を出せるね?」
「……貴族様、値段相応というものがありまして……うちは貴族様が普段お飲みになっているような、高い豆を使っていないのです」
さすがにイラッと来たのか、店主は言い返した。
ニアは内心でこれに喜びながら、イライラした表情で畳みかける。
「いや、豆以前の問題だよ。これは焙煎の仕方が間違ってるから、こんな不味い味になってるの。どんなに安い豆だって、ちゃんと正しいやり方で作れば珈琲になるの。でも、これは珈琲ですらない。ただの泥水だね」
ニアはそう言って……
珈琲を店主にぶっかけた。
店主の服が黒く染まった。
これにはさすがの店主も堪忍袋の緒が切れたのか、ニアの胸倉を掴んだ。
「この薄汚い
そう言って、拳を振り上げてニアの顔に振り下ろ……
されなかった。
ニアが店主の拳を掴んだのだ。
そしてそのまま、ぐりぐりと捻りあげる。
気付けば店主はニアに手を捻りあげられて、動けない状態にあった。
「ねえ、この手で私に何をするつもりだったの? 教えてよ、ねえ。『薄汚い
「も、申し訳ありません……」
店主は痛みに呻きながら、ニアに謝罪した。
ニアは鼻を鳴らして、手を放す。
店主は脂汗を流しながら、手を擦る。
そんな安心しきっている店主の腹に……
ニアは蹴りを入れた。
「ゲホォ……」
店主はあまりの痛みに悶絶して、蹲った。
ニアはそんな店主の頭を足で踏みつける。
「こんなふうにあなたも私を蹴り飛ばしたよね。で、頭を踏みつけた。この後、どうだったっけ? 確か……顔を何度も何度も蹴ってくれたよね。鼻血塗れになっても、やめてくれなかった」
「ゆ、許してください……」
「面白いなあ……私がやめて、許して、もう二度と近づかない……って、叫んだらあなたはやめてくれたっけ? 私の記憶が正しければ、あの後また私のお腹を何度も何度も蹴ったよね。私が何度吐いても、やめなかった。で、最後にもう一度冷水を掛けた。違ったっけ? それとも、忘れちゃった?」
ニアは店主の髪を右手で掴み、強引に持ち上げる。
そして左手で顔を掴む。
「ほら、何か言えよ。忘れたのか?」
「お、覚えています! も、申し訳ございません!!」
ニアは鼻を鳴らして、手を離した。
そして一発、顔に蹴りと入れた。
「ぎゃぁ……」
店主は小さな悲鳴を上げた。
ニアはハンカチで店主が持ってきた焼き菓子を包み、ポケットに入れてから……
「良かったね、私が優しくて。泥水とお腹への蹴り一発、顔への蹴り一発と、嫌味だけで許してくれる優しい
ニアはそう言って、銀貨を三枚を地面に落とした。
そして踵を返して、去っていった。
「あー、スッキリした!! こんなに気分の良い日は無いなあ!!」
ニアは今にもスキップしたい気分をどうにか抑える。
そしてポケットからハンカチに包んだ焼き菓子を取り出した。
「ふむ……お菓子はそこそこ美味しいね。珈琲は不味かったけど」
そう言えば、ニアは珈琲や紅茶を淹れた経験はあるが……
お菓子を作った経験は無かった。
今度、シファニーに習ってみようとニアは決意した。
「それにしても、どうして私に手を上げようとしちゃうのかな? やっぱり心の奥底で見下してる
いくら貴族とはいえ、何の理由も無しに平民に暴行すれば罪に問われる。
ニアもそれくらいは当然知っている。
確かにニアは昔、暴行を受けた。
だが、だからと言って復讐しに行って良いわけではない。
誰も彼もが好き勝手に復讐してたら、治安がとんでもなく悪化してしまう。
貴族だからこそ、やってはいけないことはある。
だが……
正当防衛となれば、話は別である。
ニアが
ニアが罪に問われることは一切ない。
逆にあの店主が、暴行未遂を犯したということで罪に問われることになるだろう。
「本当は毎日通い詰めて嫌味を言いたいくらいなんだけど……あれで許してあげよう。顔も見たくないしね。それに……」
ニアはニヤリと笑みを浮かべる。
その笑みは……
彼女が崇拝する、エルキュールそっくりの、嗜虐に酔った、残忍な笑みだった。
「まだまだ、私に暴力を振るった奴、罵倒した奴、石を投げた奴は残っているしね」
ニアは恋する乙女のように、手を胸に当て、空を見上げた。
「親愛なるお母さん、お父さん。今頃どうしてますか? 一人娘を捨てて、幸せに生きてますか? 新しい家庭でも築いているのでしょうか? ふふ……私は元気です。早く、会いたいです……どこにいるのかなあ」
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