第28話 結婚式 ルナリエ編

 「うーん、これは酷いな……」


 翌朝、目を覚ましたエルキュールはカロリナを見下ろしながら呟いた。

 

 無論、カロリナはいつも通り美しい。

 真っ白い肌と、半脱ぎのウェディングドレスに朝日が反射して、美しく、とても官能的だ。


 酷いのはウェディングドレスの方である。


 互いに葡萄酒の飲ませ合いなどしたせいで、赤く汚れてしまっている。

 加えて、酔い半分勢い半分でウェディングドレスに配慮するのを忘れたせいで、いろんな液体でグチャグチャになってしまっている。


 「まあ……でもシファニーなら落とせるか」


 召使のシファニーは、どんな汚れでも落とすことが出来る『洗浄Ⅲ』という、地味だがとんでもなく便利な固有魔法を有している。

 それで落とせるだろう。


 「あとで文句言われそうだがな……」


 シファニーに汚れた服の洗浄を頼むたびに、「どんな女性の抱き方をすれば、こうなるんですか?」と言われるのを、エルキュールは思い出した。

 それに対して、「じゃあ手取り足取り教えてやるよ」とエルキュールが返し、シファニーを抱くまでが定番の流れだったりする。


 「はあ……体がだるいな」


 エルキュールは立ち上がり、伸びをする。

 まだ体の疲れは取れていない。


 が……


 「今日はルナとの結婚式か」





 カロリナとルナリエの結婚式には、さほど差はない。

 歌われる曲の数などには多少違いはあるが、基本内容や儀式の進行に大きな違いはない。


 しかし決定的な違いが一つある。

 それは招待客だ。


 どちらも招待客の人数は同じだが、呼ばれる人間は大きく異なる。


 カロリナとの結婚式では、外国から招かれた者が非常に多かった。

 また数多くの聖職者も招かれている。


 これは世界に対して、カロリナがエルキュールの正室であり、皇后であると宣伝するためだ。


 レムリア帝国の威光と繁栄、そして次代皇帝を産む人物を世界に見せつける。

 それがエルキュールとカロリナの、結婚式の本旨なのである。


 一方、ルナリエとの結婚式では……

 レムリア帝国の貴族やハヤスタン王国の貴族が招待客の大部分を占めている。


 無論、各国から国王やその代理も招かれているが……

 その数はカロリナとの結婚式よりも少なく、また朝食会や夕食会に招かれることもない。


 これはエルキュールとルナリエとの結婚が、あくまでレムリア・ハヤスタン両国の関係強化のためだからである。

 

 大事なのは両国の親交。 

 そのため、レムリア・ハヤスタン以外の国に振り分ける枠が少なくなっているということだ。






 


 「なるほどね……ティトスの奴はやはり天才だな。芸術方面では」


 エルキュールは花嫁衣裳を着たルナリエを見て、感嘆の声を上げた。

 ルナリエは相変わらずのポーカーフェイスだが……しかし、その表情には喜びと照れが見え隠れしていた。


 「……どう?」

 「うん、よく似合っているよ。昨日のカロリナと比べても、見劣りしないな」


 先日、カロリナは結婚式で真っ白い、露出の多いウェディングドレスを着た。

 その姿はレムリア帝国とその周辺国のファッション業界にとてつもない影響を与えたことだろう。


 しかし問題はその翌日に控える、ルナリエの結婚式である。

 ルナリエの花嫁衣裳を、カロリナと同様のモノにすれば……


 二番煎じになり、強い印象を与えることはできないだろう。


 カロリナのインパクトに、ルナリエが掻き消されてしまう。

 まあ、正室と側室ということを考えれば別段、大問題ということにはならないが……


 しかしそれではルナリエが少々可哀想だ。


 そして……ティトスも、二番煎じは芸術家としてのプライドが許さなかったのだろう。


 ルナリエの花嫁衣裳は、カロリナの衣装とは一転したモノだった。


 

 タイトルを付けるとすれば…… 


 復古+異国風。


 だろうか?


 基本となるのは、忘れ去られて久しい古代レムリア風のトゥニカのようなドレスだ。

 柔らかい布がルナリエの豊かな胸、しなやかな肢体を包み込み、浮かび上がらせている。


 袖が無く、腕や鎖骨が出ている点ではカロリナと同じだ。


 当然、材質は絹。

 染料は藍から抽出された青色を基本として、サフランから抽出された黄色も模様として使用されている。


 と、ここまでならただの派手で古風なウェディングドレスだ。

 まあ、ここまで大昔の衣服を引っ張り出してきた時点でインパクトもかなりのもので、着ているのがルナリエなので、それだけでも服飾の流行に与える影響はとんでもないモノだが……


 この古風なウェディングドレスには、金糸と銀糸の刺繍が施されている。

 この刺繍と、藍の青、サフランの黄色によって、異国情緒溢れる―ハヤスタン・ペルシス風―の文様が浮かび上がっているのだ。


 そして花嫁のヴェールの上を月桂樹と白い花の花冠が飾り付けていた。


 レムリア文化とハヤスタン文化の融合。

 というのは、エルキュールとルナリエの結婚式の目的とも合致しているし……


 加えて、ハヤスタン人であり元々レムリア人とは少し顔立ちが異なるルナリエがこれを着ることで、より神秘的で美しく、そして蠱惑的にルナリエの魅力を引き出していた。


 ちなみに、気になるお値段だが……

 ざっと、庭付きの屋敷一・五軒分である。

 カロリナのウェディングドレスはレースやスカートの長さの関係で大量の絹を使用したが、ルナリエのドレスにはレースは無いし、丈も踝が隠れるまでで、引きずるほどの長さではない。


 そのため使用されている絹の量はカロリナのドレスよりも少ない。

 ただ染めたり、刺繍を施すのにそれなりの費用が掛かったので……この価格になってる。


 何にせよ、高いことには変わらない。


 「やはりあいつはいい仕事をする……」

 「……あの、陛下。ティトス殿下が素晴らしいのは分かるけど、私の方を褒めて欲しい」

 「ああ……済まない。だが、まあやはり素材が良いんだろうな。美人は何を着ても似合う。そんな美人に合わせて、一流の芸術家がデザインしたんだ。似合わないわけがない。……惚れ直したよ、ルナ。本当に綺麗だ。君と出会えて、本当に良かった」


 と、エルキュールがお世辞を並び立てると……


 「……褒めても何も出ない」


 少し顔を赤くして、そっぽを向いた。

 

 相変わらず、素直じゃない。

 と、エルキュールは苦笑いを浮かべる。


 そんな二人の様子を見て、カロリナがポツリと呟く。


 「……チョロ過ぎでしょ」

 「……何か言った?」

 「ルナリエは綺麗だなあ、っと思ったんですよ。ええ、本当に綺麗です」


 カロリナは澄ました顔で誤魔化す。

 普段のルナリエならば、そんなことで誤魔化されることはないが……


 「……べ、別にあなたに褒められても嬉しくない」

 ((うわ……凄く嬉しそう……))


 普段のすまし顔が少し崩れ、若干にやけ顔になっている。

 口では否定しても、顔に完全に出てしまっている。


 クールぶっているルナリエにしては、珍しい失態だ。

 もっとも、本人は気付いていないのだろう。


 ポーカーフェイスを保ったままのつもりなのだ。


 

 「さて、無駄話はこれくらいにしよう、ルナ。じゃあ、お姫様。早速、パレードに向かおう。国民が待っている」

 「……うん、分かった」


 エルキュールから差し出された手に、ルナリエはそっと手を乗せた。 



 そして……



 

 「ようやく、パレードと結婚式が終わったな!」

 「……何か、あっという間だった気がするけど気のせい?」

 「気のせいだ、気のせい。断じて昨日と描写同じだし、書くの面倒くさいから作者が飛ばしたみたいな理由じゃない」


 そう、気のせいではない。

 確かにエルキュールとルナリエは『皇帝陛下万歳!!』『ルナリエ様万歳!!』『レムリアとハヤスタンに栄光あれ!!』と歓呼を受け、そして姫巫女メディウムの前で誓いの言葉を交わし、キスをして、指輪も交換したのだ。


 事実、エルキュールとルナリエの薬指には金とルビーの指輪が嵌められている。

 (もっとも、エルキュールの指にはサファイアの指輪も嵌められているが……)


 「だが、これで終わりじゃないぞ? これから昼食会、休憩を挟んで晩餐会があるからな」

 「うーん……もう私疲れたけど……」

 「俺なんて、二日連続だぞ? 文句を言うな」


 などと、軽口を交わしているうちに昼食会が始まる。

 昼食会に招かれたのは主要国の代表を除けば、レムリア帝国とハヤスタン王国の王侯貴族たちだ。


 まず初めに声を掛けたのは……

 ハヤスタン王国のフラーテス三世であった。


 「これはフラーテス陛下。本来ならばこちらから挨拶に出向くのが……」

 「いえいえ、皇帝陛下がお忙しいことは存じています。それよりも……改めて、ご結婚おめでとうございます。皇帝陛下、そしてルナリエ」


 フラーテス三世は穏やかな笑みを浮かべた。

 そして……


 「しかし……ルナリエが結婚か。……昔はあんなに小さかったのに、時が立つのは早い……」


 などと言いながら、男泣きを始めた。

 

 「あ、あの……お父様。大丈夫?」

 「こ、こんなに綺麗になって……天国のあいつにも見せてあげたかった……」


 気付けば号泣しているフラーテス三世。

 どうやら、天国の妻―ルナリエの母親―のことを思い返しているようだった。


 「……もう思い残すことは何一つない」

 「お、お父様!! え、縁起でもないことを……」

 (何だ? この親子コントは?)


 エルキュールは目の前で始まった、唐突の茶番劇に内心で呆れかえりながら……

 フラーテス三世を慰める(必要があるかどうかはおいておいて、茶番劇を終わらせる)ために、彼がまだ男としてやり残していることを指摘する。


 「フラーテス陛下。天の国に行くのは、孫の顔を見てからでも遅くはないのでは? 目に入れても痛くないそうですよ? 孫というのは」

 「おお!! そうだった!! 私としたことが……皇帝陛下、是非ともよろしくお願いしますぞ!!」


 フラーテス三世はエルキュールの手を強く握る。

 エルキュールは苦笑いを浮かべ、フラーテス三世の手を解きほぐしながら答える。


 「ええ、お任せください」(ばっちり種付けてやる)


 というか、もうしているのだが。


 フラーテス三世が去ると……


 「皇帝陛下、ルナリエ殿下、ご結婚おめでとうございます」


 次に挨拶をしてきたのは、エルキュールの異腹の兄であるティトスであった。

 二人に深く頭を下げてから、ティトスはルナリエに向かい合う。

 

 「どうでしょうか? 私のデザインしたドレスは」

 「少し露出が多いことを除けば、大変素晴らしいモノです。さすがはティトス殿下です」

 「ははは、お褒めに預かり光栄です。ルナリエ殿下!!」


 ルナリエに褒められ、ティトスは破顔した。

 

 そんな二人のやり取りを見ながら、エルキュールは思った。


 (ルナのやつ……俺以外には敬語を使うんだよな……)


 ルナリエはちゃんと敬語を使うことが出来る。

 但し、エルキュール相手には意地でも使わない。あなたには屈しないアピールの一環である。


 まあ、それでも『皇帝陛下』と呼ぶ一線だけは律儀に守っているのだが。


 「皇帝陛下、ご機嫌麗しゅう……ルナリエ殿下も」


 次に二人に話しかけてきたのは、エルキュールの異腹の姉であり、ティトスの同腹の姉であるリナーシャである。

 

 リナーシャは親し気にルナリエに話しかける。


 「これで私たちは姉妹、ということになりますね」

 「はい。リナーシャ殿下と義理とはいえ、姉妹になれることはとても嬉しく思います。ご迷惑をお掛けするかもしれませんが、よろしくお願いします」


 リナーシャに対して、ルナリエは丁寧に対応する。

 やはりエルキュール以外の皇族には態度が柔らかい。


 「皇帝陛下。二日連続の御結婚式、お疲れ様です。……二人の美人の奥さんを持ったからと言って、調子に乗ってはなりませんよ?」

 「安心して欲しい、リナーシャ。あなたよりは自己管理ができる自信がある。それとあなたはもう少し、遠慮というのを知った方が良い」


 リナーシャからの忠言(説教?)を、逆に忠言(説教?)で返す。

 二人のやり取りは相変わらずだ。


 

 と、そうこうしているうちに……

 二人は殆ど食べ物を口にすることなく、昼食会はお開きになった。


 



 そして休憩と間食を挟み……

 夕食会が始まった。


 夕食会では初めは二人一緒に挨拶をしていたが、途中からそれぞれ分かれて思い思いの相手と雑談を始めた。


 エルキュールはハヤスタン貴族と。

 ルナリエはレムリア貴族と。


 それぞれ親交を深めるために。


 そして……


 「お話しとは、何でしょうか? お父様」

 「ああ、ルナリエか。……実は、いくつか聞きたいことがあってな」


 フラーテス三世はルナリエをレムリア宮殿の中庭に誘った。

 親子水入らずの会話をしたいのだろう……

 と、エルキュールを含めた全員が空気を読み、二人が会場を離れることを指摘する者は一人もいなかった。


 「……皇帝陛下はどのような人物だと思う?」

 「人間のクズ」

 「……即答か」

 「クズという言葉は彼のためにあると思う」


 ルナリエの即答に、フラーテス三世は苦笑いを浮かべた。

 

 「例えば、どんなところが?」

 「酷い嗜虐癖。散々いじめられた。人を駒としか認識していない。平気で嘘をつくペテン師。それから、あれから……」


 ルナリエは指折り数えて、如何にエルキュールがあくどい人間かを強調した。

 フラーテス三世はそんなルナリエに対して、優しい笑みを浮かべた。


 「よく見ているのだな」

 「な!!」


 フラーテス三世の指摘にルナリエは顔を赤くした。

 そして首を大きく横に振る。


 「べ、別にそういうんじゃないくて……」

 「顔が赤いぞ」

 「こ、これはその……怒りで赤くなっている。わ、私はあんな人間のクズ、好きじゃない!!」

 「私は一度も、お前に皇帝陛下が好きかどうか尋ねていないぞ?」

 「い、いや……ぶ、文脈的に考えて……」


 ルナリエは抗議の声を上げる。

 そんな声を遮って、フラーテス三世はルナリエに尋ねる。


 「愛しているか? レムリア皇帝を」

 「……嫌いじゃない」


 ルナリエは俯きながら、答えた。

 赤く染まった顔をフラーテス三世に見られないようにするためだ。


 (素直じゃないな、うちの娘は……)


 フラーテス三世は肩を竦めた。

 語るに落ちる、とはルナリエのためにあるような言葉だった。


 「ルナリエ、これを皇帝陛下に」

 「……これは?」

 「親ファールス派貴族によるレムリア皇帝暗殺計画と、計画に賛同した者達の名簿だ」


 ルナリエは驚きで表情を強張らせた。

 

 「お、お父様? こ、これは……」

 「領地を削られるのが、余程嫌なのだろうな。ハヤスタンでのパレードでレムリア皇帝を暗殺し、その首で再びファールスに乗り換えようという算段らしい。……あのファールス王がそれを許してくれるとは思えんがな。まあ、このままでは何もかも失う連中からすれば、悪くない賭けなのかもしれないが……」


 生憎、フラーテス三世がそのギャンブルに参加する義理はなかった。

 仮にそれでエルキュールを排除したところで、今度は官僚や家臣たちがササン八世を国王と崇めるのは目に見えている。


 もはや、フラーテス三世にハヤスタン国王としての実権はない。


 となれば……

 後は娘がより幸せになれる道を選ぶ。


 それがフラーテス三世の答えだった。


 「一先ず、私は国に帰る。……下手に陛下と話し込むと、私が計画を陛下に横流ししたと勘付かれるのでな。折を見て、陛下と協議したい。この謀反人共への裁きと、私の処遇について」


 「お、お父様!! わ、私はハヤスタン王国が一番好きです。ですが……」


 ルナリエは真っ直ぐ、フラーテス三世を見つめる。


 「次に好きなのはお父様です。お父様は私が守ります!!」

 「ルナリエ……ありがとう……」


 





 「良い話だ……素晴らしい親子愛、全俺が泣いた!!」


 [ご主人様、それ全然感動してないでしょ]


 アスモデウスが突っ込んだ。

 


 現在、エルキュールは会場の隅で休憩を取る……

 振りをして、ルナリエとフラーテス三世の会話を盗み聞きしていた。


 実は……

 ルナリエにエルキュールが送った結婚指輪には、盗聴や盗撮の魔法が掛けられていたのである。 ちなみにカロリナに送られたのも、同様だ。


 相変わらず、抜け目のない男である。


 もっとも、この魔法はエルキュールの固有魔法ではない。

 では、アスモデウスの魔法か? と言えばそういうわけではない。


 そう、この魔法は……



 【どうどう、凄いでしょう? ご主人様!! 私の魔法!! ふふん、アスモデウスなんかに負けないでしょ!!】


 「はは……そいつはまだ判断できんさ。……これからに期待しているぞ?」


 【はーい!! では、早速今夜伽に……】


 「今日はルナと初夜だから、ダメだ」


 【むうぅ……】

 

 七十二柱の一角。

 序列十二番にして、位は『君主』

 恋慕と秘密の大精霊、シトリーである。


 アスモデウスが幻覚……即ち相手を偽ることに特化しているのと比べ、このシトリーは相手の秘密を暴くことに特化している。

 盗撮盗聴は無論、相手の心や記憶を読むことも相応の魔力と対価・・・・・・・・次第で可能だ。


 尚、相手を洗脳して惚れさせることも出来る。

 もっとも、エルキュールはそういうことは好まない。


 まあ、感度を二、三倍上げたり、催眠掛けてみたり、露出プレイに悪用するくらいはしたが。


 【まあ、私はアスモデウスと違って陛下から直接絞る必要はないから、良いけどね! 私がご主人様から対価として求めているのは、ご主人様が自ら惚れさせた女性から醸し出される甘々ラブラブイチャイチャエロエロムードだからね!!】


 アスモデウスが『色欲』なのに対して、シトリーは『恋慕』を司る。

 同じ淫魔でも、方向性が異なるのは興味深い。


 [シトリー、仮にもあなたは後輩。少しは遠慮するのが筋というものでは?]

 【べーっだ!! アスモデウスなんかに負けないモン!! そもそも契約悪魔は対等だし!! ふふん、私が陛下を寝取ってやるんだから!!】

 [ふん、出来るものならやってみたらどうですか? まあ、あなたが私に勝てるとは思えませんけどね。人の情事を見て指咥えてオナニーするような、オナニー淫魔がプロビッチ淫魔の私に勝てるわけないです]


 ……こいつらは何てあほらしい対決をしているのだろうか?

 エルキュールは呆れ顔を浮かべる。

  

 【ところでご主人様。もしご主人様が宜しければ、ルナリエちゃんの頭の中を覗くことも出来るけど、どうする?】

 「絶対にやめろ。そんなことをされれば興醒めだ。それにルナは俺の物だ。全裸や痴態はともかくとして、あいつの頭や心を覗くことは許さない。もし覗いて良い存在がいるとすれば、それは俺だけだ」


 怒気を含んだ声で厳命されてしまえば、あくまで主人の契約を遵守しなければならない悪魔は逆らえない。

 シトリーは大人しく引き下がった。


 「しかし、ルナのやつ……あんなに俺のことを見ていてくれたとは。可愛いじゃないか……惚れ直したよ」

 [……悪口しか言って無かったような気がするんですが]

 【うわぁ、ポジティブ……私も見習いたいなあ】

 「……何か言ったか?」

 [【いえ、何も】]

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