第22話 アパティアの戦い 序

 ハヤスタン王国と同盟を締結すると、エルキュールは即座に軍隊を南に向けた。


 ルナリエを道案内に立てながら、真っ直ぐアルシニア州に攻め込む。




 ファールス王国の軍用道路を利用することができ、行軍は他国領内を移動しているにしてはなかなか快適なものだった。




 「あと五日か……」




 夜、エルキュールは残りの距離と、行軍速度を計算して呟く。




 偵察部隊からの報告によれば、エルキュールがハヤスタン王国の国境に差し迫った段階でファールス王国軍は進路を変えている。




 その後の進路から、その目的地はアルシニア州であることがほぼ確定している。




 ファールス王国軍が進路を変えた位置かた、アルシニア州までは約四百五十キロ前後。


 ファールス王国軍の行軍速度は平均一日十五キロ程度であり、ファールス王国内の軍用道路を利用し、全速力で行軍したところで一日二十キロを超えることはない。




 つまり最短でも二十三日は掛かる。




 一方、エルキュールはそれから六日間でハヤスタン王国の首都を占領し、そこで三日間停止した後、アルシニア州まで向かった。




 ハヤスタン王国の首都、エルシュタットからファールス王国のアルシニア州までは約二百五十キロで、レムリア帝国軍の標準行軍速度は一日二十五キロなので、十日で到着する。




 レムリア帝国軍がアルシニア州まで行軍するのに十九日。


 ファールス王国軍がアルシニア州まで行軍するのに二十三日。




 つまりエルキュールは四日、ファールス王国軍よりも早く目的地に到着できるということになる。




 「順調?」


 「行軍は順調だ。が、勝利を得られるとは限らん」




 ルナリエの問いにエルキュールは答える。




 「あちらの方が兵数は多い。どんなに戦略で勝っても……肝心の戦争で覆される可能性がある。……というか、この戦争は元々防衛戦争だったんだぞ?」




 エルキュールの目的は元々、ファールス王国軍の撃退である。


 だからハヤスタン王国の領土など、元々要らなかった。


 最悪、帰ってさえくれれば目的は果たせたのだ。




 しかし……


 ルナリエとエルキュールの所為(性)により、ハヤスタン王国のレムリア帝国属国化が確定した。




 この段階で、当初の戦争目的が防衛戦争ではなく逆に侵略戦争へと変わってしまった。




 お帰り頂く程度の勝利と、領土を獲得できるほどの決定的な勝利。




 同じ勝利でも、難易度が全く違う。




 「そう、頑張って」


 「……俺が負けたら、ハヤスタン王国は確実に滅ぶぞ?」




 他人事、とでも言いたそうなルナリエにエルキュールは顔を顰める。




 もはやハヤスタン王国の裏切りは確定的。


 ファールス王国が許すはずがない。




 もっとも……


 レムリア帝国にハヤスタン王国が講和した段階で、もはやハヤスタン王国の存続は怪しいのだが。




 「だから、頑張ってって言ってる。それしか言えないし。それとも、何かする?」




 ルナリエはそう言って、エルキュールに胸を押し付けるように抱き付いた。




 「別に無理しなくても良いのだが」


 「別に無理じゃない」


 「本当に? どうして?」


 「……気持ち良いのは好き」




 ルナリエは顔を少し赤らめ、うっとりした顔でエルキュールを見上げる。


 エルキュールは思わず、唾を飲み込む。




 「何をやっているんですか!!」




 そんな二人に割り込むように、カロリナが怒鳴り声をあげて走って来た。


 カロリナはルナリエが掴んでいる腕と、反対側のエルキュールの腕を掴み、抱き寄せる。




 「陛下! こんな、売春婦みたいな女としちゃダメです。私がお相手します」


 「失敬な」




 ルナリエは眉を顰める。


 さすがのルナリエもそこまで言われると腹が立つ。




 「事実でしょ! 夜這いして、陛下を誑かして!!」


 「……貧乳の僻み?」


 「貧乳じゃない!!! あなたの胸がだらしないだけです!!」




 何度も言うが、カロリナの胸はBよりのCカップでありこれは長耳族エルフ的には十分豊かな方だ。


 長耳族エルフはAAサイズも珍しくない。




 ルナリエのDが凄すぎるだけである。




 え? 


 シェエラザードは?




 あれは千年に一度の逸材だから、比べることすらおこがまし。




 「ちなみにルナリエ、スリーサイズを聞いても良いか?」


 「上から、八十二、五十七、八十二」


 「おお!!」




 エルキュールは思わず感嘆の声を上げる。


 中々、良いからだをしている。




 「カロリナはどうだ?」


 「八十、五十六、七十八です」


 「お前も悪くないな」




 まあ、スリーサイズからではカップ数は推定できないのだが。




 「とにかく! 陛下は私と一緒に寝るんです。悪い虫が来ないように、私がしっかり見張ります」


 「次期ハヤスタン王国国王を産むという使命が私にはある」


 「知りません。勝手に断絶して、滅んでください」


 「そういうわけにはいかない」




 カロリナとルナリエがエルキュールを挟み、睨み合う。


 エルキュールは溜息混じりに、二人に言う。




 「俺は今は女を抱くつもりは無いぞ? 兵士の士気が落ちるからな」




 エルキュールは兵士に対して、強姦を禁じている。


 街で娼館を利用することは禁じていないが……最近は大きな街に滞在していないので、兵士の多くは禁欲中だ。




 仮にも兵士が禁欲している時に、エルキュールがカロリナやルナリエとちゅっちゅしているわけにはいかないのだ。




 「……そう言えば、ここのご飯はみんな一緒。士気に関わるから?」


 「そうだよ。俺も、将軍も、兵士も。全員、飯は一緒だ」




 ルナリエの問いにエルキュールは頷いて答える。




 ここ最近のエルキュールの食事は堅いパンとスープだけだ。


 美食家のエルキュールとしては、非常に文句を言いたい食事内容だが……しかし兵士も同様の食事を食べているのだから、仕方がない。




 実際のところ、別にエルキュールが兵士と同じ食事を取ったからといってその分兵站が軽くなるかといえば、そんなことはない。


 ただ、兵士の士気が少し落ちる。




 エルキュールはそれを気にしているのだ。




 その甲斐あってか、兵士のエルキュールへの支持は厚い。




 皇帝陛下が自分たちと同じ環境に身を置いて、苦しんでくれるなんて……


 なんて兵士思いの方なんだ! 


 一生付いてきます!!




 という感じである。




 何とも、珍妙な話だが……


 どこぞの島国だと、首相が天ぷらを食っただけで非難されることがあるようなので、それに似たようなモノだ。




 気持ちというモノは大切だ。




 「まあ、取り敢えず先に俺たちが戦場に到着する以上戦場はこちらが自由に選択できる。その点じゃあ、有利だな。それに連日引きずりまわされて、連中は疲弊している」




 もっとも、すでにアルシニア州にはハヤスタン王国から一〇〇〇の軍隊を率いて撤退したシャーヒーン将軍がいるが……


 一〇〇〇程度ならば、無視してもいい数だ。




 「ですが、陛下。敵がこちらに挑まず、ひたすら守りに徹したらどうしますか?」




 「それはない。自国の穀倉地帯に三万以上の敵国の軍隊に居座られて、指をくわえてみていられるほどファールスの将軍は臆病でもバカでもないさ」




 軍隊という生き物は大飯食らいだ。


 そこに存在するだけで、その地域の食糧を食べつくしてしまう。




 正義の軍隊など、存在しない。




 軍隊が通る場所では必ず、略奪、強盗、強姦が発生する。


 如何にエルキュールが軍隊の規律を徹底しても、末端まで完璧に把握することは不可能であり、そして間違いなく現在進行形でそのような被害が発生している。




 軍隊とは、例えれば象だ。


 大量に飯を食い、一歩歩くだけで大量の虫を踏み潰す。




 ただ歩くだけでも被害が出るのに、二頭の象が長期間戦えばどれだけの命が踏みつぶされるか、想像するだけでも恐ろしい。




 故に短期決戦こそ、ファールス王国にとっては望ましい。




 だからエルキュールはファールス王国は持久戦を選択しない、と読んでいた。




 「安心しろ。俺が指揮するんだ。必ず君たち二人に勝利を届けるよ」




 エルキュールはそう言って、カロリナの額に唇を押し付けた。


 そしてすぐに、ルナリエの手を取り、キスをする。




 エルキュールが微笑むと、二人の顔に朱が差した。




 「じゃあ、今日は早く寝るんだ」




 エルキュールは二人の腕を振り払い、颯爽と去っていく。


 そして一人になった時、呟いた。




 「……多分、だけどね」




 そう言うエルキュールの表情には、あまり余裕が無かった。














 「どうなるかと思ったが、勝ちが見えてきたな」




 同時刻、カワードは呟いた。




 現状、この状態を巻き返すにはカワードはエルキュールに対して決定的な勝利が必要になる。


 しかしエルキュールが決戦を望まなければ、それは不可能になる。




 だから今までの状況では、勝つのが非常に難しかった。


 しかし……




 ハヤスタン王国の属国化で風向きが変わった。




 エルキュールもカワードと同様に、決定的な勝利が必要になったのだ。




 間違いなく、決戦に応じてくる。


 となれば……




 「兵力差で優る、我らが有利だ」






 エルキュールが決戦の地として選んだのは、広い平野であった。


 太陽が大地を照らし、見渡す限り平坦な地面が広がっている。




 今はレムリア軍が踏み荒らしてしまっているが、本来は畑であり、収穫期には一面を金色の穂が埋め尽くす、豊かな土地だ。




 レムリア軍が布陣しているのは、そんな平野にあるアパティアという比較的大きな村であった。


 住民を追い出し、本陣としたのである。




 「敵兵力は?」




 「歩兵が約二六〇〇〇、重装騎兵カタフラクトが約三〇〇〇、中装騎兵クリバナリウス約七〇〇〇、軽騎兵二〇〇〇、クロスボウ部隊が約四〇〇〇、合計四二〇〇〇」




 「ふむ……最初の報告と少し違うな」




 エルキュールは遠方の……まだ見えないが、もうじき姿を現すであろうファールス軍の大まかな見積りを聞き、顎に手を当てて考える。




 (歩兵が想定よりも少ない……無理な行軍で数を減らしたのか。騎兵が増えたのは、後から援軍が駆けつけたか……それとも数え間違えたのか……)




 とはいえ、さほど大勢に影響はない。




 尚、エルキュールが率いるのは、歩兵二個軍団で合計二四〇〇〇。騎兵が六個大隊七二〇〇。弓兵も六個大隊七二〇〇。そして新たに組織した軽騎兵が一個大隊一二〇〇。




 合計約三九六〇〇である。




 約、というのは今までの行軍と戦闘で多少兵力が減っているからだ。




 実質的な兵力は三八〇〇〇ほどだ。




 さて……




 エルキュールは兵士たちの前に立ち、彼らの顔を確認する。


 兵士たちの表情には少し、不安の色があった。




 当然だろう。




 相手は今まで何度もレムリア帝国を破って来たファールス王国である。


 その上、敵将はカワード……ファールス王国でも名高い名将だ。




 その上、兵力でも負けているのだ。




 そんな彼らを見回し、エルキュールは大きな声で演説を始めた。


 お抱えの宮廷魔術師が、拡声の魔術でエルキュールの声を拡声する。




 「諸君、敵はファールス王国で名高い、カワード将軍だ。君たちもその名は聞いたことがあるだろう。当然だ。何しろ、かのササン八世の腹心の一人なのだから」




 敵は強い。


 エルキュールは暗に兵士たちに言う。兵士たちの表情が暗くなる。




 しかし、次の言葉で兵士たちはエルキュールの演説に引き込まれる。




 「しかし、諸君。それだけだ」




 それだけとは、一体何なのか?


 兵士たちは顔を上げ、エルキュールの言葉を待つ。




 「諸君、敵は……兵の無い将だ」




 ニヤリ、とエルキュールは笑う。




 「ファールス王国、国王ササン八世はシンディラ遠征に向かっている。ファールス王国の精鋭は全て、シンディラ遠征に向かっているのだ。……いわば、これから我らが戦う敵は二級……いや、三級レベルの敵だ。その上、連日の行軍で彼らは疲弊している」




 理路整然とエルキュールは語る。




 「一方、君たちは精鋭だ。私が一から育て上げ、そして今まで幾度も敵を打ち破って来た精鋭中の精鋭である。その上、休息も十分だ。そんな君たちが、あのような二級、三級の兵士に負けることがあろうか? いや、あるまい。少なくとも、私は君たちの勝利を確信している!!」




 エルキュールは兵士を鼓舞する。


 徐々に兵士たちの顔に自信の色が浮かび始める。




 「そして……君たちの指揮官は、将軍は、君主は誰か?」


 「「「皇帝陛下でございます!!」」」




 兵士たちは大きな声で叫ぶ。


 エルキュールは大きく頷いた。




 「その通り! 最強の兵を、最強の将軍が率いるのだ。何を恐れる必要がある!! いや、無いだろう。そうだな?」


 「「「その通りでございます!! 皇帝陛下!!!」」」




 兵士たちは目一杯叫ぶ。




 エルキュールは笑みを浮かべた。




 「さあ!! 連中に本当の戦争というものを教えてやろうではないか!! 神は我らと共にあり!!!」


 「「「皇帝陛下万歳!! 皇帝陛下万歳!! 神は我らと共にあり!!!」」」














 「さて、諸君。兵士たちとは違い、君たちに甘い言葉を掛けるつもりはない。この戦い、非常に厳しいモノになる。勝率九割、と言いたいところだが……まあ三割もあれば良い方だろう」




 演説終了後、エルキュールは将軍たち……ガルフィス、エドモンド、カロリナ、ダリオス、オスカルを集めて、そう言った。




 戦わずに勝つ。または勝てる戦いしかしない。


 という将軍は間違いなく名将だが、そんな名将は物語の中だけだ。




 実際は戦わずに勝つことはほぼ不可能であり、そしてどんなに勝てると見積もっても偶然によって敗北したり、または勝てない戦いを強いられる時もある。




 真の名将ならば戦わずに勝てる、というのは真の名探偵ならば事件が起こる前に解決する、と言っているのと等しい。




 兵士たちの前では絶対に勝つと言い切るエルキュールだが、しかし腹心の部下、将軍たちにまでそこまで言い切れない。


 エルキュールが今回の戦いで保証できる勝率は三割が良いところだ。




 兵力差、というのはそれだけ大きな要素である。




 「兵士たちには敵は二級、三級と言った。ああ、確かに歩兵に関しては二級、三級……下手をすれば四級レベルだ。しかし騎兵は一級だ。しかも我らより、五〇〇〇も数で上回っている」




 淡々と、エルキュールは事実だけを述べる。




 「故にこの戦い、どれだけ騎兵を戦場から排除し、そして歩兵で決着をつけるかに掛かっている」




 レムリア軍が唯一、ファールス軍に優っているのは歩兵の質だ。


 故に歩兵だけの戦い、それも数の差を引っ繰り返すようにしなければならない。




 「良いか? これから作戦を伝える。作戦名は『奇術師マジシャンの右手』だ」




 エルキュールは練りに練った、作戦を将軍たちに伝えた。


 そして将軍たちの顔を見渡す。


 将軍たちの表情に不安はない。ダリオスなんぞ、作戦名と布陣図を比べてニヤニヤと笑みを浮かべている。


 彼の内心を読み解くならば、「陛下は良いネーミングセンスを持っているなあ」と言ったところか。




 「異議と疑問は?」


 「「「ありません!!」」」




 将軍たちの返事に、エルキュールは満足気に頷いた。




 「よろしい!! では、諸君の奮闘を期待している。神は我らと共にあり!!」


 「「「神は我らと共にあり!!!」」」












 「簡単に勝たせては貰えなさそうですな、シャーヒーン将軍」


 「全くです。……しかし、それは敵も同じこと」




 エルキュールが将軍たちに作戦を説明していたころ、カワードとシャーヒーンもまた作戦を練っていた。




 「シャーヒーン将軍。悪いが、今回は私の指揮下に入って頂きますよ?」


 「分かっておりますとも。あなたの指揮に従います。では、作戦は?」




 シャーヒーンはカワードに尋ねる。


 カワードは平坦な声で答えた。




 「我々は兵数で上回っている。が、歩兵の質で敗北している。それに……レムリアの弓兵も厄介。


となれば、やはり勝敗は騎兵で着けるのが確実」




 歩兵で敵を受け止め、両翼の騎兵で包み込む。


 まさに、王道の戦術。




 今回はそれがもっとも望ましいだろう。




 しかし、それはレムリア皇帝も予想済みだろう。




 だからレムリア皇帝は何とかして。騎兵を戦場から排除しようとする。


 故に……




 「シャーヒーン将軍。あなたには騎兵の指揮を任せたい。敵将ガルフィス将軍を打ち破り、敵の脇腹を粉砕して貰いたい。できますか?」


 「ガルフィス将軍ですか。相手に不足はありませんな」




 ニヤッとシャーヒーンは笑みを浮かべる。


 シャーヒーンはどちらかと言えば、知略よりも武力の人間だ。




 「歩兵は私が指揮し、どうにか持たせる。あなたが勝敗のカギだ」


 「心得ていますよ。……アブラ・ダズル神の御加護を。我らに勝利を」


 「ええ、……アブラ・ダズル神の御加護を。我らに勝利を」










 それからしばらく、両軍は作戦通りの陣形に組み換え、そしてゆっくりと接近し合った。




第一図




副将   副将     副将    カワード  シャーヒーン




◇◇   □□□□□□□□□□□□□□□□  〇〇〇〇


○○○             □□□□□  ▽▽▽










       ★★★        ★★★


▲◆               ■■●●  ▲▲▲


     ●●●●■■■■■■■■■■●●  ▲▲


エドモンド オスカル エルキュール  ダリオス ガルフィス


カロリナ




 白……ファールス王国軍。記号一つで約千。名前は指揮官。


  △……重装騎兵カタフラクト


  〇……中装騎兵クリバナリウス


  ◇……軽騎兵


  ☆……クロスボウ部隊


  □……歩兵(槍兵)




 黒……レムリア軍。記号一つで一個大隊。名前は指揮官。




  ▲……重装騎兵クリバナリウス


  ◆……軽騎兵


  ★……ロングボウ部隊


  ■……パイク部隊


  ●……ハルバード部隊








 エルキュールはまず、右翼を分厚くしてその分左翼を薄くした。


 そして右翼の指揮をダリオスに、左翼の指揮をオスカルに託した。




 これを見たカワードはエルキュールの狙いが、斜線陣による片翼包囲だと睨み、レムリア右翼に対応するファールス左翼を分厚く、その分右翼を薄くした。そしてダリオスの猛攻に耐えるために、ファールス左翼の指揮を自ら執り、中央と右翼を副将に任せた。


 そして分厚いレムリア右翼を破壊するために、対応するファールス左翼騎兵を分厚くし、そして武力に長けるシャーヒーンを配置。一方で、ファールス右翼騎兵も十分分厚し、副将に託した。




 これを見たエルキュールはカワードと同様に名将であるシャーヒーンに対応するため、レムリア右翼騎兵の指揮をガルフィスに託し、そして多くの騎兵を配置。そして残りの騎兵をレムリア左翼に配置し、少ない分エドモンドとカロリナの二枚を配置した。




 そして…… 


 それぞれ互いに完成した陣形を見て、両者は呟く。




 「なるほど……」


 「予想通り、か」




 エルキュール、カワードは両者共に笑みを浮かべた。


 互いの手の内は殆ど読めている。




 あとはどちらがより、深く読み込んでいるかだ。




 斯くして……


 世に名高い『アパティアの戦い』が始まろうとしていた。


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