第25話 ハドリアヌスの乱 その三

 |レムリア帝国軍(エルキュール)、反乱軍(ハドリアヌス)両軍の布陣は以下の通りである。


 第一図

 


▽▽   □□□□□□□□   ▽▽

     □□□□□□□□

        ☆☆




     ★★★★★★★★    

▲▲   ●■■■■■■●    ▲▲

▲▲   ●■■■■■■●    ▲▲




■……パイク部隊

●……ハルバード部隊

★……ロングボウ部隊

▲……重装騎兵クリバナリウス


□……歩兵部隊

☆……クロスボウ部隊

△……騎兵部隊

 

 ※黒がエルキュール、白がハドリアヌス

 ※図形一つあたり、大隊(約一〇〇〇~一二〇〇人程度)

 ※誤差あり

 


 エルキュール率いるレムリア軍は両翼に騎兵四個大隊。

 中央には歩兵一個軍団。

 そして最前列にロングボウ部隊を配置した。


 一方、反乱軍は両翼に一〇〇〇ずつ騎兵を配置。

 中央に歩兵二〇〇〇〇。

 そして最前列にクロスボウ部隊を配置した。



 「全軍、進め!! 反乱軍を討ち滅ぼせ!!」

 「神は僕に付いている。偽の皇帝を倒せ!!」


 エルキュール、ハドリアヌス双方の号令と共に両軍は動き始める。



 まず初めに動いたのは、両翼の騎兵と中央の投射武器部隊であった。


 第二図



       □□□□□□□□

       □□□□□□□□

▽▽                     ▽▽

▲▲        ☆☆           ▲▲ 

▲▲                     ▲▲

       ★★★★★★★★


       ●■■■■■■●

       ●■■■■■■●           




 「ふん、貴族共の集めた軟弱な騎兵など敵ではないな」


 レムリア軍右翼重装騎兵クリバナリウスを指揮する、ガルフィスはランスを手に持ち、騎兵を前に進める。

 重装騎兵クリバナリウスの突撃は強力だが、しかしその強力な一撃を放つにはある程度の距離を加速しなくてはならない。

 しかし、あまりに離れた場所から加速すれば馬が疲れてしまい威力が減衰する。


 騎兵突撃は決して、ただ突撃するだけの簡単な戦術ではない。

 絶妙な距離の調節が必要な……高度な戦術なのだ。


 そして……


 「突撃!!!」

  

 敵騎兵の速度、自分たちの速度、そして距離。

 計算と長年の勘が導き出す、もっとも適切な距離からガルフィスは一気に速力を上げる。


 「風の加護を!!」


 ガルフィスの号令で長耳族エルフたちが一斉に契約している風の精霊を呼び出す。

 多くの長耳族エルフたちが使役できるのは精々、下位精霊。

 そよ風程度の風しか、操れない。

 だが、約五〇〇〇人ほどの長耳族エルフたちが同時に風を操れば……


 例え一つ一つがそよ風だとしても、突風へと変わる!!


 風を背に受けた重装騎兵クリバナリウスは急速に加速する。

 一方、敵騎兵は速度を上げるタイミングを見誤り、加速が不十分。


 その不十分な威力の騎兵に、最高潮に加速が高まったガルフィス率いる重装騎兵クリバナリウスが激突する。


 「アモン!!」


 ガルフィスは契約精霊を呼び出し、炎を撒き散らす。

 最高位精霊である、アモンの炎に触れた敵騎兵は一瞬で炭へと変わる。


 数人の騎兵が同時にガルフィスへ挑むが、全て蹴散らされ、返り討ちに有ってしまう。


 あっという間に敵騎兵は背を向けて逃亡する。

 それをガルフィスたちは追う。

 

 敵騎兵を完全に戦場から排除せよ。

 それがガルフィスたちに与えられた命令だった。






 一方、レムリア軍左翼騎兵を率いるのはエドモンドであった。

 そしてその傍らには、カロリナもいた。


 「よろしくお願いします」

 「ああ、こちらこそよろしく。若くして最高位精霊の一角であるエリゴスと契約している、優秀な騎士である君と一緒に戦えて私も嬉しい。……しかし、ガルフィス将軍は厳しいなあ」


 ガルフィスは家庭では厳しい父親として振舞っている。

 だから、できるだけカロリナは自分の側から離して戦わせようと考えていた。


 ガルフィスが近くにいると、カロリナも父親として頼ってしまうし、ガルフィスも娘としてついつい甘くなってしまう。

 これでは、カロリナの為にならない。

 という事だ。


 もっとも、カロリナにもしもの時があればエドモンドは無事ではすまないだろうが。


 「私はガルフィス将軍ほど、突撃が上手いわけでもないからね。……でも、まあそれなりに学ぶモノはあるさ」

 「はい、学ばせていただきます!!」


 生真面目に答えるカロリナを見て、エドモンドは笑みを浮かべる。

 本当によく似た親子だと。


 自分たち親子や兄弟は似てないばかりか、仲がこれだけ悪いのに……


 「おっと、今はどうでも良い事だな。では……行くぞ!!」


 エドモンドは一気に駆け出す。

 ガルフィスならこのまま真正面から突撃するが……


 「カロリナ君、打ち合わせ通りにね?」

 「はい、分かりました」


 三分の一の兵をカロリナに預け、隊を二つに割った。

 そして……


 「突撃!!」

 「突撃!!」


 エドモンドとカロリナは共に一気に速度を上げる。

 ガルフィスほど、完璧な突撃ではなかったが……しかしそれでも十分に満点が貰えるレベル。

 

 風の精霊の追い風を受け、両軍がぶつかる……

 寸前。 

 カロリナは斜めに抜けて、敵の突撃を交わしてしまう。

 

 敵に衝突したのはエドモンド率いる本隊だけだ。


 「まずはこちらからお相手して貰おうかな。……アンドロマリウス!!!」


 七十二柱の一角。

 盗みと正義を司る、大精霊を呼び出した。


 アンドロマリウスの能力は『盗み』。

 つまり……


 「あ、あれ? 剣がどこかに……」

 「兜が無い!!」

 「鎧が、鎧がないぞ?」

 「パ、パンツが!!」


 アンドロマリウスの能力は、約三百人程度の人間からランダムにモノを盗むというモノ。

 通常は武器や鎧などが優先的に盗まれるが……

 ごくまれにくだらないものを盗んでしまうこともある。


 が、些細なことだ。


 「ちょ、待て!! 今は剣が!!」

 「バーカ、誰が待つか」


 剣を無くしてあたふたしている敵をエドモンドは斬り伏せる。

 エドモンドの部下も順調に敵を斬り伏せていく。


 敵騎兵の動きは完全に止まる。

 そこへ……


 「エリゴス!!」


 敵騎兵側面に周り込んだカロリナが、敵の脇腹を食い破る。

 これには耐えきれず、敵は散り散りになって逃げる。

 

 「逃げたか、追うぞ!!」

 「はい!!」


 





 両翼の騎兵が激突しているころ、中央の歩兵も動き始めていた。

 まず、初めにぶつかったのはレムリア軍ロングボウ部隊と反乱軍クロスボウ部隊である。


 「やはりレムリア軍のロングボウ部隊は強いですね、陛下」

 「まあ、それなりに練兵には時間を掛けているしな。それに、風を纏わせているから普通の弓兵よりも威力や命中率、射程距離が長い……まあ、撃ち合いは我々の勝ちだな」


 エルキュール、ダリオスが話している間にレムリア軍ロングボウ部隊は反乱軍クロスボウ部隊を駆逐してしまう。

 すると、反乱軍は歩兵を前に動かし始めた。


 それを見たエルキュールは、ロングボウ部隊に後退命令を出し……


 「ダリオス、手筈通り右側を頼む。やることは分かっているな?」

 「はい、分かっておりますとも」


 エルキュールとダリオスは予め決められた通りの役割分担で兵を動かす。

 

 ロングボウ部隊を両脇、そして歩兵の背後に避難させる。

 そしてハルバード部隊を上下から左右に展開させ、パイク部隊を前進させる。


 レムリア軍のパイク部隊と反乱軍の歩兵が激突する。

 装備が不揃いで、連携の取れていない反乱軍歩兵はパイク部隊を押し切ることができない。


 「まだ、押すな」

 「体力を温存させる。前進は控えるように、各指揮官に通達」


 エルキュールとダリオスは、パイク部隊にひたすら守るように命令する。

 

 その間、ロングボウ部隊は矢を遠方から放ち続け、反乱軍歩兵を疲弊させる。


 そして……


 エルキュールとダリオスは緩やかに、ハルバード部隊を反乱軍側面に周り込ませる。

 パイク部隊とは違い、機動力が高く、そして訓練を積んだハルバード部隊だからこそ、出来る動きだ。


第三図


    

▽▽                 ▽▽

▲▲                 ▲▲

▲▲                 ▲▲


      □□□□□□□□                 

      □□□□□□□□

   ★★●●■■■■■■●●★★

     ★★■■■■■■★★    


 そして、ハルバード部隊が開いた穴を埋めるように、分厚く並べていたパイク部隊を解き、左右に伸ばし、薄く、展開していく。 


第四図



▽                     ▽

▲▲                   ▲▲

▲▲                   ▲▲





       ★●□□□□□□□□●★                

       ★●□□□□□□□□●★

        ■■■■■■■■■■  

        ■★★    ★★■     



 気付けば、反乱軍は側面を包囲されていた。

 反乱軍は徐々に中央に押し込まれていく。


 丁度その頃、ガルフィスとエドモンドが両翼の騎兵の駆逐に成功した。

 そして……


第五図


                 



     ●▼▼▼▼▼▼▼▼●

    ★●□□□□□□□□●★                 

    ★■□□□□□□□□■★

     ■■■■■■■■■■  

      ★★    ★★              



 勝敗は決した。

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