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「それで、これからはどうしますか? 早速狩りにでも行きますか?」
活気の収まるところの知らない町中をすり抜けるように歩いて僕とユーリアさんは帰宅した。僕はこの異世界を冒険する気が満々で、武器を片手に今すぐにでも飛び出したい気分であったが、ユーリアさんはそんな僕を鼻で笑う。
「馬鹿なことを言うんじゃないよ。君は先ほど自分の能力がどんなものか見ただろう。身の程を知るといい」
「でも、やってみないと分からないということもありますよ。もしかして僕がひとたび剣を握れば、人が変わったかのように敵やモンスターを斬り伏せるかもしれませんよ?」
「はぁ……。全く君には呆れてしまうよ」
ユーリアさんは頭を抱えて小さくため息をつく。そんなに変なこと言ったかな……?
「君がそこまで言うなら試してみてもいいがね。ついてきなさい」
そう言うと、僕は裏庭へと案内をされた。大きくはないが、動き回ることが出来るくらいの広さは備えている。隅の方では植物が植えられていて、赤や黄色といった色とりどりな花を咲かせている。
「君はこれを使いたまえ」
ユーリアさんから刃渡り七十センチ、全長およそ九十センチのショートソード、つまり西洋風の剣を手渡された。RPGやアニメに登場するものと瓜二つ、というかそのままであり、僕の心は一層ワクワクした。けれど実際に手に持ってみると軽いとは言い難い。創作の登場人物はこれを軽く振り回しているが、とてもじゃないが僕には難しそうだ。
「それで、これから何をするつもりなんですか……?」
「私に斬り掛かってみたまえ」
「え? でも、ユーリアさんは丸腰ですけど……」
「問題ない」
ユーリアさんはそっけなく答える。舐められている、ということなのだろうか。僕がいくら素人とはいえ、こうも侮られるのは気に食わない。なんせ俺はこれからバウンティハンターとして生きる男なのだから!
「じゃあ、遠慮なく……」
僕は剣を野球のバット構えるような形で、傍から見れば不格好な形で構える。
「うおおおおおおおおおお!」
一気に走り寄ると剣を勢いよくユーリアさんに向けて振り下ろす。しかし、
「あれっ!?」
しっかりと捉えたつもりであったが、ユーリアさんに難なくと交わされてしまった。
「何だそれは。不格好にもほどがあるな」
僕の構えがそんなにも可笑しいのか、彼女は俺を見て愉快に笑う。
「も、もう一回!」
僕は剣を構えなおして、力いっぱいに剣を振るった。しかし、何度繰り返したところで結果は同じであり、何度も何度も交わされただけであった。それでも諦めずに斬りかかろうとすると、突然、謎の衝撃波に吹っ飛ばされた。
「……!?」
勢いよく背後に吹っ飛ばされた僕はいつの間にか空を見ていた。体を起こすとユーリアさんは右の手のひらをこちらに向けている。今のは彼女の魔法、なのだろうか。
「もうこれくらいにしよう。自分の実力がどれくらいか分かっただろう」
「え、でも……」
「君はこの世界においては赤ん坊も同然なんだ。何をしたところで私はおろか、コソ泥すらまともに相手をすることは出来ないだろう」
「……」
「そう心配そうな顔をするな。まだ時間はある。修練を積めばそれなりにはなるだろう」
と言うと、へこたれて座ったままの僕に綺麗な白い手を伸ばす。僕は無言で手を握ると、力なく立ち上がる。
「取りあえず修練は明日からだ。日も高まだ高いことだし、今日はもう休め」
無言を貫く僕の心に不安が渦を巻き始める。
なんだか僕の思っていた異世界と違うなぁ。
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