第14話 使い魔との契約
「この試練の洞窟にはな、アイスのように様々な動物を模した精霊だけじゃなく、ドラゴンやユニコーンみたいな伝説の動物達も棲息しているのじゃよ。」
バニラから順番に時空の歪みの中からこちらの世界へと飛び出してすぐ、おばあちゃんはそうマルルに告げた。
バニラは全員が揃ったのを確認すると、再びコンパクトを取り出して一瞬で時空の歪みを閉じた。
バニラもおばあちゃんも、得にその事に対しての言及など何もしたりはしなかったが、きっと時空の歪みを放置していると時間軸がズレてしまうとか、別の次元と繋がってしまうとか、多分何かしらの弊害が生まれてしまうのだろう。
マルルは勝手にそう解釈すると、バニラに声を掛けた。
「バニラちゃんはそんなすごい生き物が沢山いる中で、どうしてコウモリのアイスを自分の使い魔にすることに決めたの?」
するとバニラはマルルからのそんな質問に、少し懐かしそうな表情を浮かべながらこう答えた。
「それは…はじめてこの洞窟でアイスと出会った時にね。アイスと目が合ったその瞬間から、私の中にビビッとした直感が生まれたの。…あぁ、この子は…クリオネなんだって。」
「…え?クリオネ…?」
バニラのまさかの返答に思わず目が点となってしまうマルル。
「…そう、クリオネ。珍しいからと思って仲間にしたのに、まさかただのコウモリだったなんて。」
そう言ってガッカリとした表情でため息をつくバニラ。ふと見ればアイスもしょんぼりとした表情でうつ向いている。
…たしかに耳が尖って小さな羽根をパタパタと懸命に動かしてるアイスの姿は、氷海の中を漂うクリオネの姿にも見えなくはないが…
「散々洞窟内を歩きまわって、やったぁぁぁぁ!ついにレアキャラゲットだわぁぁぁ!って思ってた矢先に、ただのコウモリだったんだもの。まるで詐欺にでもあったかのような気分よね。」
歯に衣着せぬ言い方でアイスの事をディスりまくるバニラ。
…何だかこの子は話が進むごとに性格が破綻してきているように感じるのだが、多分同じように思っているのは、きっとマルルだけではないだろう。
マルルがそんなアイスの事を不憫に思っていると、バニラがマルルに向かってこう笑顔で尋ねてきた。
「マルルちゃんはもし仲間に出来るとしたら、どんな使い魔がいい?」
バニラからの質問が投げかけられる。
「そうだな~、やっぱりユニコーンとかいいよね!綺麗だし、神秘的だしっ!何よりも強そうだしっ!」
そう言ってマルルはそっと目を閉じると、胸の前で両手を組みながら、ユニコーンと共に戦っている自分の姿を想像しはじめた。
「ユニコーンとかドラゴンとかの伝説の生き物は人気も高いし、他のマジック・ファミリアに比べて格段に出現率も低いけど、頑張ればきっと出逢えるからね。頑張ってね!マルルちゃん!」
そう言ってバニラは、『ポワロ』と呟くと、人差し指の先に小さな火を灯した。
暗い洞窟の中を、その
洞窟の中にある通路の幅は決して広くはないが、それでも奥行きはかなり長いようで、ここから眺めるだけでも、先の見えない暗闇が深く広がっている。
一本道だということだけが、せめてもの救いだろうか。
「…なんか…全然生き物いないね…。」
初めて入る洞窟の暗さにやや怯えながら、マルルはそう呟いた。
そんなマルルの小さな呟きに対して、おばあちゃんやバニラは全く答える様子もなく無言のままだったが、しばらく歩き進めて行く内に、ついには洞窟の一番奥であろう広場にまで辿り着いてしまった。
「…行き止まり…」
思わずバニラがそう呟く。
彼女のその声こそは静かなものであったが、小さな灯りに照らされたその表情が心なしか少し慌てているかのようにも見えた。
「…あれ?この洞窟にマジック・ファミリアが沢山いるはずなんだよね?どこにもそんな感じの生き物が見当たらないんだけど…」
そう言って不安そうな表情のまま辺りをキョロキョロと見渡すマルルのすぐ側で、アイスが小さな羽根をはばたかせながら、真剣な表情で答えた。
『僕がバニラと出逢った頃にはすでに、ここに棲む何体かのマジック・ファミリア達は魔法少女と契約を交わしてこの洞窟を出ていってたからね。もしかしたら、僕がこの洞窟を旅立った後に、大量の魔法少女達が押しかけて来て、それぞれがここにいた生物達と契約を交わして出ていったのかもしれない。』
「…確かに。パンドラのせいで最近ちょこちょこデス・ピザエールが各地に出現していたというのはどこも一緒のはずだからね。私みたいに街から突然魔法少女として任命された人達が、きっと他にも沢山いるはずよ。パンドラは『18回しか箱を開けていない』って言ってたけど、私の街だけで100回以上は出現しているもの。多分パンドラの言った回数は適当に言った嘘だろうし、むしろ今まで全然出なかったマルルちゃんの街の方が異常なのよ。」
そう言って口元に手を当てて、険しい表情で辺りを見渡すバニラ。
「それは一理あるな。もしかしたら、パンドラは自分が箱を頻回に開けている事をワシに悟られたくなくて、封印後1000年が経つまでは、ワシ達の街には行かないよう、デス・ピザエール達に強く言い聞かせて操作をしていたのかもしれない。ある程度言うことを聞くような奴らでなければ、さすがのパンドラもあそこまで頻回に箱を開けるようなマネはしないだろうからな。」
「…つまり、ここには私と契約をしてくれるようなマジック・ファミリアはもういないって事…?」
…また「変身!」と叫ぶ度に自分一人だけドッキュン生着替えしなきゃいけね~のかよ…
マルルは不思議な生き物に会いたい!という希望よりも、『皆の前で生着替えをさせられるのだけはとにかく避けたい!』という欲望で渦巻いていた。
洞窟内にしばしの沈黙が流れる…
そんな中、何かをひらめいたかのように手打ちをしながらその口火を切ったのは、マルルのおばあちゃんだった。
「いや!もしかしたらワシが現役の魔法少女時代に使っていたマジック・ファミリアがまだこの洞窟内に残っているかもしれん!ワシが引退する時に、彼と契約を解いたのもこの洞窟じゃったからの!バニラ、火をここに。」
「はい。」
バニラはそう返事をすると、おばあちゃんの指示に従って、彼女の人差し指の上にポワロの光を分けてあげた。
その動作によって、洞窟内に生じた影が大きく揺れる。
「でもそのおばあちゃんのマジック・ファミリアもこの様子じゃ、もう誰かと契約して出て行ってるんじゃないの?」
「いや、アイツの事じゃ。アイツは並大抵の人間には見つけることはできんよ。…よし、多分この辺じゃな。」
不安そうにそう尋ねるマルルに対して、おばあちゃんは、自分の人差し指に灯された明かりを頼りに近くにあった岩の割れ目の中へと手を突っ込みながら、何やらゴソゴソと探り始めた。
『並大抵の人間には見つけられない。』
おばあちゃんのその言葉に、もしかしたら今から出逢うそのマジック・ファミリアはとんでもなく希少種で、めちゃくちゃ綺麗でむちゃくちゃ強い生物なのではないかと、マルルは期待で胸を膨らませた。
…伝説の魔法少女と共にこの世界を救ったマジック・ファミリア…
もしかして本当にユニコーンやドラゴンかもしれないっ!!
そう思ったマルルは、思わず身を乗り出して相変わらず岩場の隙間に手を入れて、探し続けるおばあちゃんの姿をじっと見守っていた。
「よ~し、出て来い…出て来い…出て来い…いた!」
そう言って、突然明るい顔になったおばあちゃんはその場でそんな嬉しそうな声をあげ、勢いよくその岩の割れ目の中から自分の手を引き抜いた。
引き抜かれた勢いで、高く高く上へと掲げられたそのおばあちゃんの手に握られていたのは、硬くカラッカラに乾いた薄橙色をした何とも平べったい板のような代物だった。
「…えっとおばあちゃん…これって…木の板か何か?」
おばあちゃんの手に握られたその物体をまじまじと見つめながらそう訪ねるマルルに向かって、おばあちゃんは誇らしげにこう言ったのだった。
「これはスルメイカじゃ。今は干からびてしまっているがの。なぁに水に浸けるとじきに戻るさ。」
そう言ってマルルにそのスルメイカを優しく手渡すおばあちゃん。
…って、お前の現役時代の使い魔って酒のつまみだったのかよ!?
やっと出逢えた自分のマジック・ファミリアが、まさかの乾物であったことに驚きと戸惑いを覚えたマルルは、もはやつっこむ事も忘れて呆然と立ち尽くしていた。
~次回、魔法少女 まじかる・ぱいんっ!
『水を与えよ!魔法少女!』
でお会いいたしましょう!
暑さを忘れて、まじかる・まじかるンっ!!
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