第11話 悪の根源

「…はぁっ…はぁっ…はぁっ…」


…数多く倒れた兵士に、

崩壊した街…


あたりは瓦礫で埋め尽くされ、遠くからは

子供の泣き声が聞こえている。


つい先程まで凄惨な戦場と化していたであろうこの地の中央には、一人の魔法少女がうつ伏せていた。


彼女は目の前にある黒い木箱を見つめながら、まるで絞り出すかのような声で呟く。


「…やっと…」


そう呟いた彼女自身の体も傷つき、

息もあがってしまっている。


途絶え途絶えに呟く少女の声に合わせて、地面にはポタリポタリと数滴の血液と共に小さな水滴が零れ落ちた。


「…やっと…終わったんだ…!!」


両手をあげながら高らかにそう叫ぶ少女の元へと、まるでこの世界を洗い流すかのように激しい雨が降り注いだ。



◇◇◇



「…どうしよう…おばあちゃん…

デス・ピザエールが…」


突然のデス・ピザエールの登場に、

驚き戸惑っているだけのマルル。


「ポワロンダ!!」


するといち早くデス・ピザエールの存在に気がついたバニラが、すぐさま火炎系魔法を放って攻撃をはじめた。


だが、デス・ピザエールは一瞬炎に包まれたのみで、すぐにその炎はかき消されてしまう。


どうやら上級魔法といえど、魔法少女に変身していない生身の体では、魔法の威力自体が小さいままのようだった。


「モア・クリスタル!!」


それに気がついたバニラは、続けざまに氷系魔法を唱えた。バニラの手から発せられた巨大な氷はデス・ピザエールを完全に包み込み、奴の動きを止めた。


「さすが北の国ラスタ・クリームの民だけあって氷系魔法の威力は絶大じゃの。魔法少女に変身しなくとも、十分にデス・ピザエールと闘えておる。」


おばあちゃんはバニラの魔法の力に

すっかり関心をしている。


「ありがとう!バニラちゃ…ん!?」


急いでバニラの元へと駆け寄ろうとしたマルルは、そう言いかけて言葉を止めた。


見ると、黒い箱の前にまたもや一匹のデス・ピザエールが生まれ出ている。


「あぁぁぁあぁ!!まぁたあの小娘が箱を開けてまんがなッッ!!」


驚きのあまり奇妙な関西弁かのような言葉遣いとなってしまったマルルを他所に、パンドラは恍惚の表情を浮かべながら嬉しそうに体をくねくねとくねらせていた。


「マルルちゃん!もう変身しましょっ!

こんなの、生身で戦ってたら体がもたない!!」


そう言ってバニラは魔法のステッキを取り出すと、アイスと共に華麗なステップを踏みながら魔法少女へと変身した。


「…よぉ~し、私も変身よ!」


そう言ってマルルが魔法のステッキに祈りを込めると、中央の赤い宝石から魔法少女の衣装が現れた!


パサリと地面に落ちる魔法少女の衣装。


マルルが腰をかがめて

それを拾おうとした瞬間…



「フワリクションッッ!!」



「…あ!!」



バニラがデス・ピザエールに向かって放った風系魔法に巻き込まれて、マルルの衣装は空高く飛び去っていってしまった。


バニラの放った魔法はマルルの衣装を巻き込みながら鋭い風となり、デス・ピザエールに襲いかかる。


デス・ピザエールはたまらず両手を顔の前で組んでその攻撃を耐えていたが、最後にはマルルの衣装がそのデス・ピザエールの体にぺっちょりと張り付いた。


…あぁあぁぁぁ!

これじゃあデス・ピザエールの方が

魔法少女に変身したみたいじゃないか!!


こんな気味の悪い絵柄を、全国のお茶の間に届けてしまっては、この作品がどこかの放送機関に通報されてしまうッッ!!


そう思ったマルルは魔法少女の衣装を取り返そうとデス・ピザエールに向かってダッシュをかけたが、


『キシャ―――――――――ッッ!!』


逆鱗に触れたデス・ピザエールによって、あっさりと払いのけられてしまった。


払いのけられた衣装は再び宙を舞い、風にのって近くの木の上にひっかかった。


「ポワロンダ!!」


バニラの放った火炎が

デス・ピザエールを包み込む。


その炎は先程の物とは全く違い、デス・ピザエールを焼き尽くすには十分すぎる程の威力だった。


一方その頃、マルルは拾った枝で木にひっかかった自分の衣装を取り戻そうと必死に背伸びをしていた。


バニラが自身の魔法でデス・ピザエールを消し炭に変え、安堵のため息を漏らした瞬間…


またもや皆の目を盗んで、

こっそりと黒い箱を開けようとするパンドラ。


「うふふふ~…

次はどんな子が出てくるのかなぁ~?」


そう言ってパンドラが

黒い箱を覗き込もうとしたその瞬間…


「…ぎゃん!!」


パンドラが叫び声をあげて

その場へと倒れ込んだ。


見るとパンドラの背後には木杖を構えたおばあちゃんが佇んでいる。


「…とりあえず、デス・ピザエールとの連闘を避けるには、コイツを大人しくする他ないからの…。」


そう言って地面を見下ろしたおばあちゃんの視線の先には、目をぐるぐるとまわしながら気を失っているパンドラの姿があった。


「…良かった。やっと終わったのね。

一時はどうなる事かと思ったわ。」


そう胸を撫で下ろしたマルル。

もちろん魔法少女の衣装は、

いまだ木にひっかかったままである。



「…でもマルルちゃん…

あなた何もしてないわよね?」



そう若干キレ気味に放ったバニラのツッコミは、彼女が好んで使う氷系魔法よりも遥かに冷たいモノだった。




~次回、魔法少女 まじかる・ぱいんっ!


「働け!魔法少女!」


でお会いいたしましょうっ!


働くのが嫌でも、

まじかる、まじかるンっっ

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