第10話 謎の少女・パンドラ


「…どうしよう…どうしよう…。

こんなの、絶対ジンちゃんに怒られちゃうよね…。」



とある森の中―――…

一人の少女が困り果てた表情で

ウロウロしていた。


その少女は時折『うーん』といった唸り声をあげながら、何やら考え込んだようなしぐさで同じ場所を行ったり来たり…。


少女が往来し続けている場所の中央には、黒い木箱が静かに置かれていた。


その木箱の大きさは両手で軽く抱えられる程度のものであったが、その表面は全体を深く漆黒に塗り固められており、細部に至るまでに丁寧に施された装飾によって、一見どこか気品のある代物のようにも見えた。


だが、使用されている金具のあちこちがすでに錆び付いてしまっている事から、どうやらかなり古い物である事には間違いないようだった。


少女はその箱の前を往来しながら、やたらチラチラと横目で箱の事を見つめる程度で、しばらくは目立った行動は見られなかったが、時間が経つにつれてその表情は次第にうずうずとしたモノへと変わり、ついに我慢できなくなってしまった少女は、黒い箱の元へとまるでオモチャを見つけた子犬かのように駆け寄って行った。


「もうダメ――――ッッ!!我慢できないっっ!!ちょっとくらいなら!ちょっとくらいなら開けてもいいよね――――ッッ!!」


そう言って黒い箱を抱え込み、その表面を優しく撫でながら、少女はペロリと舌なめずりをしたかと思うと、ゆっくりとその黒い箱を開けようとした。


その瞬間…


「こりゃ!パンドラ!!

やはりお前の仕業だったか!」


草むらの影からおばあちゃんが現れた。


「…じ…ジンちゃん…

どうしてここに…。」


おばあちゃんにそう声を掛けられ、慌てて黒い箱から離れるパンドラと呼ばれた少女。


その表情もかなり焦っている。


その後から続けてマルル達も、生い茂る草を掻き分けながら草むらの中からひょっこりと顔を出してきた。


「…もぉ、おばあちゃん~…どこなの?ここ~…ってあれ?…誰?その人。」


おばあちゃんと話していたのは、年の頃なら12~13歳くらいだろうか。もしかしたらマルルとあまり年は変わらないのかもしれないが、まだあどけない表情と低身長のおかげで、その少女はマルルよりも随分と幼く見えた。


「あぁ…この子の名前はパンドラ。ワシが1000年前にその箱の守護を依頼した子じゃ。」


「えへへへ~…よろしくぅっ!」


そう言って紹介されたパンドラは、額に手をやりながら、まるで敬礼をするかのような姿勢で明るくウインクをしてみせた。


「…その箱って…もしかして…。」


「…あぁ、そうだ。ワシが1000年前、この箱に全てのデス・ピザエールを封印したのじゃ。」


マルルは本当はそのパンドラという子が、何故1000年以上も前から生きているクセにそんなに見た目が若いのか(…アンチエイジングとかどうなっとんねん。マジで教えて欲しいレベルだわ。)とか、前から思ってたけどそういやババア、そもそもお前は一体何歳やねんとか、思わず二人を問いただしたい気持ちでいっぱいだったが、物語の都合上、そこはグッとこらえて、とにかくストーリーをなぞっていく事だけに尽力した。


「…じゃあこの中に

デス・ピザエールが…」


マルルはコクリと一つ唾を呑むと、その黒い箱をじっと見つめはじめた。


黒く塗り固められたその箱の表面を見つめる度に、どこか深い闇の底から自分自身の体ごと闇の中へと引きずり込まれてしまいそうな感覚に陥ったマルルは、いつしかその箱から目が離せなくなってしまっていた。



…黒い…


…黒い…


…闇の…


…闇の箱…



「マルル!!」


マルルの心が完全に闇にとらわれそうになった瞬間、そう声を掛けたのはおばあちゃんだった。


その声にはっとしたマルルは、急いで自分の右手を押さえ込んだ。



…私…今…

何てことを…。



全身は震え、心臓は高まっている。


「どうしたんじゃ!?マルル!

お前、もう少しでその箱を開けてしまうトコロじゃったゾ!!」


「そうだよね~…分かるよ!分かる!その箱の事をず~っと見てると、なんだか無性に開けたくなっちゃうのよねぇ~!私も1000年もの間、何回も開けたくなったけど、必死にこらえて18回くらいしか開けなかったもんね!」


マルルの突然の行動に完全に驚いてしまっているおばあちゃんとは対照的に、エッヘンといった表現で両手を腰にやりながら自慢気にそう話すパンドラ。



待て待て、

めっちゃ開けてんじゃねーかよ、お前!

最悪だなっ!!




思わず睨み付ける私とおばあちゃんの表情にに気がついたパンドラは、慌てた表情で首をぶんぶんと激しく振りながら、


「…あ!でも開けたって言ってもちょっとだけだけどね!ほんのちょ~っと!ホントにホントにほんのちょ~っとだけですよっ!」


そう言って片目を瞑りながら、人差し指と親指の間で『ほんのちょっと』を必死にアピールしていた。


「お前の場合は『開けるな』と言われたモノは全て開けたくなってしまう、その腐りきった性悪根性のタマモノじゃろうが!…まったくウチのぬか床や、味噌や、梅干しにいたるまでことごとく開けていきおってッッ!!一体お前のせいでこれまでに何個の食材がダメにされてきた事か!!」


「…いや~ん…ジンちゃん、怖ぁ~い。」


そう言って本気で怒鳴りつけているおばあちゃんに反して、パンドラは相変わらずふざけた表情のまま胸元で両手を組みながら、体をくねくねとくねらせていた。


「…えっと…つまりはどういう事なの…?」


この事態の収拾を図るべく、バニラがようやく割って入った。


「つまりじゃな…本来であれば、確かにデス・ピザエールの封印が解けるのはちょうど1000年経った今日であったハズじゃったんじゃが、このパンドラという少女が己の欲望に耐えきれず、何回もチラチラとこの箱を開けてしまった事で、ちょいちょいデス・ピザエール達が飛び出して、お前さんの街にはびこってしまったというワケじゃ。」


「…そんな…。」


おばあちゃんのその言葉に、衝撃を隠しきれずにいるバニラ。


…ってか、め…めちゃくちゃみんなに迷惑かけてんじゃねーか、コイツ!!


マルルは再びパンドラの事を睨み付けたが、

パンドラはそんな事には、全く気にも留めていないようであった。



「…少々キツい事を言うようじゃが、確かにパンドラのせいでお前さん達の街に予定よりも早くデス・ピザエールが現れてしまった事は紛れもない事実であるし、本当に申し訳ないと思う。じゃが、遅かれ早かれ1000年後である今日には、全てのデス・ピザエールの封印が解き放たれてしまう予定だった事には変わりがなかったのじゃ。…避けられない運命…というヤツじゃな。だからワシは、今日マルルとお前さんの二人を同時に魔法少女として戦闘に立たせるよりは、先にお前さんが戦闘に慣れていてくれた事を本当にありがたいと思っているよ。」


そう優しく語るおばあちゃんの話を静かに耳を傾けながらも、バニラはいまだ腑に落ちないといった表情だった。


アイスもその小さな羽根を必死に羽ばたかせながら、心配そうにバニラの顔を覗き込んでいる。


「…じゃが、確かにパンドラのせいでお前さんに沢山の負担をかけてしまったのは事実じゃからの。ワシからも、パンドラからも一度頭を下げさせてくれ。これパンドラ、こっちに来てバニラに―――――――…」


そう言って、おばあちゃんがパンドラに目をやった瞬間――…



「…キシャ―――――――ッッ!!」


目の前には一匹のデス・ピザエールが立ちはだかっていた。



…こいつ!

どさくさに紛れて、まぁたコッソリと箱を開けやがったなぁぁぁッッ!!




パンドラのその行動に、

さすがにその場にいた全員が

ブチギレた。





~次回、魔法少女まじかる・ぱいんっ!


『悪の根源』


でお会いいたしましょうっ!


明日は雨でも、


まじかる・まじかるンっ!



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