第5話 魔法少女のルーツ


14年前の嵐の夜――――…


ある屋敷の一室で、外の雷鳴にもひけをとらぬような剣幕で、二人の女性が激しく言い争っていた。


あまりの二人の激しさに、一人の男がそれを止めに入ったが、片方の女性はすぐさまその男に駆け寄ると、困った表情でこう言った。


「あなた…!お義母様ったら、この子に『パイン』なんて名前を付けようとしているんですよ!!」


そう男に抗議している女の腕には、生まれたばかりの小さな赤子が抱かれていた。


「母さん…何度も言ったじゃないか。この子は僕達の子供なんだ。名前も僕達で決める。この子にはもう立派な別の名前が考えてあるんだからいい加減もう諦めてくれないか。」


そう言って、二人は大切そうに赤子を抱いたまま部屋を出て行ってしまった。


降りしきる雨が窓を叩きつける中、残された初老の女は一筋の涙を流しながら静かに嘆いたのだった。


「でもパインは…!パインという名前をつけるのが私の長年の夢だったのに…!」


…と。



◇◇◇



「先程はよくやった。マルル。…しかし、お前はまだ魔法少女というものを良く分かっていないようじゃな。」


そう言っておばあちゃんはいまだ状況が理解出来ずにいるマルルに向かって魔法少女のルーツをゆっくりと語りはじめたのであった。


今から1000年以上も前のこと――――…


人間の愚かさを嘆いた神々がこの地から天空へと飛び去ろうとしたその時、荒れ果てた大地の割れ目からはデス・ピザエールという無数の魔族達が生まれ出た。


まだこの世に生まれ出たばかりのデス・ピザエール達であったが、彼らもまた、神々と同様に人間の傲慢さに腹を立て、この大地から全ての人間達を排除しようと動きはじめた。


世界はたちまちデスピザエール達の手によって混沌へと陥り、そして絶望の淵に立たされた事でようやく自分達の愚かさに気がついた人間達は、最後の神に祈りを捧げる事にした。


そしてその最後の神が天空へと飛び立つ瞬間に、人々の為に唯一地上へと残した最後の希望――…



それが魔法少女だったのじゃ…



そう言っておばあちゃんは静かに目を閉じた。


予想を遥かに越える壮大すぎるストーリー展開に、もはやマルルは頷くことすらも忘れ、ただひたすらとおばあちゃんの話に聞き入っていた。


「そして…この村の魔法少女の第1号こそが…このワシだったのじゃよ。」


そう言って優しい微笑みを浮かべるおばあちゃん。


その頼もしくも暖かく優しい微笑みに、マルルもいつしかこのおばあちゃんの華麗なる経歴を、まるで自分の事かのように誇らしく思いはじめていた。


「…おばあちゃんがこの世界で初めての魔法少女だっただなんて…すごすぎる…」


マルルの瞳は、すでにおばあちゃんに対する羨望の眼差しで溢れかえっていた。


するとおばあちゃんは優しくマルルの頭を撫でると、そっとマルルから魔法のステッキを受け取りそして両手で構えながら祈りはじめた。


「そうさ。マルル。でもお前もおばあちゃんの孫だ。お前には今まで見てきた誰よりも魔法少女としての素質がある。今から、お前に魔法少女としての極意をワシが身をもって教えてしんぜよう…!!」


そう言っておばあちゃんがさらに強く祈りはじめると同時に周囲からは無数のまばゆい光が集まり出し…そのままおばあちゃんを包み込んだ。


そして次の瞬間、パンっと弾けたその淡い光の中から現れたのは――――…




マルルと同じどぎついピンク色のやたらヒラッヒラした魔法少女の衣装にその身を包んだ…



カッサカサの老婆の姿だった。



「…うわ…きっつ…!!」



ババアのいたらんコスプレ姿を見せつけられたマルルは思わず自分の両手で顔を隠し、そしてそのままその場にしゃがみこんでしまった。



~次回、魔法少女まじかる・ぱいんっっ



『敵?味方!?


新たな魔法少女。』



でお会いいたしましょう!!


いつもどこかで、まじかる・まじかるンっっ

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