つくしと出会ったのは、あいかが小学六年生のときだった。きっかけは、泣いているときにつくしに声をかけられたこと。泣いていた理由は、親に怒られてプチ家出をしていたから。

 当時のつくしは高校三年生で、あいかからすれば立派な大人で、とてもきれいな人だった。そんな人が泣いている自分に優しくしてくれたのだから、幼かったあいかがつくしに懐いたのも当然だと思う。ちなみに、つくしはあいかのことを可愛い少女としか思っていなかったようで、まだ恋愛対象ではなかったらしい。

 つくしと仲良くなったその日以降、つくしの家に遊びにいくようになった。昔も今と変わらずつくしはあいかに甘く、とても甘やかされたのを憶えている。

 そうして、あいかはつくしと絆を育んでいった。

 その六年後、あいかが高校を卒業したタイミングでつくしに告白された。

 驚いたけれども悪い気はしなかった。優しくて頼れる姉のような存在の人が、自分のことを好いてくれているのだから。

 あいかはその告白を承諾し、あいかとつくしは恋人になった。正直に言ってしまうと、そのときはまだつくしに対して恋愛感情があったわけじゃない。ただつくしが喜んでくれそうだったから、あいかはつくしと付き合うことにした。

 しかし、あいかとつくしの交際が始まっても特に変化はなかった。家に遊びに行って、買い物をして、ご飯を食べて、帰る。それだけだった。変わったことと言えば「好き」や「愛してる」という言葉が交わされるようになったくらいだ。

 密かに恋人というものに憧れを抱いていたあいかにはそれが不満だった。セックスはおろか、キスもさせてくれない。理由を聞いても答えない。恋人が同性であることから、誰かに相談することもできなかった。

 そして、あいかは不倫をした。

 決して故意ではなかった。大学の友達との飲み会で潰されたのだ。酔い潰れたあいかは男に告白され、それを了承し、いっしょに寝てしまった。相手は少しチャラい、大学によくいるタイプの男だった。

 飲み会での記憶は曖昧だが、不幸なことにセックスの記憶は鮮烈に頭の中に残っている。全身で感じる相手の体温、乱暴とも思える力強い抱擁、他人の体液の味、相手からの熱烈な愛。決して気持ちよくなんてなかった。挿入は痛かったし、異物感が気持ち悪かった。だというのに、あいかはセックスを通して伝わる彼の愛にノックアウトされてしまった。愛し愛される関係がどういうものであるか知ってしまった。

 後日、あいかの胸は罪悪感でいっぱいだった。酒に酔っていたとはいえ、つくし以外の人と一夜を共にした。あまつさえ相手に好意を抱き始めている。だから、その罪悪感から逃れたくていつもより積極的につくしにアピールをした。つくしが愛してくれれば、男への気持ちなんて吹き飛ぶに違いない。あいかが本当に好きなのは、きっとつくしだけなのだから。

 最初はセックスに誘い、それがダメならとディープキスをせがみ、せめてソフトキスだけでもとしつこく迫った。しかし結局、その日もつくしは愛してると嘯くだけであいかを袖にするだけだった。

 当たり前の話だが、あいかがつくしと付き合っていることはふたり以外の誰も知らない。だからあいかは飲み会で告白されたのであり、一夜を共にした彼があいかの彼氏として振舞うのも仕方がなかった。彼は悪くはない。悪いのは、彼を強く拒絶できなかったあいかなのだから。

 それから、あいかは二股に没頭した。

 つくしのことは好きだ。でも彼女はあいかの求める愛をくれない。

 彼のことは好きなのかわからない。でも彼はあいかの求める愛をくれる。

 欠点を補う都合のいい関係。 最低な人間に天罰が落ちる日はすぐにやってきた。

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