第7話 売春組合リトライ!

 これはごく常識的な知識だが、転校生はだいたい月に一回くらいのペースでやってくる。


「はじめましてはじめまして。私の名前は左藤右里です。左藤右里です。よろしくよろしくお願いします」


 というわけでやってきた転校生は、左藤さとう右里うさとさんだった。彼女は校則を完璧に遵守して制服を着こなしおり、微塵の狂いもなく切りそろえられた黒髪と表情の乏しさもあいまって、どこか機械的だった。


「左藤さんは、母親が電子計算機だったこともあって、人間生活に慣れていないんだ。みんな、左藤さんを助けてやってな」


 無神経なのか親切なのかわからないが、担任の釜底先生が個人情報を漏洩する。

「それで今日は三十一日で三十一番は果階はてしなだが、それはさておき鶯谷と屋根裏は左藤に色々教えてやってくれ」

「どうして私達なんですか?」


 私は挙手した。そして尋ねた。


「今日の星座占いだ」

「わかりました。星座占いなら仕方ありません」

「今日は三十一日だし、私も手伝うよ」

「ありがとう」


 舞美にお礼を言う。屋根裏さんは七十二個のプチトマトになって爆散してから五十六個しか戻っていないためまだ本調子ではないのだ。


 昼休み、私と舞美は左藤さんを誘って昼食を食べる。

 左腕を三角巾で吊っている舞美は片手で食べられるサンドウィッチを用意していた。顔の腫れはひいたもののまだ右目に眼帯をつけいる。というか怪我が悪化しているようだった。つまり舞美の彼ピは彼女をとてもとても愛しているということだった。それはきっと素晴らしかった。


「左藤さんはペンガゴン高校にいたんだよね。あそこってすごいお嬢様校でしょ。すごいね」

「はい、私はお嬢様ですお嬢様です。私はパパイヤが食べられます」


 左藤さんは機械的にパパイヤを食べながら回答する。


「羽ばたきの授業がとても難しかったです。私は今まで羽ばたいたことがありませんでしたありませんでした」

「羽ばたきはうちの独自科目だから仕方ないよ」

「あれは難しいよねー。羽がないのにどうやって羽ばたけばいいのかって感じ」


 家鴨川先生は鶏だから羽があるけど私達には羽がないのだ。この差は小さいようで大きい。


「でも屋根裏さんとかは両手でパタってるじゃん」

「あの子は天才だからなー。天才すぎるから爆散してミニトマトとかになっちゃうんだよ」

「天才で天才すぎると爆散してミニトマトになってしまうのですか?」


 左藤さんが無表情のまま首をかしげる。


「え、なるでしょ」

「うん。なるね。左藤さんはお嬢様だから仕方ないよ」

「私はお嬢様でお嬢様だから仕方ないのですね」

「うん。そう」


 左藤さんは表情を変えずに固形型常用食糧を咀嚼した。それは時計の針が刻まれるように正確で実に規則的な動作だった。


 舞美はエビアボカドココアジュースを飲み干した後、左藤さんに尋ねる。


「お嬢様な左藤さんは援交したことある?」

「いいえ、私は援交を援助交際をしたことはありませんありません」

「あ、やっぱりー。じゃあ売春は?」

「いいえ、私は売春と売春をしたことは、は、は、は、ありません」

「じゃあさ、放課後売春組合行くんだけど左藤さんも来る?」

「はい、私も放課後放課後に売春組合へ行きます。私も交尾に興味関心がとてもありますあります」

「交尾って」私は苦笑する。「普通セックスとかエッチとか性交とかそこらへんだよ。交尾って」

「人間ホモサピエンスは交尾をしないのですか?」

「するよ。でもたいてい繁殖よりも快感を求めるんだ。それが売春組合だよ」と舞美が答える。

「私はとても交尾に興味関心がとてもあるので、私は売春組合にもとても興味関心がとてもあります」

「じゃあ一緒に行こうね」


 というわけで、私達は放課後に売春組合を訪れることになった。もちろん戸籍謄本を持参していた。幸いにも左藤さんも戸籍謄本を持っていた。彼女はとても几帳面なので家族関係を正確に証明するためにいつでも戸籍謄本を持っているのだった。


「あるでѦaて」


 伝統に則って入口前で八つ裂き踊りをしてから中に入ると、由緒正しい挨拶が私達を迎える。

 受付の美人なお姉さんはまるで牛のようにぶっとい鼻輪をつけており、とってもお洒落だった。彼女はMHOと鳴いた後、本日のご用件とやらを丁寧な敬語で私達に尋ねた。


「私達、組合に加入したいんです。ちゃんと戸籍謄本もあります」


 舞美は必要書類一式を鼻輪お姉さんに渡す。彼女が差し出した書類には血痕が飛び散っていた。私も用意してきたものを彼女に渡す。私の書類にはザザメアンジュースを零した跡があった。左藤さんは申込書をもらってから備え付けの羽ペンでカリカリと記入した。そして提出した。


 確認のためしばらくお待ちくださいと鼻輪お姉さんが言ってからしばらくした後、鼻輪お姉さんは左藤さんに対して戸籍謄本は三か月以内のものでないと受付できないので、新しい戸籍謄本を用意してくださいと言った。


「どっどど、どどうど、どどうど、どどうしてですか」

「相当以前のものですと提出までの間に身分の変動がある可能性があるからです」


 完全かつ完璧かつそれっぽい論理だった。左藤さんは「ぐう」と言った。


 一方、私と舞美の書類は受理され、後日通知書が届くとのことだった。


「通知書が届く前から売春していいんですか?」

「登録から今週の頭からという形になるので、今日から売春なさっても大丈夫ですよ」


 舞美の問いに鼻輪お姉さんはスマイルで答えた。


 それから浮かれファンキーベイベーな舞美の提案で、私達はさっそく売春をすることになった。左藤さんは戸籍謄本を探しに旅立った。


 売春組合を出てから徒歩一分のところにあるお店で売春を始めると、さっそく私に指名が入った。


 この店の制服(西洋甲冑なので正確に言うと服ではない)を着て私を指名した客を迎えると、それはいかにも性犯罪者面した肥満体型の醜男ぶおとこだった。


「あっ、あっ、貴女がアリスちゃんですか?」


 で醜男は私の源氏名を絶対に歯磨きとか三週間くらいやってなさそうな汚い口で言う。


「そうですけど何か」

「こここここんな可愛い子だなんてきょ今日はアタリだなああ。そそそれじゃあ行こっかアリスちゃん」

「嫌です」


 で醜男がなれなれしく私の腰に汚らわしい腕を回してきたので、私はペシリと拒絶した。こんな気持ち悪い男は絶対に性病を持っているに違いない。


「ぼぼぼっぼぼぼくちんは客だぞおおおおお、お客様は神様なんだぞおおおおおおおお!」

「うっさい、死ね」


 私は魔法力パワーでマジカル・リリカル・チェーンソーを取り出し、で醜男を細切れ生ごみにしてやりたかったが、ここはぐっとこらえて「ごめんなさーい☆彡 怒っちゃった?」とお茶目に舌を出した。で醜男は脳みそに行くべき血液のほとんどがチンポに行ってしまっているようなイカレポンチだから私のてへぺろで全てを許した。


 そうして私達は部屋に入り、体を洗い、セックスをした。詳細は差し控えたいが敢えて言うならどちゃくそ死ねだ。


 しんどい交尾が終わってで醜男を洗っていると、彼の体が急激に発光しはじめた。あまりの眩しさに目をつむる。発光がおさまってきたので、目を開けるとそこには金髪長身のイケメンがいた。その容貌はまさに美を体現していると評しても過言ではなかった。というか神様であった。


「神様だ」

「蟻紗よ、私は貴女に会いに来ました」

「どうしたんですか? というかセックスするならそっちの姿でしてほしかったんですが」

「それはできないのです、神でも」


 神様は憂い顔で首を横に振った。ここがエロい店の中でなければ、その宗教画で描かれてもよさそうだった。


「さて蟻紗。斑から聞きましたよ、あの鈴木信子を殺したようですね」

「あのってアレがそんなに有名だったのですか?」


 実に平凡な名前と社内政治の妥協みたいな肩書だったのに。

 しかし神様は真剣な面持ちで肯定したのであった。


「ええ。どうして鈴木信子が大した肩書も部下もなく単独で行動していたかわかりますか? 彼女の不死性についていける者が誰もいなかったからですよ。ですがその超常的なタフネスで彼女は求める情報を必ず手に入れていました。鈴木信子の脱落は情報戦の戦況を変える大きな一手です」

「マジですかー。そんなヤバいやつだったんですね、信子のくせに」


 驚きのあまり全世界の信子に喧嘩を売ってしまった。もしも激怒した信子が現れたら土下座で謝るしかない。


「斑のワンダフルわんちゃんは魔法少女界屈指の魔法です。それを受けて滅ぼされても何度も蘇ることのできる鈴木信子は本当に驚異で脅威でした。しかしいくら斑のワンダフルわんちゃんを受け続け消耗していたとしても鈴木信子を殺せたのは、蟻紗、間違いなく貴女の力です。貴女が魔法力パワーを磨き続けばその刃はサテュノリゼにも届きうるでしょう」

「が、頑張ります」


 予想を上回る期待に内心尻込みしつつも、とりあえず頷いておく。マジかよ。マジマジアルマジローかよ。


「そして蟻紗、貴女にもう一つ用事があるのです」

「なんでしょうか?」


 神様はどこからともなく千円札を取り出した。


「借りてたお金を返します」


 私は神様から借金の返済を受けた。貴重な経験だった。新しく宗教を興すべきなのかもしれない。

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