第34話「欲しい竿がここにはある(いっぱいありますね)」
「それにしてもどんな竿があるんだろうね」
ゆんは首を傾けて由紀に言った。由紀はゆんの疑問な顔を見て答える。
「投げ釣りだし、長い竿かな?頑丈な竿だったらタコとかでも使えそうだしね」
「やっぱり頑丈なものだったら高いのかな?」
「頑丈でカッコいい物になってきたら高くなるかもね。でも持つんだったら良い物持ちたいよね。すぐ壊れたら馬鹿らしいし」
由紀は鼻息を荒げながら、ドヤ顔を見せる。
「いや、ワンチャン、悠のお店でバイトしたから安くしてくれるかも!」
「してくれたらいいね。由紀ちゃん。まあ期待しないほうがいいかもね」
靴箱に着いた二人は、上履きを靴箱に入れて、外靴を取り出し履いた。
「それじゃ行こっか、思い立ったら吉日って言うしね」
「そうだね。由紀ちゃん!悠のお父さんに相談だね」
学校近くの駅から電車に乗り、悠の釣具店近くまで来た。次第にSALE《セール》中と書いてある広告旗が見えてくる。以前見た悠の釣具店がそこにはあった。
由紀は店内に入る。それに連れてゆんも店内に入った。
「へいらっしゃい!……、おお、これは悠の友達じゃないかい。今日はどうしたの?」
いつもの通り、大きな声が店内に響きわたる。
「おじさん、アナゴとかタコとか釣りたいんだけど、いい竿ないかな?」
由紀は上目遣いで悠のお父さんを見上げながら言った。ゆんが後ろで由紀を見守っている。悠にお父さんは顎髭を触りながら、うーんと軽く言い、
「そうだね。今セール中だから色々と見てってよ。店の右奥の方に竿コーナーあるからさ」
悠のお父さんは右奥を指差した。竿が無造作に置かれている。箱に入ってる物やもうすでに箱から出て、何本も竿立てに立てられていた。
「色々とあるんだね。ありがとうおじさん、ゆっくりと見てみるよ!」
由紀はニコリと悠のお父さんに頭を軽く下げた。それに連れて、横にいたゆんもペコリと頭を下げる。
「それじゃごゆっくり、何かあれば言ってね。悠ももうすぐ帰ってくると思うからさ」
悠のお父さんは親指をあげて、グッとポーズを二人に見せた。
「由紀ちゃん!由紀ちゃん!竿がいっぱいあるよ。どれが良いのかな。このデザインが可愛いのが良いのかな?」
竿コーナーに近づくに連れて、ゆんが気分を上げる。
「待てい待てい、分かるぞ、その気持ち。だけど少し落ち着こうか、ゆん。私たちはアナゴ、タコさん用の竿を買いにきたんだよ。今ゆんが持ってるのはバスロットだよ」
ゆんが持っていた竿を棚に戻した。
「なーんだ。バスの竿なの。ホントだ、バス用って書いてある」
「まあ、時間はあるんだし、色々と見てみようか。きっと安くて良い物もあるはずだしね」
由紀はゆんに向かって、片目を閉じてウインクした。
ゆんが竿を見ながら気分を上げている最中、由紀はある竿に目が行った。
「万能タイプ、タコ用、投げ釣りにも使えます……、これ良いじゃん!いくらなんだろう。一万円か……」
由紀は財布の中身を確認する。バイト代の六千円が入っていた。
「あと四千円足りない……、値引き出来るのかな?」
由紀はちらりと悠のお父さんを見る。相変わらず商談だろうか、電話越しで何かを話していた。
「悠に聞いてみよう。悠のお父さんには言いにくいし……」
「おーい。由紀ちゃん!良い竿あったの?」
ゆんはホクホク顔で竿を二本手に持っていた。
「え?ゆんは二本買うの?」
「ううん、二本も買わないよ。由紀ちゃん。どっちにしようか悩んでるんだ」
一本はピンク色一色で、もう二本目はピンク、赤とツートンだった。
「うん。いいんじゃない。どっちも良い感じだね。派手な感じがゆんっぽさが出てると思うよ」
「ありがとう、由紀ちゃん。うーん。やっぱり悩むよ〜どっちが良いのかな?」
悩むゆんを放置して、由紀は他に竿を見るが……。
「た、高い。一万超えると流石に……。安いのは安っぽいし、嫌だしな〜」
竿を眺めていると、悠の声が店内に響き渡ってきた。
「由紀ちゃん、ゆんちゃん!来てくれてたんだ。まいどあり〜」
「悠!!約束通り来たよ。釣竿って結構あるんだね」
悠は鼻を人差し指で摩り、少し照れた感じを見せる。
「種類だけがこの店の自慢だからね。他の店じゃ売ってない物もあるかも。パパはコレクターみたいにいろんな種類の釣竿仕入れるの好きだから」
悠は「はー」とため息を吐きながら、遠い目で出してある竿を見る。
「これも売れさえすれば、生活も楽になるんだけどね……」
悠釣具店もシビアらしい。うーん。値下げ交渉は出来るのだろうか。
由紀は声を掛けるか迷っていると、ゆんは悠を発見するとすぐさま駆け寄って来た。
「悠ちゃん!!帰ってたんだ!!ちょうど良かったよ。この竿ってどっちが安く買えるの?バイト入った仲だし、安くならないかな?」
両手を組み合わせながら、上目遣いで悠を見ていた。
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