第35話高い商品には理由がある。(言葉の通りですね)
「え?良いよ。バイトに入って貰ったしね。友達割で安くするよ」
ゆんの発言に悠は快く受け入れた。安くしてくれるらしい。
「心強い味方が近くにいたもんだ」
由紀は二人に聞こえないようにボソリと呟いた。
由紀は竿を見ながらも、リールもチラチラと見つめている。
竿だけじゃ釣りは出来ない。リールを買うお金も考えないといけない。ゆんはどの竿を買うか悩んでいるところを放置して、由紀はリールコーナーに向かった。
スピニングリールやベイトリール等、数多くの種類がガラスケースに飾られていた。
「あー。エメラルダスの新作だ。それに月下美人まである〜。綺麗だな。高いけど」
由紀は高額な値段を目にすると、すぐさまに目を閉じた。
カゴケースにあるリールを発見。札付きで糸が既に巻いてあるタイプだった。安物っぽく、デザインまでは力を入れてないようだった。
値段は三千円〜のお値段。安い。これなら手が出そう。ただ安くしてもらえると言っても、竿と一緒に買えるのだろうか。
うーんと悩み続けながら、リールを触る。
「何悩んでるんだい?」
由紀がリールを空回ししていたところに、悠のお父さんが話しかけてきた。
「いや、リールと竿を買おうかと思って悩んでるのですが、タコとか穴子とかなんでも釣れる万能の物がないかなって」
由紀は後ろの頭を掻きながら、にこやかな顔を言う。悠のお父さんは突如、ニヤリ顔を見せる。
「由紀ちゃんって言うんだっけ、今いくら持ってる?」
ボソボソと由紀の耳に近づきながら、話す。
「六千円です」
由紀も悠のお父さんに合わせて、ボソボソと耳に近づけながら話しかける。
「そうか、ちと足りないなあ。そこでだ。提案なんだが、今度短期のバイト入った時、ツケといてやるからこの竿とリール一万円で買わないか?」
「これは?もしや」
由紀は目を見開いて、悠のお父さんと目を見合わせた。
「旧型だけどエメラルダスの竿とリールだ。ちょい訳あり物件だが、この竿は結構大物が釣れるぜ。俺が保証する」
思いもしない提案に、由紀は顔を縦に振りそうになる。
由紀は考える。待て待て、ちょっと待て。これは乗っかって良い商談なのか。もしや竿には幽霊でも取り憑いて、それ自体、呪いのアイテムなんじゃ……。
「もしかしてこの竿は呪いのアイテムですか?」
由紀は顔を硬直させ、心に思っていたことを伝えながら、悠のお父さんが手に持っている竿を指差す。
「……そうだな。呪いのアイテムって言えば呪いのアイテムかもな。俺はこの竿を……、いやなんでもない。ただ、この竿とリールでこの値段なら破格だぜ。お買い得価格、今がチャンスだぜ。由紀ちゃん」
悠のお父さんはにやけ顔でとても悪い笑みをしている。少しばかり背筋がぞくりとする。笑顔が気持ち悪い。提案は魅力的だけど、うーん、悩む。一万円は高校生には厳しいよ。
苦い顔を見た悠のお父さんは、チラリとゆんの方に顔を向ける。
「君は釣りが大好きって聞いてたから、君に託したいと思ってたんだけどね。ゆんちゃんって子も釣り好きって聞いてるから、その子に買ってもらおうかな。本当に欲しい子に買ってほしいからね。販売人として」
竿を手に持った悠のお父さんは、竿を「うーん」と直視しながら悩んでいるゆんに向かって近づいて行く。
「ちょっと待った!その竿、私が買うから、いや、買わしてください。その竿で大物釣りたいです」
「毎度あり!お買い上げありがとうございます。いい買い物したね。由紀ちゃん」
由紀のその言葉を聞いてから、即座に竿をたたむ。専用の竿ケースに入れてから、ラッピングを施していた。
手慣れているのもあり、その時間は数分もの時間しか掛かっていなかった。
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