第33話「悠の提案(それなら触れそうですね)」


「気合いか〜〜〜。気合いでなんとか出来たら良いんだけどな。ゴカイの他にも何か餌とかあるかな、悠」

「うーん。他の餌か、他だったら、イカとかサバ、サンマとかでも代用できるよ」

「え!出来るの。それだったら……」

 まさかの別案が出てきた。これなら触れそうだし、何より釣れそう!


「だけど、餌代が高くなるからあんまりオススメはしないけどね」

「うーん。餌代を取るか、我慢するかか〜」

「ちなみに悠はゴカイは触れるの?」

「何言ってんの?私はこれでも女子だよ。触れないことはないけれど、好きこのんでは触れないかな」

「ですよね。うにょうにょして抵抗あるよね」

 悠の言葉に由紀はため息が出る。どうしよう、ゆんと出し合えばなんとか……。


「それに竿とか持ってるの?投げ釣り用の竿、仕掛けが無ければ釣れないよ」

「あ、持ってないや。どうしようかしら。買わなきゃ」

「まいどあり〜、安くしとくよ」

 ニヤリと笑みを浮かべる悠。なるほどさっきからの笑みはそう言う事だったのか。

「この前のバイト代を使って買うよ。一つ持ってたら色々と代用出来そうだし、今日ぐらい見に行ってみるよ」

「うん。待ってるよ。良い竿があれば良いね」

 悠は首を傾けて、微笑んだ。由紀は財布を確認して、バイト代が入っている事を確認して、悠を見たのち首を縦に振った。


________


 昼休みを告げる予鈴が鳴る。ざわざわと食堂に行く者、売店でご飯を買いに行く者、様々だ。

 由紀は、バックから弁当を取り出した。するとゆんが弁当を持って近づいてきた。

「由紀ちゃん、一緒に食べよう」

ゆんはお腹をぎゅーと鳴らしながら、由紀に語りかけた。

 由紀は「良いよ」と告げると、ゆんはにこやかな笑みを浮かべ、今はどこかへ行って居ない前の席に座った。ゆんは弁当箱の中身を開くと、由紀に見せびらかした。

「どう、由紀ちゃん。悠が釣ったメバルの残りだよ。美味しかったから持ってきちゃった」

 ゆんは舌をペロンと出し、ウインクした。テヘペロとイメージしてくれれば分かりやすいと思う。


 由紀は弁当を凝視しつつ、ゴクリと喉を鳴らした。ゆんは相変わらずにニコニコとしている。

「…………」

「どうしたの?そんなに食べたいの?由紀ちゃん」

「……うん。凄く美味しそうだよ。特に脂が乗ってそうなお腹の部分とか」

 由紀はゆんが調理したメバルを褒めると、ゆんは気分を上げたのか、「むふー」と鼻息を漏らした。

「良いよ。由紀ちゃん、お食べ。そのために弁当の中に入れてきたんだよ。それにもう一個の弁当も作ってきたんだよ」

 ゆんはスッと鞄の中から、もう一つの弁当を取り出す。

「もしかして、ゆん。このお弁当も食べるの?」

 由紀は恐る恐る、ゆんに聞いたのだが、ゆんはなんでそんな事聞くの?っと言わんばかりの顔をした。

「このお弁当はおかずが入ってるの。豚のミルフィーユ、ハンバーグ、唐揚げ、ホイコーロ……」

 ゆんは弁当の中身を語り始めた。壮大にゆんのお腹から、ギュルルルルルと音が聞こえてきた。

 由紀はゆんをじっと見つめて、ボソリと言った。

「怪物を飼ってやがる」

「んー?何か言ったかな?由紀ちゃん」

「なんでもないよ。そんなことよりご飯食べよう。時間なくなっちゃう」


_____


 ホームルーム終了を告げるチャイムが鳴った。

 担任は教壇に立ちながら、ゴホンと咳払いする。

「それじゃお前達気をつけて帰れよ。明日からの二日休み、有意義に過ごしてくれ」


 担任は早々に教壇を後にして、教室から出て行った。


 ゆんが由紀の机に向かう。

「ねーねー。由紀ちゃん、起きてよってば」

「zzz……むにゃ、もう終わった?」

 由紀は机にうつ伏せになっていたが、ゆんの声がする方向に顔を上げる。


「ホームルーム普通に寝てたね。よく先生にバレないね。あの先生がチョロすぎるのかな?」

「いや、あの先生は鋭いよ。いつの間にかチョーク当てられてたし……。けど私の敵じゃないよ」

「いや、何と争ってるの?由紀ちゃん普通、ホームルームの時は眠っちゃダメだからね」

 由紀は「ははは」軽い笑い声を出した。ゆんは「もう〜」と言いながら、由紀を見た。


 教室を出た由紀とゆんは廊下を歩く。

「悠ちゃんはいつもの?何か知ってるゆん?」

 ゆんはコクリと頷き、

「そうだよ。委員会があるんだって!会議が長引くから先帰ってて言ってたよ」

「そっか、そうだ。ゆん。今日帰りに悠の釣具店寄ってかない?アナゴ用の竿と針が欲しいんだ」

「いいけど。お金あるの?由紀ちゃん」

 ゆんは首を傾げながら、由紀を見つめる。由紀は後ろの後頭部を軽く掻いた。

「あんまり無いけど、この前入ったバイト代から出そうかなって。イカはもうシーズン終わりそうだし、また貯めて買えばいいかなって」

ジトッと見てくるゆんに、由紀は手を合わせて「お願いします」と言った。

 ゆんはため息を吐く。仕方がないね、と言わんばかりに。

「それじゃ私も買いに行くよ。由紀ちゃんが高い物買って財布がスカスカになるのを止めるために!」

 ゆんは腕組をして、プイっと顔を向きながら言う。由紀は苦笑いをしながら「大丈夫だよ」とだけつぶやいた。

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