第32話「アナゴの意味。(ゴカイを触るのには抵抗がある)」
「アナゴか。良いかも。甘だれにつけて炭火焼で焼いたら美味しいよね」
ゆんはよだれを垂らしながら、そんな事を……。
炭火焼で焼く時はぜひ呼んでほしい。
アナゴならエサ釣り投げてたら釣れるし、何より簡単だしね。
「ただ一つ問題があるんだけどね……」
由紀は息を「はー」と吐く。ゆんは首を傾げながら疑問に問う。
「問題ってなんなの?由紀ちゃんが言うぐらいだから重要な問題でも……」
ゆんは口の中にある唾をゴクリと飲む音が聞こえる。
それと共に緊張感が周囲に広がる。
由紀が少し間を開けながら、そして口を開けた。
「エサがゴカイだから……。ミミズみたいなゴカイを手で触らないといけない事かな」
あんな、うにょうにょしてるモノを針で刺してだなんて抵抗が無い奴はいるのだろうか。
「ご……ゴカイ。それは険しい道のりになりそうだね。手袋準備しなきゃ。悠ちゃんは触れるのかな?」
ゆんはうつむき、軽く目が死んでいた。
仕方ないって言ったら仕方がない。だって気持ち悪いモノは触りたくないし、なんとかしないと……。
「だけど、アナゴは釣りに行きたいね。新たな魚を食べたいよー」
ゆんがうつむいていた顔を上げて、笑みを浮かべた。
由紀は「そうだね。行かなきゃ」とだけ言い、ゆんの顔を見ながら、学校へと向かう。
そんな中、ゆんがふと口を開ける。
真剣な顔をしながら見せる表情には何か深刻さが脳裏に浮かぶ。
「サザ○さんのアナゴさんの由来って何だろうね。アナゴの名前だけ取っただけなのかな?」
「ああ、どうなんだろうね。顔が似てるからかな?」
由紀は軽い苦笑いを浮かべ、そんな答えは知らないよと言わんばかりに首を横に傾げる。
「だってあれだけ有名なアナゴさんだよ。絶対に何かあるはず!」
「その答えは私は持ち合わせていないけど、アナゴは釣りに行こうね」
ゆんの変なこだわりを放置して、由紀はゆんの話題をスルーした。
〜高校に着いてから、かばんを机の横にかけて由紀は自分の椅子に座った。
ゆんは早々と早弁ならぬ、早パンを食べでいる。
机越しから、悠がゆんに話しかけているところが見えた。話を終えるのを見て、すかさずこっちに向かってきた。
「おはよう。由紀ちゃん」
「うん。おはよう、悠。昨日はありがとね。楽しかったよ」
ニコリと微笑を浮かべ、由紀は言う。悠は手を軽く出して微笑む。
「ううん。こっちこそ、楽しい時間を過ごせて良かったよ。それより聞いたよ。今度はアナゴ釣るんだってね」
ゆんから聞いたのだろうか、悠は何か、からかいにきたのかと思える笑みを見せる。
「メバルが釣れなくなるからね。餌はゴカイで釣ろうかなって思って」
「えー。あのゲテモノ由紀ちゃん達は触れるの〜?」
ニヤニヤ笑いで悠は言う。やはりからかいに来たのだろうか。
「それが一番の問題なんだよ。釣れるけれどあんなの触れないよ。どうしよう、悠、何かコツとかないの」
そうだ、悠ならば、釣り屋の娘ならばアイデアがあるのかも。
期待を込めて悠に聞いたのだが、
「ない!もう気合いでなんとかするしかないよ。由紀ちゃん」
「気合いか〜〜〜。気合いでなんとか出来たら良いんだけどな。ゴカイの他にも何か餌とかあるかな、悠」
「うーん。他の餌か、他だったら、イカとかサバ、サンマとかでも代用できるよ」
「え!出来るの。それだったら……」
まさかの副案が出てきた。これなら触れそうだし、何よりゴカイより釣れそう!
「だけど、餌代が高くなるからあんまりオススメはしないけどね」
「うーん。餌代を取るか、我慢するかか〜」
「ちなみに悠はゴカイは触れるの?」
「何言ってんの?私はこれでも女子だよ。触れないことはないけれど、好きこのんでは触れないかな」
「ですよね。うにょうにょして抵抗あるよね」
悠の言葉に由紀はため息が出る。どうしよう、ゆんと出し合えばなんとか……。
「それに竿とか持ってるの?投げ釣り用の竿、仕掛けが無ければ釣れないよ」
「あ、持ってないや。どうしよう。買わなきゃ」
「まいどあり〜、安くしとくよ」
ニヤリと笑みを浮かべる悠。なるほどさっきからの笑みはそう言う事だったのか。
「この前のバイト代を使って買うよ。一つ持ってたら色々と代用出来そうだし、今日ぐらい見に行ってみるよ」
「うん。待ってるよ。良い竿があれば良いね」
悠は首を傾けて、微笑んだ。由紀は財布を確認して、バイト代が入っている事を確認して、悠を見たのち首を縦に一回振った。
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