第30話「扉の中に居た人物(天使みたいです)」
駅で悠と別れてから、由紀は家路に向かう前に、ゆんの家に向かった。
由紀は悠から預かった袋を見ながら、
「喜んでくれるかな?ご飯を食べているとはいえ、サイズのでかい分、喜んで抱きついてきそうな気がする」
そう言っているうちに、ゆんの家に着いた。由紀はゆんの家を見上げる。
「本当にデカいよな。まるでお城だよ」
三階建の家なのだけど、お洒落なレンガ造りの建物。
横に広く、一階のリビングには何十人もの人を集めてパーティが出来そうな雰囲気だ。
真上にある赤レンガの煙突が洋風感を醸し出している。それに左側を見るとガレージがあり、右側には犬が走り回れるようなドックランのような広い芝生があった。
「私もこんな所に一度住んでみたいものだわ」
由紀は鼻をさすりながら、インターホンを押した。
扉の奥からドタバタとかけてくる音が聞こえてくる。ゆんだろうか?いつも通りの元気な足音。
ドアが勢いよく開く。由紀はゆんだろうと思い、右手を軽く上げる。
そこにはゆんよりもさらに小さい、小学生ぐらいのフリフリスカートを穿いた女の子がドアノブを開けていた。
由紀は「あ」と言いながら、手を引っ込める。
間違えたのかな?ここってゆんの家だったよね??
由紀は焦りながら、表札を確認する。よかった。ゆんの家だ。
「あの〜どちら様で?」
小さな声で言ってくる女の子。
その少女は、ゆんに似て腰ぐらいまである黒髪の女の子だった。撫でたら気持ち良さそうなサラサラヘアーをしている。
顔も整っていて、まるでゆんを小学生にまで戻したような子だった。
可愛い。今すぐ抱きつきたい。むしろ連れて帰りたい。
待て、これでは事案だ。よーし落ち着け。由紀、深呼吸だ。
由紀は深呼吸を何回か繰り返す。目の前に居る少女は首を傾けて、頭にハテナマークを浮かべているのがすぐに見て分かった。
「あ、ゆん……ゆんちゃん居るかな?ゆんちゃんの友達なんだけど、居たら渡したいものあるから呼んできてくれないかな?」
ドアの奥でいる少女に微笑みながら、要件を伝達する。変な笑顔になってないかな。
その少女は首を傾げながらも「はーい」とだけ言い、家の中に入っていった。
すぐさまに入れ違いで、ゆんがドアから出てきた。
「由紀ちゃん!わざわざありがとうね……、ってなんでニヤけてるの?」
「いや、なんでもないよ。はい。これ悠から」
由紀は誤魔化すかのように、悠からもらった袋を手渡した。
ゆんは袋の中身を確認すると、ゆんの顔がパッと輝き始める。
「凄い……、凄くデカい。こんなに身がしまってて太いのは初めてだよ」
上目遣いでゆんは由紀を見つめる。
「そうだね。悠が釣り上げたんだよ。まあ聞いているとは思うけど」
「うん!デカいのが釣れたって言ってたけど、こんなにも大物だってビックリしたよ!ねえ、由紀ちゃんはどうだったの?」
キラキラとした視線を由紀に見せる。そんなゆんの姿に口を引きつかせながら、苦笑いを浮かべた。
「う、うーん。つ、釣れたよ。小さな魚だったけどね。うん!ボウズではないかな」
釣れた魚が小さなフグだったのは黙っておこう。
「それより、さっきの子は誰なの?ゆんにそっくりだったのだけど?」
由紀は先程出てきた少女の事をゆんに聞いた。決してやましい事はないよ。
「うん。従姉妹の
ゆんは紅潮させる頬に手を置きながら、ニコニコと笑みを浮かべる。
「唯ちゃんか。うん!さっきちらっと話したけど可愛かったね。魚、いや釣りって好きなのかな?」
由紀の何気ない言葉にゆんは、
「食べる魚は好きみたいだよ。釣りはやった事ないと思うけど。好奇心旺盛な子だし、今度釣りでも誘ってみてもいいかもね」
ゆんはニコリと微笑みながら、由紀を見つめた。由紀は「うん」とだけ頷いた。
「んー。じゃもう帰るよ。もう遅いし」
「そうだね。夜も遅いし、気をつけてね」
由紀は右手を軽く上げる。ゆんは手を振る仕草を見せる。
「それじゃまた調理したら、由紀ちゃんと悠ちゃんに写メ送るね」
「うん。待ってる。今度はゆんも釣り行こうね」
由紀は背中を見せながら歩く。ちらりと後ろを振り返ると、ゆんが手を振り、由紀が帰るのを見守っていた。
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