第23話「ゆんの愛妻弁当(ツンデレいただきました)」
キーンコーンカンコーンと学校の予鈴がなる。
由紀は教室にある自分の椅子に座り、机に右肘をつき、雨が降る校庭を眺めていた。
降りしきる雨がポツポツと、校庭には水たまりが出来ていた。
「今日は降り続けるのかな……」
ゆんは机でふて寝している。魚をさばくのだって時間はかかるはずだし、疲れてるのかな。
「今日は何にも出来ないな……」
由紀は授業が始まった教室で、小さくため息を吐いた。
昼を告げる予鈴も鳴り、お昼時間になった。チャイムと同時に、ゆんが机から立ち上がる姿が見えた。
「由紀ちゃーん。お昼だよ。ご飯食べよう〜♪」
気分高めのゆんが机に掛けていたバックを手に取り、由紀の机に近づいてきた。
ゆんの気分高めの笑みは、微笑ましいぐらいに満面の笑みだった。
「昨日釣ったムニエルはどれほどのものか味見してあげる」
由紀は喉をゴクリと鳴らしながら、ゆんに言う。
ゆんは「うん、食べて。美味しいから」と由紀の机に弁当を一つ置いた。
そして、ゆんはバックの中から、机の上に置いた弁当よりも一回り大きい弁当をバックから出した。
「もしかして、弁当作ってくれたの?」
由紀は首を傾けながら、ゆんの聞いた。ゆんは首を縦に振り、「うん」と答えた。
ゆんがそう言っているのです、「ありがとう」とだけ言い、弁当箱の包んだ布をほどき、弁当箱を開けた。
下にご飯がぎっしり埋め尽くしていて、その上に、シーバス《スズキ》のムニエルがポンと置いてあった。
「顔に似合わず、豪快な料理だね、ゆん。まさに男勝りだよ、この弁当は……」
「へへへ、美味しそうでしょう。ムニエルにつけたタレが美味しいんだよ」
ゆんの言っていた通り、ムニエルにはタレがかかってあり、下にあるご飯にもそのタレはしっかりついていた。
由紀は「いただきます」と言いながら、ゴクリとムニエルを一口食べる。そしてご飯も頬張る。
「……どうかな?美味しい?由紀ちゃん」
ゆんは上目遣いで心配そうに由紀を見る。由紀は目をつぶりながら、もぐもぐと口を動かす。
「……悪くわないわね。わ、私の方がもっと上手に作るけどね」
「由紀ちゃん……、私の目もくれず、弁当を口でかけてる姿、説得力ないよ」
由紀は一気にゆんの作った弁当を平らげた。なにこれ、凄く美味しいわ。ムニエルも柔らかいし、何よりご飯にかかっているタレ。食べたことないぐらい濃厚でコクがあるんだけど。ご飯と合いすぎ。言い換えれば、ご飯と焼肉のタレのコンボ、いやご飯とシーチキンマヨのコンボかな。こんなタレをご飯に仕込んでくるなんて、ゆんなんて恐ろしい子。
由紀は満足そうに平らげた弁当を机に置くと、るんるん気分になっているゆんの顔が見えた。由紀はぷいと顔を背け、耳まで真っ赤にしながら言う。
「べ、別に満足したわけじゃないんだけどね。……また作ってきてもいいんだからね」
「ツンデレいただきました。作ってきて良かったよ♪」
由紀のそんな姿を見て、ゆんはにこりと微笑んだ。
すると、やれやれといった感じで近づいてくる悠の姿が見えた。
「相変わらずね。愛妻弁当かしら」
「「ち、違うよ」」
見事にハモった。二人とも動揺しているようだ。
由紀とゆんは、悠に向かって両手を軽く振って言った。だけど、二人とも顔が真っ赤になっている。
「そう、別にどっちでも良いんだけどね。それより二人ともお願いがあるんだけど、今週の日曜日って時間空いてる?」
悠の質問に由紀とゆんは首を傾げる。
「私は特に予定も無いかな。試験前でもないし」
由紀は悠の顔を見ながら、悠に返答する。
ゆんは「うーん」と目をつぶり腕組みをしながら考え込むも、
「多分何もなかったと思うよ」
目を開けてから、悠に言った。
悠はホッとしたかのように胸を撫で下ろし、
「ちょっと今週の日曜日、バイト来てくれないかな?」
そう優しい口調で二人に告げた。
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