第21話「まさかの魚でした。(メバルロットで釣れるものなんですね)」

 あれから何十分経ったんだろう。この愛用のメバルロットで見知らぬ魚とファイトしてから。

 遂に尾びれが見えてきた。ぱちゃりぱちゃりとライズして《跳ねて》いる。


 由紀は歯を食いしばりながら、ゆんに言う。

「もう網で取れそうかい?取れるなら取ってほしいよ」

 足をプルプルとしている由紀をチラリと見て、ゆんは網を持って由紀の近くに足をはこぶ。

「取るよ。由紀ちゃん。えーい」


 ゆんが網から拾い上げた魚は、60センチほどで身体が銀色で少し黒っぽい魚だった。身が付いていて美味しそうだ。


「凄いね。由紀ちゃん!こんな大物釣り上げるなんてびっくりだよー」

 ゆんはジャンプしながら、「わーい」と言いながら笑みを浮かべている。

 由紀は腰を地面にぺたりと落とした。

「なんでこんなのが釣れてるのよ」


 釣れた魚はシーバス《スズキ》だった。見た目は大きいながらも、シーバスからしたら小さいサイズなのだろう。


 だけど由紀はいまだに足をプルプルとさせている。メバルロットじゃ流石に体力的にも厳しかったようだ。


 由紀は真上にある星空を見上げ、大物を釣り上げた感覚に浸っていると、ゆんの言葉でさらに気分を上げる。


「さっきのガシラでも必死だったのに、釣り上げたシーバス?って魚だったっけ?、この竿で倍以上の魚を釣り上げるなんて、由紀ちゃんは凄いよ!!」

 いつも以上にテンションを上げて、由紀に話しかけてくる。まるで自分の事のように喜んでいた。

「まさかメバルロットにシーバスがかかるなんて思わなかったよ。がっつりピンク色のワームも飲み込んでたみたいだし」


 褒められると気分が良い。やはり来てよかった。こんな体験、ゆんが居なかったら出来なかっただろう。

 するとゆんがもじもじとしながら、聞いてくる。

「あの〜、由紀ちゃん。この魚って持って帰るの?」

 ゆんがジーと由紀を見つめる。由紀は釣り上げた魚をスマホで写真に取ると、首を横に振る。

「いいや、持って帰らないよ。だってこの大きさだと食べきれないし、魚をさばくのも大変そうだしね」

 それを聞いたゆんが目を輝かせて、口からヨダレを垂らしながら由紀の手を握った。

「お願い由紀ちゃん!私に、私に譲って!さばいて食べたいの」


「こらこら、ヨダレを拭きなさい。持って帰るのは別に良いけど、今持ってる袋じゃ入るの?」

 ゆんが持っているガシラが入っている袋を見るが明らかに入りそうにもなかった。

「わかったよ。由紀ちゃん!近くのファミマで交渉してくる!」

「?、交渉?」

「行ってくる~」

 ゆんは後ろに振り返るといきなり走り出した。そしてすぐに帰ってきた。

「もらってきたよ。大きい袋!チロルチョコもついでに買ってきたよ」

 大きい袋をブンブンと振り上げながら、ゆんは帰ってきた。


 由紀が釣ったシーバスを血抜きして《締めて》やり、袋に入れてから、由紀はゆんに言った。

「それじゃ帰ろうか。もう夜も遅いし、それに魚をさばくんだったら尚更だしね」

 ゆんはオーバーアクション気味にうなずき、「うん!」と返した。


 海がぱちゃぱちゃ波たつ。ゆんはにこりと微笑む。

「またさばいたら、LINE送るよ。せっかく由紀ちゃんから貰ったんだからね」

「ま、期待しないで待ってるよ」

「えー。なんでそんなこと言うのー?」

「この前送ってなかったじゃん」

 由紀は「ぷぷ」と笑みを見せながら、ゆんを見つめる。ゆんも同じように笑みを見せる。

 二人キラリと光る星空を見ながら、夜な夜なの道を歩いて帰った。

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