第20話「何かが釣れたようです(大物のようです)」
「よーし。ゆんに負けずに私も釣るぞ」
由紀は手を握りこぶしを作り、気合いを入れる。
ゆんは釣ったばかりの魚をコンビニの袋に入れると、頑張ってと言わんばかりに手を振った。
「由紀ちゃんなら、大物釣れるよ。私はさっきので疲れたから休憩するね」
「うん。頑張るよ。これ以上ゆんに不甲斐ないところは見せられないしね」
由紀はニコリと笑みをゆんに返す。ゆんは「はー」と疲れたように息を吐いた。
いまだに腰が抜けているらしい。あれだけの大物を始めて挑んだんだ、頑張った方だよ、本当に。
由紀は竿を振り上げて、ワームのついた針を海に投げた。
ゆんと同じように巻いていく。少しアクションをつけながら、ちょんちょんと。
手で感覚だけを感じながら、リールを巻いていく。
由紀は目を見開いて、思いっきり竿先を上にあげた。すると竿が大きくしなった。鞭のように。
「ゆん、これは大物かも、この竿で感じたことのない重さだよ」
由紀はリールを巻くが全く巻けないことに気付く。むしろ糸が出ていっているのがわかってしまった。
「え、え、由紀ちゃん、頑張って」
由紀の大物を引いた発言に、ゆんは瞬時に立ち上がり、顔を右往左往しながら慌てている。
由紀はリールを巻くのをやめて、竿を上に上げ続ける。
「……ゆん、落ち着いて、私の持ってきた網を持ってて。魚が見えてきたら、すぐにすくって……」
由紀は「ぐぐぐ」と歯を食いしばりながら、自分を落ち着かせるように、ゆんに言う。
ゆんは「うん」と一言言いながら、急いで網を手に取り、由紀に近づく。
「出てきたら言ってね。由紀ちゃん。頑張ってね」
「うん、頑張る。きゃ!」
竿が引っ張られる感覚が、竿から手の先に伝わってくる。身体まで海に引っ張られそうだ。海に引っ張られないように足に思いっきり力を入れる。
なんなのよ。この魚は……、メバルじゃないのかな?もしかして別の魚?
力に限り竿を持ち、再度、地面を踏ん張りながら、由紀は釣れている魚と
魚の方も次第に疲れてきているのか、リールが巻けられるようになっていた。
「これはチャンスよ」とぼそりと由紀は呟くと、リールを巻けるだけ巻く。巻けなくなったら、竿を上に引き、魚を疲れさせる。
「頑張って、由紀ちゃん!もう少しだよ」
ゆんが応援してくれている。頑張らないと……私は、ここで釣れないただの女じゃない。
奥歯を噛み締めて、竿を立てらしながら、リールを力の限り回す。すると徐々に前へ前へ、と一歩ずつ、糸を引き、ようやく前に進んでいるのだと由紀は感じた。
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