第18話「いつもの釣り場、穏やかな海(潮が動いてないようです)」

「由紀ちゃん!バイトも良いんだけど、この夜って暇?暇なら釣り行かない?」


「うん。良いよ。昨日行けてないし、なに行くの?」

 ゆんは顎に手を置きながら、「うーん」と梅干しみたいな悩んだ顔をしている。由紀は「どこが良いんだろう?」と呟く。


「いつものところ行く?この近くの海」

 由紀はゆんに軽い笑みを浮かべて言った。ゆんが「うん」と軽い返事をした。

「決まりだね。由紀ちゃん、今回は負けないよ。絶対大物釣って由紀ちゃんを超えるんだからねー」


「うん、楽しみにしてるよ。大物釣ってね」


「うん!」

 二人向き合いながらニコリと笑みを浮かべる。まるで天使の笑顔を見たかのようだった。次第にニヤニヤとにやけてしまう。


「それじゃまた後で」


「由紀ちゃんこそ、遅れないでね」

 由紀は手を振り、ゆんを見送った。胸のドキドキ感を感じながらも、正直に話し合って良かった、そんな安心感が由紀の心をホッとさせた。


__________


 夕焼けが完全に落ち、周辺は青黒くなっていた。時折見えるキラキラと光る星が綺麗だ。

 由紀は「ふー」と息を吐いた。そしてニヤリと笑った。

「今回はゆんを驚かせてやるわ。絶対大物釣ってやる」

 ぎゅっと拳を握りしめて、気分を高めていた。由紀はコンビニのライトを見つめる。

「まだかな。まだかな」

 時折、魚のように跳ねるようにジャンプをする。今日は本当に気分がいい。月が綺麗だからだろうか。それにこんなに待ち遠しいなんていつぶりだろうか。知らぬ間に身体が揺れて、周囲を何回も見渡してしまう。


「由紀ちゃーん。来たよ!」

 ゆんが背中に背負っている道具を揺らしながら、由紀に近づいて来る。

 由紀はゆんに手を振りながら、にこりと微笑む。

「驚いたよ。今回は早いね。もしかしてすぐ来たの?」


「まさかのそこで驚かれるとは。まあね。早く釣りしたかったし……」

 由紀はゆんをチラリと見ると、耳を赤くしながら、ゆんから顔を背けた。


「ふーん。また待ち合わせで遅れると思ってたよ」

 ゆんはお日様のような笑顔を見せる。夜だというのに、眩しい。由紀はつい目を瞑る。

 冷静さを装いながら、由紀は、

「さあ行こっか。今日は大物釣れるといいね」

 二人はいつもの海辺へ向かった。波は静かで、時折、壁と波がぶつかってぱちゃぱちゃと聞こえる、穏やかな海だった。


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