第17話「正直に、誠実さを(大切なことですね)」
帰宅したのち、由紀はスマホを取り出し、ゆんに電話をかけた。
「ゆん、少し話があるんだ。今から出てこれるかい?」
由紀は電話越しにゆんの声色を気にしながら耳をすます。
「うん……、別にいいけど」
電話越しにボソボソと聞こえる声、まだ少し怒っているのだろうか。由紀はドキリとしながら、ゴクリと喉を鳴らす。
「それじゃこの前のファミマに集合ね」
由紀はそう言うと、ゆんは「うん」とだけ言い、電話を切った。
由紀は切った直後、ため息が「はー」と吐きながら、
「喜んでくれるかな。……くれるよね。私のいつものクセって言うのはわかってるんだけどな」
ポリポリと髪を掻きながら、スマホをスカートのポケットにしまった。
________
夕焼けが落ちて、月が薄っすらと見えてきている時間帯。空は濃い青と薄っすらとオレンジ色が混ざりあっていた。
由紀は「ハアハア」と息を荒げながら、待ち合わせのファミマに着いた。
そこには既に、ゆんはファミマの入り口付近でスマホをいじっている。気づいたのだろうか、ゆんがチラリとこっちを見てプイと顔をそむける。
いつもだったら、「由紀ちゃーん」って手を振ってくれるのに、これは相当怒ってるのかな。
「ゆん……。いきなり呼び出してごめんね」
「うん、良いよ。由紀ちゃん、話って何?」
由紀がゴクリと唾を飲んだ。「ふー」と息を吐く。
「実は……、悠の家でバイトする事になったんだ。それでね。イカ釣りの道具を買おうかなって思ってる。ゆん、ごめんね。私、いつものクセでゆんとの約束忘れちゃってた。本当にごめんなさい」
由紀は頭を下げた。プルプルと身体を揺らしながら、ゆんの返答を待つ。
「本当はね。私、由紀ちゃんとは喧嘩なんかしたくなかったんだよ。だけど、嬉しい。そんなに私の事考えてくれてたんだ。由紀ちゃん、こっちこそごめんなさい。一人でむくれちゃってたよ」
ゆんの瞳からポロリと一粒の滴が流れた。
「由紀ちゃん!バイトすることになったんだね」
いつもの通り、にこりと微笑んでくれるゆん。
由紀はその笑顔に安心感を覚えた。それに少しばかりドキリともした。耳を真っ赤にしながら、ゆんの顔を見ながら言おうにも向けない。
仕方がないのでそっぽを向いた形になりながら、
「ゆんが良かったら、一緒にバイトでもしない?悠には二人でもって言ってたし」
由紀はうつむき、チラリとゆんの顔を見た。
ゆんは「うーん」と考え込んで腕組みをしている。少し間を空けてから言った。
「良いよ」
「はー。やっぱり、ダメだ……、え?今なんて?」
「良いよって言ったんだよ。しよ、バイト。お金貯めていい道具買おう」
にこりと微笑んだ笑みを由紀に見せる。由紀は一瞬光がゆんに照らされたかのように眩しく見えた。
由紀は涙目になりながら、ニコリと微笑んだ。
「良いの?本当に、え、え?」
「良いよって言ってるんだよ。やろうよ。バイト」
そうゆんは言った。由紀は「うん!」と一言言って頷いた。薄っすらと輝いている夕焼けが妙に温かさを感じてしまった。
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