第16話「レジのひと時(釣り回ではありません)」

 悠と約束をした由紀は、カゴの中に入っているメバルの商品をレジに持っていく。

 レジのところにいた悠のお父さんは、レジ近くの電話の受話器を耳に当てながら、誰かと話しているようだった。


「すまん、悠。ちょっとレジ頼む」

 再度声を変えて、受話器に頬を当てる。


「わかったわ。パパ……お父さん」


 由紀は悠のお父さんを見つめながら、

「何か仕事でも入ったの?」


 悠も首を傾げながら、頭にはてなマークを浮かべる。

「どうだろう。メーカーとの商品の話かな?それか、クレームかなにかかも」


「うわぁ、大変そうだね。メーカーとの話だったら良いのにね」

 由紀は悠のお父さんの顔から悠の顔を見る。悠は由紀のカゴに入っている商品をバーコードリーダーでバーコードを読み取っていく。さすがは店の娘だ、手慣れているのか、やり取りはスムーズに進む。


「まあなんとかなるでしょう。800円になります」

 由紀はバックに入っていた長財布を取り出すと、財布の中に入っていた硬貨を手で数えながら手に取っていく。1000円以内に収められてホッとする。学生はお金がないからね。


「はい。800円ちょうど、100円ばっかふぃになっちゃったけど、ごめんね」


「大丈夫だよ。それに一万円札よりかマシだよ。たまにドヤ顔で出してくるおっさんいるけど、100円の商品だけで出してきた時にはイラっとするわ」


 悠は手で頬をさすりながら、苦笑いをしたのち、ため息を吐いた。

 由紀も苦笑いをしながら、財布から800円を出した。


「だけどうち的には、買ってくれるだけでもありがたいんだけどね。んー。まいどあり」


 悠はレジから出るレシートを由紀に渡す。由紀は、渡されたレシートをスカートのポケットに入れる。


「色々とありがとうね。悠、それじゃ、バイトの件よろしくね」

 ぺこりと由紀は頭を下げた。悠はレジから手を振ってくれている。

 奥にいた悠のお父さんも電話越しだったのだけど、ニコリと微笑み、手を振ってくれた。本当に親子なのだろうと感じた。


 自動ドアが開くと、由紀は外に一歩歩き出して、「うーん」と背を伸ばした。

 夕日が眩しく目を薄っすらと閉じると、ゆんの顔を思い浮かんだ。

 由紀はニコリと笑みを浮かべながら、来た道を歩いて行きながら、帰宅した。

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