第14話「店員はざっとしていたようです」

 奥のコーナーに向かうと、一面に餌木が飾ってあった。

 有名メーカーの物もありながらも、名前の聞いたことのない餌木もあった。

 腰ほどぐらいに飾ってあった有名メーカーものには高いので手に取らなかった。下の足元に置いてあったカゴの中に入ってあった、値段が安そうな餌木を、由紀は手に取った。


「三百円か、うーん。やま……もとかな?聞いたことない。悠なら知ってるかもだけど……、だけど安いな」


 色は赤、ピンク、金、銀、などと言った餌木が無数にカゴの中にある。


 カゴの中をあさっていると餌木っぽいけれど、イカ用とは少し違う物が置いてあった。

「これもイカ用なのかな。イカコーナーのところにあったんだし」


 よくよく見ると、手にとっている餌木は、お尻の針が三本と鋭く、他のイカ用とは少し大きかった。パッケージには、タコ用と書いてあった。


「タコ用じゃないかよ。ざっとしてるな……」


 タコ用の餌木はそっとカゴに返した。そして後ろにも餌木が無数に置いてあった。

 由紀は少し奥のコーナに向かう。すると一つのポスターが貼ってあるのに気がついた。

『イカ釣りキャンペーン。イカ釣りセット一万円』


「……、一万円か……いーな。だけど、高いな……」


 由紀はポスターを見つめながら、ため息を吐いた。


「どうだい?良い物は見つかったかい?」

 さっきの大柄の店員だ。ニコニコ笑顔で話しかけてきた。


 由紀はぺこりと頭を下げて、

「はい。買いたいものはカゴに入れました」


「そりゃ良かった。で、イカ釣りコーナーは見たかい?実はセッティングおよび、企画は俺がやったのさ」

 店員は自分の親指を顔周辺に立てて、ドヤ顔をしている。


 由紀は「ははは」と苦笑いをしながら、

「イカコーナーにタコの餌木がありましたけどね」


「え?嘘?、混ざってた」


「混ざってた」


 店員は後ろ髪をポリポリとかいた。

「あとで直しておくよ。ありがとうね」


 由紀はニコリと笑みを浮かべ、軽く頭を下げた。

 イカコーナーがざっとしてたのは、この店員が原因だったと分かったところで、由紀は店員に聞いた。


「店員さん、イカ釣りのことで聞きたいんだけど、安くて使いやすい竿とリールないの?」


 店員は微小髭が生えた顎をスリスリと触りながら、「うーん」と考え込む。


「そうだな。ダイワのエメラルダスシリーズとかどうかな?イカ専門のプロフェッショナルだし、何よりカッコいい。キラリと光るエメラルド色がロマンだね」


 由紀は「へー」と頷く。


 店員が「うんうん」と顎を触りながら、

「確か、んー。どこだっけ、あ、あった。あった。これがエメラルダスの竿かな」


 イカコーナーの奥の方にいくつもの竿の中から、店員は一本手にとって、竿が入ってある細長い箱から竿を取り出す。


 エメラルド色に染まる2ピースの竿があらわになった。

 由紀はキラキラとエメラルド色に輝く竿にいつの間にか夢中になっていた。


「え?何これ、綺麗」


「だろぉ〜。この竿は感度も良いし、イカ釣りにはもってこいなんだよ」

 店員は由紀に向かって、ドヤ顔をした。商品を持ちながら、「ウンウン」と頷きながら言った。


「おじさん、この竿っていくらなの?めっちゃ良いじゃない」


 由紀の気分が徐々に高揚してくる。由紀にとって初めてかもしれない。竿に心を奪われるのは。

 物に魅了された、させられたのならば仕方がない。それは恋をしたのと一緒なのだから。


「なんと、お買い得だよ」


 少しばかりの沈黙が続く。由紀は顔をほんのり赤く染める。竿を見つめながら、頭の中で使っているイメージをしつつ、大物を描いている。

 由紀は「ゴクリ」と喉を鳴らした。早く言って欲しい。少しばかり沈黙が続く。


「一万三千円。お買い得だよ!」


「やっぱり高い。ってか間が長いよ」


 店員は後ろ髪を掻きながら、「えへへ」と呟いた。


「うーん。今はお小遣いがないから買えないよ。だけど、おじさん。私この竿気に入っちゃった。この竿いつか買うよ」

 由紀は拳を握りながら、店員を見つめながら言った。

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