第13話「フィッシング宮内(乱雑としてます)」
仕方がないので、鞄を持って教室を出た由紀は靴箱までやって来た。
「うーん。ゆんの靴もうないや。先に帰ってやがる」
由紀は後ろ髪を掻きながら、ため息を吐く。
後ろめたさが今になってくる。どーんと後ろの背中からのっかかってくるかのように。
「ただ、約束を忘れてただけじゃない……」
由紀は靴箱の中から、靴を取り出し、履いた。
帰り道を歩きながら、ある約束を思い出す。
「そうだ今日、悠のお店行くことになってたんだ」
由紀の家とは反対方向にお店はある。そんな気分じゃないのだけど……。
「仕方ない。今日は割り切ろう!」
由紀は顔をパンと両手で軽く叩いた。そして悠のお店に向かった。行く途中に、ゆんの携帯にメールを送る。
『今日はごめんね。また釣り行こう』
簡単な文章をスマホのメール機能から打ち込む。送信のボタンを押すとそのままスマホを閉じてポケットに入れた。
電車を乗り継いで、由紀の家から反対方向に向かって進む。学校近くの駅から2駅ほどで降りて、5分ぐらいしたらとある建物が見えてきた。
デカデカと看板に、フィッシング宮内と書いてあった。
「なんかフィッシング詐欺みたいな名前だな」
不意にもクスッと笑ってしまった。ここに来るといつも笑ってしまう。
由紀はキョロキョロと周りを確認する。
周りには知り合いおよび、悠が居ない事にホッとする。
「つい口に出してしまったからな。バレたらヤバい、ヤバい」
悠も気にしているだろう、口は災いの元で怒られるのは、もう勘弁したい。
さらに歩き、5分ぐらいしたところにフィッシング宮内はあった。
あのどデカイ看板に気後れしないような、一戸建てのプレハブを改良したような建物がそこにあった。
赤い屋根が印象的で、この前行ったお店同様に店内はライトアップされて居た。セールだからだろうか、店内にも釣り人が数人ほど見渡せた。
お店の外にはランドリーカートの中に、セール品と書いているポップが貼ってあり、リールや糸など雑に置いてあった。
「さすがはセール品、お宝品がありそうだ」
由紀は期待と胸にトキメキを感じていた。
自動ドアに近づくと、まるで由紀を歓迎してくれるかのように自動ドアが開く。
店内は前に行ったお店とは違い、物が乱雑としていた。ただ、お宝が眠っていそうな気もしない事もない。
店内の中にも、商品にはセールのポップが貼ってあった。
すると大きな男の声が由紀の耳に入ってきた。
「へいらっしゃい!」
目の前のレジから八百屋さんのような発音。ここが八百屋さんならば白菜を買ってしまうような声だった。
大柄の店員はニコリと笑みを浮かべ、
「今日はセール中だから、いっぱい見てってね。おすすめは奥のコーナーにあるイカ釣り関係だよ」
「え!そうなの?ありがとうおじさん!」
店員はニコリと微笑みながら、「どうも」とぺこりとかるくお辞儀をする。
由紀もぺこりとお辞儀をして手元にあったオレンジ色のカゴを取り、奥のコーナーに向かう。
その前に、メバルコーナーもあったので、いつもの針とワームをセットでカゴに入れる。
由紀がスカートを気にしながら、しゃがみこむ。
「ふむふむ、これもセール品なのか。買っちゃおうかな。あ、この針も良さそう」
結局カゴには、いつもの針とワームセットと蛍光色付きの針も中に入れた。
ホクホクとしながら、由紀はニヤリと微笑む。
「これは来て良かった。さてとあの店員が言ってたイカ釣りの道具でも見に行きますか」
ボソリと喋りながら、しゃがんでいた足を伸ばし立ち上がる。
由紀は興味本位で奥のイカ釣りコーナーに向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます