第12話「痴情のもつれらしいです。(忘れてただけですね)」

 キーンコーンカーンコーンと学校の終わりを告げるチャイムが鳴る。


 由紀は椅子に背中をつけて、後ろに反って「うーん」と伸びをした。

 目の前にある窓を見ながら「ふぁ〜あ」と大きなあくびをした。


「終わって早々に、あくびははしたないわよ」

 制服をピシッと決めている悠が呆れ顔で話しかけて来た。


「ふぁ!……な、何よ。いきなり、あくびぐらい人間だから出るわよ」

 由紀は口を押さえながら、渋い顔をしながら、悠を見る。


「まあいいわ。セールもう始まってるみたい。お父さん、携帯あんまり見ないから、今連絡来たわ」


 由紀は身体と一緒に、座っている椅子を悠に向けた。

「そうなの。じゃ帰りぐらいに行こうかな」


「ふーん。それじゃ待ってるわ。今のうちなら在庫あったはずよ」


「了解。必ず行くわ。ありがとう」


 悠はニコリと笑みを浮かべ、

「それじゃ委員長の仕事あるから、また後でね」


「うん、またね。悠」

 由紀は悠に手を振った。悠も由紀に手を振り、教室から出ていった。


「さてと、ゆんはまだかな。もうそろそろぐらいしたら帰ってくると思うけどな……」

 机に肘を置きながら、窓から見える校庭を眺めていた。


「由紀ちゃん、ゆーーーーーきちゃーーん」

 ゆんは大声を発しながら、扉をバタンと開けた。

 由紀と数人いた生徒は一目散に注目した。


「ゆん、うるさい。そんな大声で叫ばないでも分かるから。ってか終わったの補習は?」


「今日はもういいって。明日またあるみたいだけど」

 ゆんはがっくりと肩を落とす。感情豊かなやつだ。


「あ、そうそう、今日、悠のお店行こうと思うんだけど、ゆんはどうする?」


「うーん。何か買うの?」


「針とかワームとかかな」

 由紀は腕組みをしながら、足で座っている椅子を前に浮かせる。

 他にも何かを買おうかなと悩んでいると、ゆんが仁王立ちで立っていたのに気づく。


「ん?ゆんも何か欲しい物あるの?」


「……、ねえ、由紀ちゃん、この前の約束覚えている?」

 ゆんが笑顔で聞いてくる。どこか不気味な感じがする。


「んー。約束……ってなにかしてたっけ?」

 由紀は首を傾ける。本当に何の約束なのか頭にない。


「え?本当に覚えてないの?私と約束したじゃん、一緒にお金貯めてイカ釣りするって。それまで無駄遣いやめるって」

 ゆんは由紀の机をバタンと手で音を立てる。


 由紀はうーんと思い出す。確かに……、釣り具店で……。

「あ、そうだった。イカ釣りするんだった」


「普通に忘れてるじゃん。なにそれ、もう由紀ちゃんなんて知らない」

 ゆんはプイッと顔を由紀の反対方向に向ける。


「ごめんってば、忘れてただけじゃない」

 由紀は平謝りをしながら、頬をかく。


「ふーんだ。無計画な由紀ちゃんなんて、なんて、うわっっっっん」

 ゆんが教室を飛び出した。

「おい、ちょっと……」

 由紀は引き止めようと、手をゆんの方に出すが、無情にもゆんの背中だけが目に写っていた。


「どうするかな……」

 由紀は再び椅子に座る。なぜか視線がさっき以上に感じる。

 教室を見渡すと、教室内にいた数人の生徒がじっと見ていた。

「「痴情のもつれよ……、ヒソヒソ」」


「違うから、そんなんじゃないから」

 由紀は机にうつ伏せになりながら、ため息を吐いた。

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