第11話「タコの気分だよ。(だそうです)」

 ゆんと合流してから、三人は学校へと歩き出す。

「ねえねえ、委員長。昨日ね、初めてメバル釣ったんだよ。サイズは十五センチぐらいだったよ。凄いでしょ」


「そうなの。初のメバルおめでとう。これで初心者脱却へ、一歩進んだね」

 悠はニコリと笑みを浮かべながら、ゆんを見る。


「まあ手のひらサイズだったんだけどね」

 由紀は口を手で隠しながら、ゆんをニヤニヤと見ながら言った。ゆんは頬を膨らませている。

「由紀ちゃんこそ、ボウズだったじゃん」


「う、それは……、お、大きなあたりはあったんだからね」

 由紀は腕組みをしながら、プイッと顔を背けた。


「次は釣ってやるわ。見てなさい。ゆん、悠!」

 由紀は手のひらを上に向け、人差し指をゆん、悠の方向に向ける。

 ゆんは目を輝かしながら、両手に拳を作りながら由紀を見る。

 悠は歩きながらチラリと由紀を見る。


「うん!楽しみにしてる」


「結果だけ教えてね。由紀なら勝手に釣ってそうだけどね」


 由紀は頬をかきながら、

「そう言われると照れるんだけど……、まあ頑張るよ。そうそう、ゆん、結局LINE来なかったんだけど、メバルはどう調理したの?」


 ゆんは、人差し指を揺らし、「ちちち」と言いながら、2人を見る。

「今回はちゃんと撮ってきたよ。遅かったから由紀ちゃんに送らなかっただけだよ。ちなみにメバルは唐揚げにしたよ」


 そう言いながら、由紀と悠にスマホの画面を見せる。

 由紀はゆんのスマホ画面を見ながら、

「今回は食べる前に我慢したんだね。えらい。もう1匹釣れてたらよかったんだけどね」


 悠は腰に手を置き、しゃがみながら顔を近づける。

「紺色に焼けて美味しそう。ゆんって料理上手なんだね。見直したわ」


「でしょ、でしょ。YouTubeの動画を見ながら日々練習してるんだからね。ちなみに1匹じゃ足りないと思って、イカとタコも買って食べちゃった」

 ゆんは腕組みをしながら、ニヤリとドヤ顔をしている。鼻息が少し荒い。


「イカとタコの写メとかは無いの?」

 悠はスマホ画面から目を離して、ゆんをチラリと見る。


 ゆんは頭を撫でながら「えへへ」と言いながら、

「うーん。先に食べちゃった。次は撮っとくよ」


「ふーん。だけどタコも行きたいね。釣ってみたくなってきた。時期はいつなんだろう?調べないとね」

 由紀は頭を傾けながら、「うーん」と悩む。


「タコだったら、明石タコが有名だよ」

 悠は由紀の顔を見ながら、スマホ画面を見せてくる。スマホ画面には明石タコの情報が載っていた。


「すごい真っ赤だね……、って調理後じゃない」


「……、お、美味しそう」


 由紀は悠の腕をツッコミを入れる感じでかるく叩いた。ゆんは、相変わらず口からよだれを出している。

 確かに写真を見る限り、柔らかく美味しそうだった。


 ゆんはゴクリと喉を鳴らす。

「由紀ちゃん、委員長……、明石タコ狙おう。もう釣れるのかな?」


 悠がスマホを触りながら、「うーん」と頷く。

「七月ぐらいらしいよ。もう少し暑くなってからかな」


「えー。がっかりだよ。もう口の中がタコの気分だったのに」

 ゆんは腰を下ろし、地面にしゃがみながら、悠を見つめる。


「夏まで我慢だね。ゆんちゃん」

 悠は右目をつむり、ウインクする。ゆんは口をアヒル口にして、「ちぇ」と言い、立ち上がった。

「今は別の魚をやれって事だよ。ゆん」


「仕方ないね。タコは夏まで我慢するよ。由紀ちゃん」


 三人は喋りながら、学校までの道のりを歩く。春の日差しが少しばかり眩しい。あくびをしてしまう陽気だった。

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