第8話移動したみたいです。

「ゆん、さっきのは凄かったよ。言葉では言い表せられない。このメバルロットの竿が物語ってたよ」


「ミシミシって言ってたもんね。メバルだったら30オーバーは間違いないね」


 ゆんは目を輝かせながら、由紀の健闘を称えていた。

 由紀は掌をゆんに向けると、

「一人じゃ起き上がれないから、手貸して……」


 ゆんは由紀に手を差し出すと、グッと引いて、由紀は立った。

「ありがとう。てっきり、手を離すかと思ってたよ」


「酷いよ。そんなことしないよ」


「冗談、冗談。だけど、私が生きのいい引きを周りに見せつけたせいで、周りに居た釣り人が俄然やる気出してる」


 周辺に居た数人の男性は、まさに小娘なんかに負けるか、を根性にしているかのようだった。

 ただ、当たっている様子もなく、すぐにワームが竿先に返ってきていた。


「うーん。これじゃスレちゃうね。ゆん、場所移動でもする?」


「うん。釣るために今日来たんだしね。それじゃ由紀ちゃん、どこ行くの?」


 由紀は顎に手を置きながら、「そうだな〜」と頷きながら、

「船の影とか狙って見ようか。月光や外灯が明るいし、もしかしたら釣れるかも」

 ゆんは顔を「うん」と言いながら、縦に振る。

「そうだね。それじゃ最初の場所まで戻らないと行けないね」


「そうだね。だけど見ての通り、期待薄だし……。釣れない事には、今日来た意味ないしね」

 由紀は頭をポリポリとかいた。周辺にある荷物をまとめると、

「早く行こう。満潮時がチャンスだよ」

 由紀はゆんの顔を見ながら言った。



 赤灯台から、船が五台、六台と並んでいる、最初の場所まで戻ってきた。

 ゆんは竿の糸を緩め、針先を手の近くまでもってくる。不慣れながらも針にピンクのワームをつける。

「ここなら居るかな〜? ねえ、由紀ちゃん、どこ投げた方が良いかな? 」


 由紀も竿に付いている針に黄色のワームをつける。

「船の影、外灯が当たってる所とかの居るんじゃないかな、あ、痛い」


 由紀は人差し指から血が出ている。ポケットからテッシュを出して、指を押さえている。

 ゆんはチラリと由紀を見て、心配そうな顔をして由紀を見る。

「大丈夫? 由紀ちゃん、あー。痛そう……」


「ありがとう。大丈夫だよ。ゆん。少し押さえてたら止まるはず。痛たた。少し休憩してるから、ゆん、先に始めてて良いよ」


 由紀はニコリとゆんに笑みを浮かべる。ゆんはコクリと頷くと、海に向かい、船の近くに向かった。

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