第2話約束

 キーンコーンカーンコーン、という校内放送の予鈴の音が学校中に響く中、一人の足音が階段から聞こえてくる。

 ドアを勢いよく開けた人物であるゆんが、息を切らして立っていた。

 黒色の自慢のサラサラヘアーがいつもよりボサッとなっていた。


「せ……セーフ?」


 教壇に立っているジャージを着た担任がじっと腕組みをしながら、ゆんを見つめて、

「いや、アウトだろ。ホームルームが終わるまで廊下に立ってろ」


 無情にも、そう宣告されていた。教室にいた30人程の生徒がジッと見つめながらも、

 少しぐらい甘めに見てくれればという苦い表情で、ゆんが教室から出ていく。


 窓際の席にいる、由紀は顔を手で乗せながら、校庭を見つめていた。


______



 キーンコーンカーンコーン

 予鈴が終わり、担任が教室から出てくる。それと同時にゆんが戻ってきた。由紀は本を読みながら、ちらりとゆんを見て、口を開けた。


「もう少し早くきたらどう?また立たされるわよ」


 ゆんが由紀がいる前の席に座る。


「だって眠いんだもん。由紀ちゃんが起こしてくれるんだったら、早く起きるよ」


 本をパタンと閉じて、由紀はゆんを見て、ため息を吐いた。

「二度寝するでしょう。結局、この前だって……」


 ゆんは「えへへ」と自分の頭を撫でながら、笑みを見せた。


「ねえねえ、由紀ちゃん、今日釣具屋行かない?」


「良いけど、なんか買うの?」


「昨日の道具触ってたら、ワームを漬けてる液が漏れてて……」


「何やってんのよ……」


「気づいたら、バックの中、いや、部屋中がワーム液の匂いになっちゃった!てへぺろ」

 ゆんはほっぺに人差し指を置き、舌をペロッと出した。

 その瞬間、由紀はゆんの顎を手で掴んだ。


「何するの?」


「ごめん、つい……」


 ゆんが「ゴホン」と咳払いをすると、外の校庭を見ながら、遠い目をして口を開けた。

 まるで大切な何かを失った。喪失感がビシビシと伝わってくる。

「もう液漏れしない道具を買うの。それとバックも……。もうあんな部屋で寝るのはもう嫌なの!」


「自業自得でしょ。全く、だけど、ちゃんとした物にするのは有りかもね。ゆんって少し抜けてるところあるし」


「もうー!由紀ちゃんひどい」


 右手で手を合わせながら、右手をつぶり、

「ごめん、ごめん。一緒に着いて行ってやるから」


 それを聞いたゆんは満面の笑みを見せた。

「うん!由紀ちゃんありがとう。それじゃ放課後楽しみにしてるね」


 キーンコーンカーンコーン

 予鈴が鳴る音が聞こえる。もう1限目が始まるみたいだ。

「それじゃまたね。由紀ちゃん。寝ないで頑張るよ」


 由紀はゆんに手を振りながら、ゆんは席に戻った。教科担当の担任も教室に入ってきた。


「…………」


「zzz……」


「…………」


「zzz……痛(あいた)」


 担任の投げたチョークが、うつ伏せで寝ているゆんの頭に軽く当たった。

「そこ寝ない。まったく、あ、今のテストに出るからな」


「「「はーい」」」

 何人かが担任の返事を返した。ゆんは頭を抑えながら黒板に書いている文字をノートに書いている。

 由紀はといえば、誰もいない校庭を眺めながら、入ってくる風が妙に涼しく感じていた。

「私もお揃いの道具でも買おうかしら。ゆんの話聞いたら、心配になってきちゃったな〜」


 誰も聞こえない程度の声で、ボソリと呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る