ふぃっしんぐがーるず

誠二吾郎(まこじごろう)

第1話満月の夜。大潮

 大きな橋がライトアップされていて、満月の月が海を照らす。心なしか、夜なのに少し明るくも感じてくる。


 静かな波がぱちゃぱちゃと岸壁にあたる音がする。


「由紀ちゃん。釣れないね……」


 ゆんはそう由紀(ゆき)に言った。由紀は道具箱を取り出すと、竿に付いている仕掛けを黄色のワームからピンク色の物に変えた。そして、竿を持ち勢いよく仕掛けを海に投げ入れた。


「よし、これで良いわ。今度は中層で巻いてみるわ」


「頑張って、大物釣れるといいね」


「うん。ありがとう」


 ククッと竿がしなる。自然と肩に力が入る。

「これは……、ゆん。大物が釣れたかも……んん」


 由紀(ゆき)はそう呟くと、竿を上に上げて、リールを巻いている。それにつられてツインテールの金髪が揺れる。


 外灯に照らされている海がゆらゆらと揺れる中、キラリと背中の尾びれが見えてきた。

「メバルよ。ゆん、やったわ。30センチを超えてるわ」


「凄いよ。由紀ちゃん、頑張って!」


 ゆんはすぐ近くにあった、由紀の網を取り出すと、釣れているメバルをすくい上げた。

 ぴちゃ、ぴちゃと魚が跳ねる。まるでまだ泳いでいるかのようだった。

 由紀(ゆき)は「きゃー」と叫ぶと、腰を地面に下ろした。

「はぁ……、釣れて良かった。んー。針が取れない……」


「待って、私が取るよ」

 ゆんは由紀の持っているメバルを手に取ると、口に刺さっている針を抜いた。

そして、よだれを垂らしながら、釣った魚(メバル)を持ちながら見つめていた。


「……、せっかくだし、持って帰る?」

 そう、由紀はゆんに言った。にこやかな笑顔で「うん」と顔を縦に振った。


「だけど良いの?釣ったの、由紀ちゃんだけど、本当に?」


「別にいいよ。持って帰ってもさばけないし、ゆんならさばけるでしょ」


 ゆんは、右手を頭に置くと、「へへへ」と言ってから、コンビニの袋に魚を入れた。


「さばいて料理したら、LINEに載せるね」


「うん。楽しみにしてる。だけど前みたいにつまみ食いしないでね。見栄え悪いから」

 ニヤリと笑いながら、ゆんに言った。ゆんは由紀を見ながら、頬を膨らませた。

「そんなことしな……、多分しない……よ」


 ゆんの目が泳いでいる。ほぼほぼ作ってる最中で食べるんだろうなと思う由紀であった。


「それじゃ明日も学校だし、夜も遅いし帰ろっか」


「えー。ズルい。私釣ってないし。由紀ちゃんみたいに釣りたいよ」


 ゆんは由紀の手を持って、うるうると涙目で見る。

 由紀はゆんの頭を撫でて、ゆんを見つめる。

「……ファミチキ奢ってやるわよ。なんなら、フライドポテトもつけるわよ」


「え!良いの!じゃ今日は帰ろう。善は急げだよ由紀ちゃん!」


 道具を即座に片付けた、ゆんは、由紀の道具も一緒に持つと、由紀を急かす感じに、


「由紀ちゃん、早く、早く、ファミチキ、ポテト〜♪」


 由紀は一息吐いた。

「現金な奴め……、気分良く鼻歌を歌ってやがる。あ、待って、ゆん。網は丁寧に扱って……」


 満月の明かりを歩きながら、大きい橋が見える海を後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る